軽く叩いても感じません
子供にはちゃんとマスコットとの付き合い方を教えましょう。
ショッピングモールの中を桃色のクマだかネコだかよく分からない着ぐるみがフヨフヨと歩いている。目は離れていてどこか虚ろに見える顔、洋なしのように膨らんだ身体は安普請なのか、使い込んだためか、フォルム全体に張りがない。そこから生えた短すぎる手足がさらに微妙なものにしている。造形的にどうかと思うのだが子供のツボには填るらしく、すでに四・五人の子供に囲まれていた。四歳になる娘も目を輝かせてその謎の生物に向かって走っていく。何故か一緒にいた鈴木薫も同じように嬉しそうに娘の後を追いかける。
今日は妻の香織と娘と友人である薫と四人でショッピングモールに来ていた。彼女の就職祝いをかねてレストランで食事する事にしたからだ。元々は妻の親友だった彼女だが、気が付けば俺達夫婦にとって最も近い友人となっていた。いや、家族の一人となっていた。
本当の妹であるかのように妻と笑い合い、娘とじゃれあう。娘はもう一人のママと思っているようで懐いている。そして彼女がふざけて俺達の事を「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶことでなんかそういう関係となっている。そう呼ばれる事が何とも照れくさく、くすぐったくなるような気持ちで聞いているが、意外と嫌ではなかった。
香織は無邪気な娘と薫の様子を微笑ましそうにクスクス笑いながら見ている。俺もあまりにも自然に子供の集団にいる薫に苦笑しつつ、娘を見守る為に遅れて近付いく。
出遅れた為に、背後から迫るしかなかった娘は遠慮がちにそのドデーンとしたマスコットのお尻をポンポンと叩く。しかしそこに神経があるわけもなくマスコットは娘に気付いてくれずに前にいる子供にだけ愛想を振りまいている。
「ルーちゃん、駄目だよ! こういった子らはね神経鈍感だから、めり込ませて中身まで掴むくらいつよ~く握りしめないと気付かないから!!」
薫は、マスコットに振り向いてもらえず寂しそうな娘にそんな事を力説している。
「中身?」
娘はキョトンとした顔で、鈴木薫を見上げる。
「そ、ギュウっとめり込むまで手を突っ込んで中の肉を強く握るの!!」
その会話をマスコットと近くにいた補助員が聞いていたようだ。補助員がマスコットに慌てて声をかける 。
「ほら、ぷらネコちゃん、後ろにもお友達が!!」
マスコットらしくない機敏さで『ぷらネコちゃん』は振りかえり。娘に慌てたように愛想良く挨拶してくる。
気付いて貰えて楽しそうに『ぷらネコちゃん』と遊ぶ娘を鈴木薫がスマフォで撮影し無事楽しい交流が終わったようだ。
満足気な顔で戻ってくる娘と薫。二十以上歳が離れている筈なのに、なんで同じように無邪気な笑みを浮かべているのだろうか? と俺は思う。
「薫さん、変な事を娘に教えないでくれ……」
そう注意する俺に、何処が? という感じで薫は顔を傾ける。
「だって、アイツら表皮に神経がないんだもの! そうでもしなきゃ気付かないって!」
『ヒョウヒって何?』と聞く娘に、香織は苦笑しながらしゃがみ娘の頭を優しく撫でる。
「あのね、ルーちゃん、そんなギュウっとしたら痛くて可哀想でしょ?
大声で『コンニチハー』って挨拶したらいいから」
優しく言い聞かせる香織の言葉に『分かった!』と良い子に返事する娘をみて少しホッとする。
「元気なのは良いけれど、乱暴者にはしたくないだろ?」
そっと、薫にコッソリそう話しかけると、此方も納得したように頷きニカリと笑う。
「はいはい♪ 了解」
見た目はクールビューティーで、薫の中味は大ざっぱで能天気。女の子としてどうかと思う所か多い。穏やかで大人しい妻といるから余計にそう感じるのかもしれない。
「ルーちゃん、アッチでお菓子を配ってるよ、出遅れたら大変! ブーンと行くよ!」
薫は娘を器用に片手で 抱き上げて、そちらに走っていく。
「タイヘン、タイヘン、ブ~ン!」 娘はキャッキャと笑っいながら、いつもより高い視野で動いていく景色を楽しんでいるようだ。薫は、妻と違って娘とアクティブに遊ぶので彼女と会った後は、高い高いや抱っこといった要求が娘から増えるのが少し困った所。俺がいるときはいいが、小柄で非力な妻にはかなり大変そうだ。
しかしこうして四歳児の娘と一緒に無邪気に遊んでいる姿を見ると、妙な錯覚を覚える。
「俺達って、娘が二人もいたか? 知らない内にやんちゃな姉が増えてないか?」
香織がフフフフと笑う。
「今日は上の娘が立派に育ったお祝いの日と言うことね、感慨深い筈ね!」
香織は悪戯っぽくそんな事を言ってくる。香織は優しいだけに、娘にも薫にも甘い。薫のその快活さは好ましい所ではあるが、社会人となればガザつさは直すべきだろう。この大きい娘にも、もう少し女性らしさというのを教えていかないとな、と俺は溜息をつく。そんな大きい娘がいると思うと、なんか凄く老けた気がした。
※ ※ ※
ぶらネコちゃん
とある都心型ショッピングモールのマスコット
ブラブラ気儘にショッピングするのが大好きな心優しい女の子。
ネコなのに何故か犬をペットとして飼っているようです。
コチラ実は【ピースが足りない】という作品の後日談として執筆し【零距離恋愛】にて公開されていたものです。
実は最も最初に書いたマスコットモノだと気が付きコチラにも再編集させて頂きました。
ちなみに鈴木夫妻(賢司・香織)と鈴木薫は苗字は同じですが、三者の間に血縁関係はありません。鈴木という名の主人公が悩みを抱えて悶え苦しむというシリーズの為、主人公がほぼ皆【鈴木】となっています。
この夫妻と娘、そして薫がどういう関係なのか気になる方は、そちらも読まれてみて下さい。




