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They / after five

「ふう」

「おつかれ、フユカ」

「カケルも……」


 フユカはBDCをかぶったまま、しばらく自分の体を確かめる。

 足の指をもぞもぞ動かし、ふくらはぎ、ももの筋肉に力を込める。

 手の指を閉じたり開いたりして、肩を回す。

 胸を一揉みして、自分の体であることを確認して、ようやくBDCを外す。


「どうでもいいけど、最後のそれ、必要?」

「え? 見とったん? ……カケルのすけべ!」

「それは酷いな。ストレスの多い仕事だから、なんかおかしくなったのかと心配しただけじゃないか」

「そんなわけあるかいな。自分の体を確かめとるだけやないか」

「へえ、そんなものかな」


 もちろん、それだけではない。

 どうして自分の分身たるミズキ達が大人の体で、自分がこんな貧相な体なのか? 目下のフユカの一番の悩み事がそれだった。冷静に考えてみれば、12歳ならばそんなものかもしれないが、同世代と比べてもフユカはちょっと成長が遅い部類だった。

 オオサカにいて、だから生身ではあまり会えない母はそれなりに起伏のある体つきをしていたから、将来に期待できなくもないのだが、フユカとしては将来ではなく今が問題なのだ。


 ――身近に敵が多いもんなあ……


 と、心の中だけでつぶやいたフユカの視界に、敵1がこちらにやってくるのが入った。


「フユカちゃん、お疲れ様」


 フユカに声をかけてきたのは、成熟した大人の女性だった。ソウジ・レイノ、確か当年26歳、この間誕生日パーティを内輪でしたのをフユカは覚えていた。茶髪の長髪でウェーブがかかっているというのはフユカとキャラがかぶるが、レイノのそれはフユカと違って染めたものだ。

 ユバ・フユカはオオサカ出身だが、祖母が外国人だったのでちょっと日本人離れした雰囲気がある。天然の茶髪もそうだが、目鼻立ちもぱっちりとしていて、ちょっと西洋人形のような雰囲気も感じられる。

 その彼女が、口を開くとベタベタの関西弁なのはどう考えても似合わない。声も鈴を鳴らしたような美声なのに、出てくる言葉が「あかんわ、しんど」とか「しゃあない、なんとかするで」では初めて聞いた人がぎょっとするのも無理は無い。

 だが、彼女はオオサカ人の誇りというものを幼いながらも持っているらしく、決して口調を変えようとはしない。その辺りは、同じオオサカ出身であるが、なまりの全くないカケルと対照的だ。


「レイノさんも……あれ? 社長は?」

「ナミなら一足先に出たよ。研究所に用事があるらしい」

「責任者がそんなんでいいんかな?」

「まあ……ナミの仕事はほとんど営業だからねえ……研究所に顔が効くお陰でとれた仕事も多いから……」


 クズキ・ナミはこの会社の社長だ。社名も「クズキ・ネット・ガード」となっている。この場にいる3人とナミを含めた4人の零細企業だ。零細、とはいえ業績は順調で、それはフユカ達が使う機材が最新式の高級機である事からもわかる。

 この部屋は細長く、2m×7mほどの長方形の空間だが、そこにスリーパーが2台も入ると、半分近くが占拠されてしまう。高級機だからといって、カケルという異性がいる以上は裸で使うわけにもいかないので、し尿処理、血行促進、筋肉刺激等の機能は役に立っていない。バイタルチェックは専任の医者であるレイノが行っているので、フユカが受けている高級機の恩恵は、空調がしっかりしていることと素材が高級であることぐらいだ。

 部屋の残りの半分は、レイノとナミの仕事机、それとミーティング用のテーブルで湿られていた。ミーティングテーブルの奥と左側に扉が1つずつある。そのどこにも責任者であるはずのナミの姿は無かった。


「そういうもんか……確かに仕事多いもんね」

「そうそう、だからナミも遊んでるわけじゃないのよ。そういえば、今日はちょっと危なかったんじゃない?」

「俺もしまったと思ったよ。まさかミズキの力を使うはめになるとはね……」


 カケルがノート型の端末で忙しく作業しながら相槌を打つ。


「どうする? メモボックスいじる?」


 メモボックスというのはミズキ達の記憶を映像の形で保管している装置だ。これがあるお陰で、ミズキ達はフユカと共有しない、独自の記憶を保持することができる。

 フユカはシーダ・ドライバだ。

 シーダ、すなわちControlled Ego Divide Abilityは、その名の通り人格を分割する能力だ。日本語では最後のAbilityを能力と訳して、シード能力やシード技術という言い方もする。また、シーダ・ドライバのことを単純に「~する人」というerをつけてシーダーと言うことも多い。

 多重人格、あるいは解離性同一性障害として知られている症状がある。苦痛に対する防衛として、それらの記憶を切り離し、他人の受けた苦痛だと思い込む解消法がある。その切り離された記憶が、成長、増大して一つの人格になって表に出る場合がある。そうすると、一人が複数の人格を持つように振る舞ってしまうのだ。当然、他者とのコミュニケーションに障害を発生するし、情緒が不安定になりやすい。厄介な病気といえる。

 アメリカ、ロサンゼルスのリグマイケル病院での、この症状に対する研究がシード技術の発端だった。

 1つの体を複数の人格が支配する事が問題なら、ネットで人格数分のアバターを作り出して、それぞれが1つの体を動かすことで情緒安定がもたらされるという仮説だった。いったん安定すれば、そこからは対話で説得し、治療出来るのではないかと考えられたのだ。

 元々1つの体なのだから、どうやって複数のアバターに複数の人格を展開するのかについては、黎明期のBDCを改良することで対処した。むしろ、BDCの発明がこの実験の着想につながったらしい。

 結果は、成功と失敗が混在した。

 目論見通り情緒が安定し、対話によって納得して多重人格が解消した例もあった。だが一方で、アバター同士が元の体の主導権を争って殺し合いを始めたケースもあった。全体としては、実用化にはまだ乗り越える壁が多いという評価だった。事実上は失敗扱いだ。


 このまま医学史の中に埋もれると思われたこの技術に目をつけたのはネット犯罪者だった。ユニネット仮想空間は厳密で、現実とほぼ同じ物理法則が適用される。だから、金庫破りや破壊活動も適切な器具があればできるのだが、一つだけ犯罪者に取って難攻不落の法則があった。人数制限である。

 特定の区画に、ユニネットを通して入れるアバターの数を制限するプロトコルが、犯罪を防ぐのに力を発揮した。戦闘にしても作業にしても、人数が多ければ効率がいいし、少なければ難しい。外からは1人しか入れないならば、人数制限の無いローカルから入っている警備員達にたちまち取り押さえられる。

 それを覆したのがシード技術だ。昔似たような機能を果たした機器になぞらえてルータと呼ばれる機械を一人が持ち込み、人数制限区画の中で人格分割をすれば、この制限を無視して多くのアバターを使うことが出来た。しかも元が同じ人間なのだから、息のあった行動を取ることが出来、これを使い出した当初は犯罪者側が圧倒的な力を有することになった。

 対策が後手に回ったのにはもう一つ理由がある。警備員といっても所詮は平和な現代の民間人だ。戦闘に特化した人格を作り上げてくる犯罪者には人数の利を得ても勝率が高いとは言えなかった。

 そうして、守る側にもシード技術が導入され、ただ使える人間が限られている為に専属で雇うようなことは出来ず、「クズキ」のような専門の業者に委託するようになったわけだ。


「うちは反対! 別に仲悪くなっとらんもん」

「そうよね……本人がそう言うならいいか」

「まあ、本人といってもフユカとミズキたちは別個の存在だけどね……」


 そう、病気としての多重人格とシーダーの違いがここにある。シーダ発動中には主たるドライバの意識は眠りにつく。動かす体がなく意識がはっきりしているというのではなく、文字通り夢うつつの状態でいるらしいのだ。

 だから、ミズキ達がフユカの記憶をすべて持っているわけではなく、またミズキ達もフユカに隠したいことがあったら圧縮映像という形でメモボックスに封印してしまう。

 特に、ドライバのフユカが年少なので、ミズキ達は教育上封印すべき記憶が多いらしい。メモボックスの容量も肥大化していた。とはいえ、機材は豊富だから大した問題ではなかった。問題は……


「戦略パターンが変わりそうだなあ……」


 カケルがぼやく。それに対してレイノが反駁する。


「むしろ楽が出来るんじゃないの? 戦力自体は上がっているわけだし……」

「それより、慣れたパターンが変わることの方が大きいですよ。今までと要求されるタイミングが変わったり……なんか俺一人が苦労しそうです」

「それがあなたの仕事なんだからしょうがないわね」


 カケルはシーダ・ドライバでは無い。仮想空間に出ても役に立たないのだ。もちろん、彼自身には卓越したプログラミング技術や他の能力があるのだが、いずれにせよバックアップ担当だから掌握すべき戦力が変わるとそれに対応しなくてはいけない。


「”m”が入った戦術パターンなんてネットにも参考資料転がってないしなあ……」

「”ss”ぐらいの希少価値だから、あるわけ無いと思うわよ」

「”ss”……ソシアブラですか……」


 ソシアブラは世界で100人いない。”m“持ちのシーダーは確認されている限りは30人前後だからそれどころでは無い。ただ、実際には犯罪組織側のドライバについては推測でしか無いし隠れた能力者もいるだろう。かく言うフユカ自身が、実は公には”m”持ちであることを伏せているのだ。

 “m”、つまりマスタークラス。いわゆる人間の熟練兵士レベルを基準にして、それをはるかに超える身体的能力をアバターで再現できる仮想人格に与えられるランクだ。フユカのドライバとしての能力を、正確に言うと”αm1-βa2b1”ということになる。これは、「αレベルにあるmクラスの人格1つ、βレベルにあるaクラスの人格2つ、βレベルにあるbクラスの人格1つ」を仮想空間に出現させる事ができるという意味だ。おおまかに言うと、一般人レベルがβ、それを超える能力がαということになる。αに分類される人格は”m”と”ss”、それと”ss”の前提となる”s”のみだ。最も、ソシアブラはシーダを使えないので、彼ら自身はこうした言い方はしないだろう。シーダ・ドライバの用語的に言うと、ソシアブラは”αss1”ということになる。


「そうそう、たとえ実務では解禁するとしても、ランクは”βa3b1”のままだから、注意してね」

「わかってます」「フユカも」「おっけー」


 歳相応の無邪気な返事をするフユカ。元々ランクを隠しているのはその年齢こそが原因なのだが……

 教育が効率化されたとはいえ、社会に出て働き始めるのは早くとも15歳である。その意味で12歳のフユカがこうして世界最前線の仕事をしているというのは実はあまり良くない。能力的には問題がなくとも、対面的に良くない。幸い、クライアントに直接会うことは無いのだが、なるべく目立たないほうがいいだろうということで、こうした次第になっているのだ。


「さて、じゃあ今日のところは撤収しますか」

「カケルくんお願いね」

「了解です。固定の方はレイノさんに任せていいですか?」

「大丈夫よ」


 そしてカケルは奥の扉、2mほどの短い壁の左端にあるドアに手をかけた。構造上衝撃で開いたりしないようにしっかりした造りのそれを開けるのに、カケルは力を込めなければいけなかった。

 扉の先はガラス張りの部屋だった。いや、一方向に向けられた座席、そして申し訳程度に存在する丸いハンドル、ここは運転席だ。彼らが仕事をしていたのは大きなトレーラーハウスのようなものだったのだ。

 たとえシーダ・ドライバがいようとも、ユニネット側から入るのでは逆にこちらも人数制限プロトコルに引っかかってしまう。中にいる賊のせいで防衛側が入れないのでは本末転倒だ。だから、防衛を担当するネット・ガードはデータセンターの内部回線を使って仮想空間に入ることになる。

 近頃のデータセンターにはこのようにトラックを改造したネット・ガード用の駐車場が備え付けられているのが普通だ。場合によってはすぐに次の現場に移動しないといけない関係上、ネットとの接続端子と電源端子だけが存在する殺風景なコンクリートの空間。運転席は外からの黄色い照明で照らされて、それなりに明るさがあった。


 社内で運転免許を持っているのは社長のナミとカケルの2人。もっとも、今ではソフトの進歩が著しいので運転手が何かをする必要はない。単に運行責任者として最前列に座るというだけのことで、ハンドルも控えめなものが付いているだけだ。車庫入れの時以外に触ることは無い。

 一応運転手ということだから、居眠りしたり本を読んでいたりすると、たちまちセンサーに見つかって警告を受け、車が止まってしまう。だが、そのへんは一流ハッカーでもあるカケルだから、センサーが反応しないように改造済みだった。


「ドラマも……めぼしいのは見たから、ニュースでもチェックするか……」


 すでに、アニメと実写の区別はなくなって、ドラマと呼ばれている。どっちにせよ仮想空間でアバターを使用して制作されるだけで、後はアバターのリアル度に差がある程度で、それもいろんな段階があるのでどっちに区分されるのか大論争になった作品もあった。制作のハードルが下がったことで、粗製乱造されたこともあって、レビューなしでは多大な時間を無駄にすることにもなる。

 と、会社の事務所、というか契約している駐車場にもどるまでの時間の潰し方を考えていたカケルに、後ろから腕が伸び、背中から抱きついてくる姿があった。振り向いて見るまでもない、こんなことをするのはフユカだけだ。


「カケル、なんかお話しようよ」

「ああ、うん、いいよ」


 どうせカケルにとっては暇つぶしが必要なぐらいだ。カケルにはなぜかわからないが、フユカはカケルによく絡んでくる。同じオオサカ出身という親近感……ではないだろう。なにせ、最初に顔を合わせた時に、「オオサカ弁を使わないなんて、あなたには誇りは無いの?」と問い詰められたぐらいだ。

 カケルはオオサカとはいえ北部の出だ。どちらかと言うと他から移ってきたものが多いため、イントネーションはそれっぽいが文字で書くと標準語と区別が無いしゃべりが地元では普通だった。

 だけど、それ以外ではカケルはオオサカの文化を尊重している。節分の巻きずしも、七夕のお好み焼きも、十五夜のたこ焼きも毎年必ず食べる。しゃべり方以外は全く典型的なオオサカ人だから、初対面のフユカにそう言われて、しばらく険悪な仲だったのを覚えている。

 最初は良くない雰囲気だったが、しばらく仕事を一緒に続けていくと、最初はその能力に驚き、年の割にしっかりしていることに感心し、いつしか重要なパートナーとして信頼するようになった。それにともなっていつの間にかフユカの方もカケルになついてくるようになった。

 シーダーとミューマー、両ドライバのパートナー関係は、一般的にはずっと続くことになる。ペアの組み直しをしたらそれまでの力が発揮できなくなったという例はいくらでもある。だからこの仕事を続ける限り、高い確率でカケルはフユカとペアを組み続けることになる。

 他愛の無い話でお姫様のご機嫌を取りながら、カケルは流れていく風景に目をやった。

 トウキョウの中心部からは遥か北、いつでもデータセンターは都市から離れている。

 この辺りはかつての住宅地だったのだろうか? 大通りに面して高いマンションが立っているが、夜だというのに明かりが付いている窓は少ない。日本は今世紀の始まりをピークにして、現在ではかなり人口が減った。最も減少率が高かったのは、実はトウキョウやオオサカ、ナゴヤといった大都市圏だった。仕事も娯楽もユニネット越しで済ませられるようになったら、あえてゴミゴミした都会に住む必要がなくなったのだ。

 そんなわけで、かつては首都トウキョウへの通勤圏であったかもしれないこの辺りは、住人の現象が著しい。


「荒れてるね」

「そう? きれいなところだと思うけど……」

「確かに、見た目はね……」


 別に舗装が剥げているとか、街灯が切れたままになっているというわけではない。道にゴミが散らばっているとか乗り捨てられた自動車が見えるわけでもない。


「……だけど、そこに人がいないと、どうしても目が行かないところがあるんだよ」

「そうなん?」

「多分、一つ裏道にはいったら結構ひどいことになっていると思うよ」

「いつも通りすぎるだけやから、わからへんね」

「そんな危ないことをさせられないよ」


 表通りからは見えなくても、裏でどうなっているかはわからない。最近ではそういう寂れた町に犯罪組織の拠点が密かに築かれているという話も、カケルは聞いたことがあった。もっとも、生身を相手にして暴力を振るう系統の犯罪者ではなく、ネット犯罪者が多いそうだが。


「……というなんだけど、ネット犯罪者がリアルは打って変わって品行方正だとは期待しない方がいい」

「ちゃうで」

「え? 何が違うの?」


 もしかして、フユカは品行方正なネット犯罪者を知っているのかも知れない。


「リアルって言い方はあかん」

「……ああ!」


 カケルはそうでもないのだが、ネットで仕事をしているものの中には、「ネット・リアル」という言い方を嫌う者が多い。


「ネット外、だね」

「そうそう、それでええ」


 特に、シーダ・ドライバは、ネット上でしか存在できない仮想人格の味方な見方をする傾向がある。フユカもその例に漏れてはいなかった。


「ネットの中も、今この場所も、あり方は違うけどどっちも『リアル』ということだね」

「わかってたらええんや」


 偉そうに助手席で胸を張るフユカ、張っても目立った膨らみは確認できない。

 そこから話題は、今日の夕食の事や最近のドラマのこと、音楽のことなどフユカの主導であちこちに飛んだ。だが、振り回されながらもカケルは退屈しなかった。


 トウキョウ湾岸まで高速を通り、港に近い定位置に車を止める。塩害対策が必要になるが、その分賃貸料が安い。また、北、東、西とどちらの方にも交通の便が良い。


「うわあ、バッテリーがギリギリだったよ。そろそろ本格的に整備したほうがいいんじゃないでしょうか?」

「ああ、わかった。ナミに言っておくよ」


 会社の女性3人は、実はこの近くで共同生活をしている。後で戻ってくる社長への伝言を頼み、カケルは車の充電用の配線作業を始める。バッテリーの性質自体は100年以上前から変わっていない。急速充電よりも時間をかけた充電のほうが効率は良いしバッテリーの痛みも少ない。急速充電用の高圧光電流対応の端子もあるにはあるが、カケルとしてはなるべく使いたくなかった。

 本当は、ネット・ガードの仕事は24時間休みなしなのだが、「クズキ」は幼少のフユカを使っていることもあって昼間の仕事しか受けていない。今日の現場も後を夜番のネット・ガードに引き継いできたのだ。侵入者は世界中から来るのだから、特定の時間が忙しいということは無いのだが、やはり夜間の方が割はいい。

 無理して稼ぐ必要は無いのだが、いずれ夜の仕事も受けなければいけない時が来るかもしれない。まだ先の事だろうが……


「こっちは終わったよ」

「ちょうど配線も完了しました」

「じゃあ今日は解散だね。お疲れ様」

「はい、明日は10時でいいんでしたっけ?」

「そうだね。今のところ出動の予定は無いから、ここで待機かな。まあ、最近忙しかったから、たまにはそういう日があってもいいかねえ」

「わかりました」

「じゃーねえ、カケル」

「フユカも、仕事が無いからといって夜更かしするなよ」

「わかっとるわ!」

「その辺は、私が責任を持つから大丈夫。社員の健康面は私の担当だし」

「お願いします」


 そうして、本日は退社となって、カケルは2人と別れて、自分の家に向かった。といっても、狭いという違いはあるが社長達のマンションとそれほど離れていない。休日にばったり会うことも珍しくない。

 職住近接が実現されているのは喜ばしいことだが、プライバシーが保たれていないことは問題かもしれない。よくフユカが来襲するし、向こうに呼ばれることも多い。いや、それはそれでカケルとしてはうれしいことだったが……


「そういえば……」


 帰りのフユカとの話題になっていたが、明日は7月7日だ。オオサカ人としてはお好み焼きを作らないといけない。


「ソースは残って……ああ、そうだった」


 明日はフユカの強烈なリクエストによって社長のところでもお好み焼きだった。カケルもそこに呼ばれていた。


「じゃあ、むしろお酒でも持っていくか……」


 カケルも18歳なので法的には飲んでいいのだが、あまり好きではない。フユカは未成年だし、実はレイノさんはああ見えて下戸だ。結局社内で酒飲みといえるのは社長のナミさんだけ。普段は真面目だし、酒を飲んでも乱れるということは無かったが、消費量はかなり多かった。


「ビールでも冷やしておくか」


 カケルは帰りのコンビニで今夜の食事と共に、ビールの6缶セットを買い求め、帰宅した。


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