第01話 出会いは全て必然
「……」
少女はレインコートを着たまま静かにその場に立っていた。
黄色のテープが張り巡らされ、そして制服を着た人たちが人避けをしている。
少女は覗き込むように、身体を動かした。
身体を動かしながら少女の両耳から聞こえてくるのは、不可解な言葉ばかり。
「また突然死ですって……一体なんなのかしら?」
「さぁ……怖いわねェ……」
「……」
『突然死』
最近その単語を聞くことが多くなった。
身体を動かすことを止め、ジッとその場を見つめていたその時、そっと右肩に暖かい手が触れる。
振り向くとそこに笑みを浮かばせた一人の青年が居た。
青年は少女が振り向くと、笑みを浮かばせながら答えた。
「ここに引っ越して一年経ちましたが、最近物騒な事件が多いですね。どうして『突然死』なのか……」
「ねぇ、ミル」
「はい」
「もしこれが事件だったら、ある意味面白いよね」
「それはどうして?」
「だって、わかるんだ」
少女は青年に振り向いて、そして笑った。
「だって、『人間』とは違う、別の匂いがするんだから」
* * *
「……」
柊奈々子『ひいらぎななこ』は困っている状態だった。
彼女は長髪の髪をみつ編みで整え、黒いフレームの眼鏡をかけ、黒いセーラー服を着ているからこそ、クラスの人たちからは『地味子』と呼ばれている始末。
そんな『地味子』はイジメを受けていた。
毎日のように上履きが汚れており、教科書は破り捨てられてしまい、そして今日は帰り道に水をかけられた。
だけど反論できなかったのだ。
きっと、何かを言ってしまえば、反論してしまえば、めんどくさいことになるのは間違いないのだからと。
「……どうしよう。お母さんになんて言えばいいんだろう……」
奈々子の母は優しく、穏やかな性格の持ち主だった。
自分自身がイジメを受けていることは全く知らない。
悲しませたくないという事で喋っていないのだ。
だけど今回だけはどう言い訳すればいいのかわからない。
昼時までは雨は降っていたから言い訳できたが、今の時間は綺麗な夕焼けが見え、雨など降っていない。
ため息を何回も吐きながらある公園のベンチをうろうろしていた。
とりあえず奈々子が考えたのは、みつ編みを解き、髪の毛を拭くことを考えた。
長い髪を晒した後、鞄からタオルを取り出そうとしたときだった。
「おや?珍しい人が居ますよ闇様……こんなに綺麗な天気なのに全身が濡れている女性がいらっしゃいます」
「あ、本当だ」
「っ!!」
背後から興味津々と言う感じの奈々子を見ていた人物が居たのだ。
驚いて振り向くと、そこには奈々子にとっては超絶なる美形の男と、かわいらしい十代ぐらいの女の子が居たのだ。
笑みを浮かばせながら青年は奈々子が濡れている理由がわからず、首をかしげている。
一方の女の子は同じように首をかしげた後、楽しそうに笑っている。
「お姉さんもしかして水浴び?それだったら止めておいたほうがいいよ……だって、今冬だから風邪ひいちゃうしー」
「べ……別に好きで濡れちゃったわけじゃないわよ!!」
「ふーん……ミル、タオル持ってたよね。貸してあげて」
「承知いたしました闇様。えっと、確かこのバックに……」
「え……」
面白がって笑っていた少女は笑いながらタオルを貸してくれる。
青年が出したタオルはうさちゃんがたくさん描かれていたかわいいタオルだった。
一瞬戸惑ってしまった奈々子だったが、渡されたタオルをそっと受け取ると、笑みを浮かばせながら青年は答える。
「闇様が経営していらっしゃる『店』の新商品のタオルです。良かったらもらってください」
「そうそう。お姉さんと出会ったのはこうして何かの『縁』ってやつだし」
「え……で、でも」
「僕は鈴木闇だよ。僕の隣に居るのはミル。ミルディスって言うんだ」
「よろしくお願いします、お嬢さん」
「……ひ、柊、奈々子です」
いつの間にか自己紹介と言う形になってしまっており、奈々子はもう何がなんだかわからなかった。
そもそも、この少女は何者なのだろう?
もしかすると、どこぞのお嬢様なのだろうかと考えてしまった。
(だ、だって、この子の事、『様』ってつけてるしね……)
「え、えっと、闇ちゃんって呼んでいいのかな?」
「うん。じゃあ僕は奈々子ちゃんって呼ぶね。奈々子ちゃん結構ずぶ濡れだね……よかったら僕の『店』に来ない?」
「お店?」
「そ……僕は経営する『店』」
少女、鈴木闇は笑みを浮かばせながら答えた。
「何でもありのお店、『パラダイス』へ♪」