昨日の知人は、今日の敵?
前話の物語に出てくるアイドル、東城理玖と同じアイドルグループのメンバーが主人公となっています。少しだけ物語が繋がっております。
同じ芸能事務所の他のグループは、プライベートでも飲みにいったり遊んだりするほど仲良しな人達もいるが、俺の所属している【シャトーズ】は一緒に遊ぶどころか楽屋でも会話を殆どしない。仲が悪いという訳ではなく互いにそういう意味では感心があまりないだけ。
それもそうだろう、音楽好きが意気投合してバンドを組んでというのではなく、苗字に【城】が入るというだけで組み合わされただけのメンバーで、社長に『お前達は今日から【シャトーズ】だ』と突然言われて組んだ関係。しかも研修生時代から別格の輝きを放つ居城彗がその中にいる事で、抱き合わせに使われたというやっかみと、アイツには敵わないという諦めと、これを逆にチャンスと捕え燃えてくる闘志が交じりあっているために、和気藹々しろというのも無理な話。
俺こと【西城貴樹】は陽気で人懐っこいと言われる性質で、場を盛り上げるのが得意。それゆえにメンバーの中でも結構目立ち、五人の中でも二番目か三番目に人気はあると思う。 CMは居城のように多くはないが、親しみやすく楽しいキャラで様々な番組に呼ばれる事も多く、四人の中では一番仕事も多いと自負していた。
そういう事もあり、お昼の情報番組内の【我が城が日本一!東西城対決!】というコーナーを任されることになった。内容は俺と同じシャトーズのメンバーである【東城理玖】が様々な日本の城を巡り紹介しドチラの城が素敵かを競うというモノ。俺が西日本担当で、東城が東日本担当。事務所が【シャトーズ】を印象つけるために持ち込んだ企画で、シャトーズの中でイマイチ存在感の薄い【東城】を俺と組み合わせる事で少しでも目立たせようとする為のモノだったのだろう。東城は姉が勝手に応募してアイドルを目指す事になったとかで、多分メンバーの中で一番野心も低く、ダンスや歌のレッスンは真面目に取り組んでいるものの、それ以外はノンビリしていて人の話を聞いてニコニコしているようなヤツ。居城のようにコンプレックスを刺激するわけでもなく二番目にキラキライケメンの城崎のように目障りなわけでもなく、敵にも味方にもならないどうでも良い相手だと思っていた。
しかしこのコーナーが始まってオレは焦りを感じ始めていた。この対決が始まるようになってから東城の人気がジワジワと上がってきたのだ。
東北のある城でよく分からないお尻のような顔のマスコットに異様に懐かれピッタリと貼り付つかれて密着したまま城ロケを続けることになった。男性が大きな尻のようなものに挟まれグイグイ押し付けられながらニコニコ笑っているという絵は、アイドルとして大丈夫か? という状況である。挙句ははしゃぎまくったそのマスコットに押し倒されといった構われ方しても、それをまったく怒る事もなくあの穏やかな笑顔でロケをすすめた姿があまりにも味があるとネットで話題になり、それが『理玖くん、マジいい子! あのマスコットの激しい愛を優しく受け入れる様子が萌える!』という事になる。それぞれの土地で触れ合ったマスコットとのホノボノしたやり取りが『カワイイし面白い』と注目を浴びるようになってきた。俺としてはあまり面白くない事態である。
スタジオでの互いの城のプレゼンの時も対決という事もあり対抗心から、スタジオでもつい東城理玖のプレゼントした内容をディスったキツい言い方をしてしまったのもマズかったとは思う。
『お前のとこのマスコットってすげえダサくない?! 城のマスコットなのに緩い石段も登れずこけるってありえないだろ!』
そう意地の悪い事を言っても、東城は怒る事もせずにニコッとした笑顔を返してくる。
『確かに彼は階段が苦手な子だけど、それでもいつも門の所まで出て、お客様をおおもてなししたり泣いている子供を全力であやしたりと健気で可愛い殿様なんだよ。見ていて愛しくなってくるというか応援したくなるというかそういう子なんだ』
優しい口調でそんな返しをしてこられると、東城という人物とマスコットの好感度もあがってしまい対決も不利になる。そんな事を繰り返してきた。東城に勝つために俺もロケも頑張り、得意のトークで各ロケ地の人と良い感じで絡み面白く人を楽しませるVTRを作るしかない。
しかしどちらかというと純朴な人の多い東日本に比べ、西日本は人もマスコットも何ていうか元気でグイグイ前に出てくるタイプが多い。
しかも東城が絡んだマスコットはそのあとSNSとかでも注目され認知度があがるということで、西のマスコットも異様に俺に絡むようになってきた。それも西のノリで。
マスコット界もグランプリとかあり人気を上げるのが大変なようだ。テレビに出演した時の必死さは若手お笑い芸人並に激しい。
城下町で名物の団子の説明を受けているのに、さっきから俺の横で若武者の恰好をしたマスコットが、メザシの形をした刀でツンツンツンツンしてくるのだ。キッと睨むと、『マアマア気にするな』といった感じで俺の肩をポンポンと叩く。そして再び説明を聞き始めるとまたツンツンしてくる。見るとカワイイ感じで恍けたポーズをする。
このマスコット、【眞邉メザシくん】という眞邉城のマスコット。その姿は青い甲冑をつけており凛々しくもカワイイ顔をしていて、それなりに有名で人気もソコソコあるらしい。
いつも手には名物であるメザシの形をした刀をもっていて、それをブンブン振り回す姿がまたキュートと評判だとか。キャラクターとしてもまあまあカワイイだけでなく、実際のマスコットのお茶目な仕草がまたウケていて、イベントでも引っ張りだこという。といってもTVでしょっちゅう紹介されているようなマスコットレベルまではない、地方の人気者といったところ。
しかもこの中身が、『君が西城くんか~お互い人気モノ同士! 色々大変だけどがんばろうな。ヨロシコ♪』とフザケタ挨拶をしてきた軽くてウザい禿たオヤジだと分かっていると、それがチョッピリお茶目でカワイイ若武者君には全く思えない。禿げた調子にのったオヤジが透けてみえるのは俺だけなのだろうか? やっているギャグポーズも古いものも多くどことなく親父臭い。
さらにこの眞邉メザシ、空気を読まないというか、しつこくて面倒というか……今は後ろで控えてウンウンと頷いていればよいだけだろうと思うのに、和菓子屋の女将の話を聞いている最中の俺に構ってくる。
「ア~煩いな~!! このメザシ焼いて喰うぞ!」
思わずキレて刀をムンズと掴みそう怒鳴ってしまったのも仕方がないとは思う。さらにムカつくことに眞邉メザシくんは俺に『やめて下さい許してください』と言わんばかりのお祈りポーズでブルブルと震えて被害者面をする。これでは俺がマスコット相手に無体な事をしているようだ。
それはシッカリとカメラに収められているし、スタッフもニヤリと笑っているから使う気は満々だろう。その後も眞邉メザシは散々イラつく絡みをして、取り上げたメザシで俺が殴るといったやり取りまで晒してしまう事となった。
ロケが終わって、その眞邉メザシの中の人が近づいてきて『俺達良い感じで絡めて、イケた仕事できて良かったな~』みたいな事を言ってきた。俺はその中身も見た目も禿げた親父に殺意すら感じる。しかしここでそんな感情を見せて相手に怒りをぶつけるわけにもいかず、無理やり笑顔を作り挨拶をして別れることにした。
俺のそんなVTRは確かにスタジオでもウケて、視聴者も楽しませたとは思う。しかし俺がそうやってマスコットに容赦ない感じで絡む姿は、より東城の平和でおっとりしたマスコットの対応を際立たせる結果になるのはどうしたものかと思う。
しかも眞邉メザシとの仕事以降、西のマスコット連中は俺を『そういう絡みをしても良いアイドル』だと認識したようだ。行く先々で遠慮ない馴れ馴れしい絡みをされ、『ほい! こい! ここでツッコミ! キツめの一発こいや~』という感じのオーラを出されると芸能人としてはそれに応えるしかなくなる。俺の親しみやすい陽気で明るく楽しいキャラが崩壊させられていくのを感じたが、もう自分ではどうしようもない流れに乗ってしまい、よく分からないマスコットとともにその濁流を、ただ流れるだけとなってしまった。気が付けばキレ系ツッコミキャラとなっていた。
一方、【仏レベルの温厚さ。優しくて癒し系。恋人になったら最高に親しみのあるアイドル】というキャラを確立していく東城も、自分とはドンドンかけ離れた人物像が築かれていく事に戸惑いを感じていたようだ。アチラは逆に一切怒る事も出来なくて、別の意味で苦しそうだ。
その後【東西城コンビ】とセット扱いで利用される事も多くなり、東城とは一緒にいる時間も増え楽屋でも色々話すようになった。意味は真逆だが同じ悩みを抱える同士仲が深まるのも時間はかからなかった。二人で酒を、飲みにいったり悩みを打ち明け合ったりもするようになり気が付けば大切な親友となっていた。
かなり苛立ちムカついたマスコットどもだが、お蔭でこうして共に頑張れる友人が出来た事を考えれば感謝すべきなのかもしれない。
とはいえ眞邉メザシ! お前は別だ! 勝手に俺をダチ呼ばわりして未だにTwitterとかで気安く絡んでくるな! 今度会ったら本当にメザシをぶっ刺すからな!
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眞邉メザシくん
眞邉城に遣える侍マスコット。
天下を目指す為に、宝刀メザシ剣を手に日夜頑張っています。
侍であるもののなかなかのお茶目さんで、人気のお笑い芸人のネタをいち早く取り入れたパフォーマンスで観光客をいつも楽しませています。
【シャトーズ】の西城貴樹とは盟友で文(Twitter)のやり取りをしてその後も交友を深めているそうです。(※注 眞鍋メザシくんサイドの話で、眞邉メザシくんはよく西城貴樹のネタの話を呟いていますが、西城貴樹のTweetで眞邉メザシくんの話題が出たことはありません)




