そんな時代もあったよね
得意顔で俺の感想を待っている目の前の新人を前にため息をつく。俺の反応にその表情は「あれ?」というモノに変わる。
「君はコレで、何を示したいの?」
俺の質問に、新人は頷き小さく一呼吸してしゃべりだす。
「一早く最新の技術を取り入れサイトを展開する事で、クライアントのサイトに斬新なインパクトを与える事が出来ます。それにわが社の技術力の高さも証明できますし」
俺は、彼なりに頑張って作ってきたであろう企画書をパサッと置く。
「示したいのは、君の自己満足だけではないのか? いいかサイトを作る時の基本は最新の技術を駆使して複雑なサイトを作ることではない。クライアントがアピールしたいモノを、見に来てくれた人にストレートにいかに伝えるかというのが大事なんだ」
『自己満足』という言葉に新人はムッとした表情になり、何か言えば言うほどむくれてくるのが分かる。ゆとり世代、さとり世代の指導には、気を遣う面倒な事が多い。
「君が、常に新しい手法に取り組み、それを生かそうという姿勢は素晴らしいよ。そこは評価している」
俺は少し褒めの要素を挟んでみた。根が素直なだけに、途端に少し嬉気な顔になったので俺は続けることにする。
「ただな、世の中の人が皆この技法に対応したパソコンを持っているわけではない。もちろんOSやバージョンによって代替えのパーツを表示させる事は出来るが、そんな事をしているとサイトがどんどん重くなる。それにその分メンテナンスも手がかかる。それに重いHPは致命的だぞ!
サイトを見るために新しいプラグインをコチラのサイトからDLして下さいと指示されて手間がかかるようなサイトを君は見たいと思うか? そんな事でバックされたら困るんだよ」
俺の言葉に少しは納得してくれたのか、小さく頷く。しかし不満そうな顔は相変わらず。
「君はさ、アップルの製品が何故クールと呼ばれるのか分かるか? 決して最新技術を駆使しているからではないぞ」
この新人は今まで自分の趣味として様々な事を吸収して勉強してきただけに、技術力は高いもののビジネスという意味での活かし方、顧客に対して向き合うというのが足りていないのだろう。
「シンプルに徹しているからだ! 初めてみた人でも理解できる。直観だけで操作できる。アレコレ取説を手に奮闘させるなんて無駄な事をユーザーにさせない。その姿勢ってすごいと思わないか?」
下手なダメ出しよりも、こういう良い見本を示す方が効果がある。彼もアップル製品を持っているだけに、納得できたのだろう。
『もう一度、企画を練り直してきます!』と目にやる気を漲らせて去っていった。俺は妙に力の入った背中がなんか微笑ましくて笑ってしまう。青臭い必死さは嫌いではないからだ。
とはいえ、最近の若者の作るものは、小手先のテクニックは達者だが、何ていうかハジけていない。そこに寂しさも感じる。『昔は良かった』とか『最近の若者は』という言葉は使いたくないが、そう思う事が最近多い。そんな俺がふとした拍子に思い出すのは『カールス君』。思い出すというと、まるで亡きし人物の事を言っているようだが、『カールス君』は未だに健在の某公務団体のマスコットである。そして別に特筆すべき点もない、黄色くて丸くて普通に可愛い犬のマスコット。俺はマスコットに萌えを感じて喜ぶ人間でもないのに、何故このマスコットの事を印象深く覚えているかというと、実は一時期この彼が、今の時代だったら考えられないような扱いを受けていたからである。
昔といっても、そこまですごく昔でもなく、平成になってから世の中が無駄に浮かれていた時代の事。その時代はWindows98とかアイマックとかが発売されネットというモノがようやく一般化した時だった。その為各団体がこぞってHPというものを作るようになった。その時代のHPというのは、まだまだセキュリティーとか、プライバシーマークの問題といった意識も低いこともあり、かなりフリーダムでシュールなサイトが多かった。
とある馬肉屋さんのサイトでは、トップに『美味しい馬肉はいかがですか?』という文字とともに表示されている画像が『馬肉と馬の生首がのったまな板の後ろで包丁もってニッコリ笑った親父』というもの。この写真を見て、『わ~馬肉食べてみたい! 美味しそう♪』って思う人がいるのかかなり怪しい状態である。俺は『ゴットファーザーかよ』と画面に向かって突っ込んだものである。
そんな時代に出会ったのはこの『カールス君』。おそらくはパソコンが少し得意な若手に丸投げして作らせたモノだったのだと思う。その某公務団体の活動をカールス君が真面目に紹介しているサイトなのだが、そのカールス君が恐ろしい状態になっている。その団体職員なのにカールス君のデジタル画像が手に入らなかったのか、サイト管理者がマウスで書いたのをUPしたらしい。そしてそれは三歳児が描いたかのようなクォリティー。『カールス君』と名前をふってあるが、ビコビコのラインで描かれた目の焦点も合っておらず、歪んだ丸い謎の生物。元々の可愛いながらも凛々しさを感じるカールス君とはどうみても同じマスコットには見えない。それがクタ~として骨折れています? という方向に曲がった腕を上げて、『ようこそ~○○○のHPへ』と迎えているのである。
当時まだ学生だった俺だが、よくそんな堅い団体のサイトで誰からも止められず公開されたなと感心したものである。そしてその恐ろしいカールス君は、事態に気が付いた上司のストップによって消えていくだろうと思っていた。
しかし次に見た時に、俺はさらに驚愕する事になる。カールス君は相変わらずいたが、今度は色が付きサイズも一回り大きく成長していて、虚ろだった表情に二コリ笑顔とした表情も少しついていた。しかし絵の稚拙さは相変わらず、焦点の定まらない目が怖い。
さらに半年後、カールス君は更なる進化を遂げていた。なんとGIFアニメで動くようになった。とはいえ絵は相変わらず拙い為に、より異様さがアップしただけである。見ている人の何かを奪うような怪しい動きを見せるカールス君を、俺は茫然と見続けるしかなかった。その後も影を少し入れていたり、背景の色抜きを覚えたりと、カールス君を描く技術は向上していくのに、絵の能力は一向に上がらず、ページ毎に違ったポーズで出迎えるようになり、そのカールス君は増殖していった。
その後就職して、忙しくなりカールス君の事など忘れてしまっていた。そして久しぶりにその団体のHPを見ると、公式のちゃんとした可愛いカールス君になっていた。俺はなぜか、その事に大きなショックを覚える。サイトも何処か洗練された感じで美しくなっていたのに、以前の怪しいカールス君がいるサイトの方が面白く魅力的に感じたものである。
あの時代のあの空気、今となっては懐かしい。
必死にパソコンに向かい修正案を作成している新人に視線を向ける。あのカールス君くらい、インパクトのある突き抜けたモノを企画してきたなら、見所も感じ『その調子で頑張れ!』と背中押してあげた事もあったかもしれないなと思う俺が可笑しいのだろうか?
今回の物語は、半分実話で某団体のサイトのマスコットが素晴らしかった時代があります。
そこの団体は日本各所に支部があったのですが、書く支部がそれぞれ違った方向でイッちゃってて面白かったです。
今の時代は、マスコットも著作権の問題や、公式以外のモノを使えないなど制約も多くて、そういう面白さってなくなりましたよね。




