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中に人など、おりません!  作者: 白い黒猫
動物園のマスコット
2/23

しゃべれませんが、呟けます(後遍)

 コレはキャラ崩壊の危機である。とっさにその呟きを削除したものの、かなり引用リツイートもされていて、それらは手が出せない。

『友達って食用の意味?』

 直前に絡んだマスコットが要らぬ方向へと話を発展させている。

『みんなオハヨ~♪ 昨晩何か変な呟きがあったみたいだけど気にしないで欲シーマ! 僕は草食動物です!』

 今さらだが、先ずはそう言っておく。

 上司に報告したら、大笑いされた。まあマスコットで人を傷つけたというのではなく、しかも社会的に問題のある発言をしたわけではない。アイドルのスキャンダルとは異なり、イメージダウンとはいえ、中に人がいることは公然の秘密である。ここぞとばかりに、ツッコミをいれて楽しんでいるだけなのだ。

「スルーするのではなく、責任とってシーマくんとして誠意をもって対応するんだよ!」

 軽い口調で、えらく難しい支持を与え上司は仕事に出掛けてしまった。

 画面に視線を戻すとリツイートが増えている。

『オハヨ~♪ シーマくん昨日シェラスコ美味しかった?』

『おはよ! 昨日はシーマくんのワイルドな面が見られて楽しかったよ!』

『シーマくん。肉食系男子だから、あんな風にバリバリ仕事出来るんだね♪』

『中の人、重労働をしているんだもの! 肉をガッツリ食べて精力つけないとね!』


 着ぐるみ班の皆を私のデスクの前に緊急召集をかけて相談をする。ヘタに謝ると、中の人を認めるか、シーマくんが肉を食べた事になるから、惚けるしかないという結論となる。

『実はね、僕もビックリシーマした。朝出勤したらあんな呟きがあって。どうしてなのか分かりません』

 苦しいがそう呟く。

 そして朝のシーマくんの園内散歩に同行。スマフォにリツイートを示す表示が次々とくるが、見るのは怖いので、シーマくんのお仕事風景の写真を撮影するなど、先ずは通常業務に専念する事にした。そして事務所に戻って深呼吸をして恐る恐るディスプレイを見る。からかいの発言がさらにふえている。

 反応は大きく分けてこの三パターン。

『分かっているって中の人が滲み出たんだよね?』

 中の人である私を持ち出してくる人。何故か彼らは揃って、肉大好きのマッチョな男性だと思っていて、うら若き女性である私がやっているとは一人も思っていないようだ。そこにも少し落ちこむ。

『またまた~! 肉好きなんでしょ? 悪い事したわけではないから認めちゃいな~』

 二つめのパターンは、このような感じでシーマくんを肉食シマウマにしたがっている人。

『この肉のブタさんとウシさんって……まさか! ハングリーくんとマツミルちゃん?』

 三つめのパターンは、一番手に負えなくて、勝手に物語を膨らませ、話を大きくする人。どんどん自分勝手に妄想を膨らませて楽しんでいっている。

『中に人はいないシマー~♪ 僕はシーマくんです~!!』

『誤解シマー!! 僕は草食動物なので、肉なんて食べた事ないです!!』

 取り敢えず最初のツーパターンの人に向けてそうコメントを返す。

 そうしていると、また何かリツイートがくる。

『私をそう言う目で見ていたなんて……ブルブル……そう言えばシーマくんの私を見る目付きがチョット恐かったかも』

 マツミルちゃん……貴女までこの騒ぎに参加してこないで……。

『マツミルちゃん誤解だよ~友達は食べないよ!』

 送信した後に、その表現が不味かった事に気が付く。

『俺はまだ生きています。良かった友達だったら食べられないんだ~。シーマくん! だったら、ずっと友達でいような!!』

 ハングリーくん、君まで余計な事を……。

 このままTwitterを、放置するのは怖いけれど、午前中の舞台があるので着ぐるみシーマくんを連れて園内のイベントコーナーに向かう事にする。舞台ではシーマくんは草食系男子のキャラに相応しく優しく子供に接し来場者を楽しませていた。その仕事ぶりを写真を撮りいつものようにアップする。

 そして事務所に戻り、外での仕事中必死で記憶から消していた現実を思い出す。

『マツミルちゃんハングリーくん、昨日はお疲れ様でシマー。そうだよ、僕らはずっと友達だよ~♪』

 ヘタな事は言わず、無難な言葉を返しておく。

『みんなそんなにイジメないでよ~、僕は普通のシマウマなの~肉なんて本当に食べられません!』

 マスコットである時点で普通のシマウマではないが、そこは置いておく。

 世の中暇人が多いのか? 下手に言葉を返せば返すだけにしつこく絡んでくる輩がいる。業務の合間を縫ってのTwitterにもだんだん疲れてきた。

『本当にその事は記憶にないシマー。昨日は憑かれていて早めに寝て――』

 夕方になってもTwitterでの対応に追われていた。政治家とかが自分の発言を『記憶にありません』というのを聞いて『よく言うよ! 恥ずかしくないのか』と思っていた。それを自分がするハメになるとは……。

 送信しようとして自分がとんでもないタイプミスしているのに気が付いた。私はハッとして文章を修正する。

『昨日の事は本当に記憶にないシマー。何か憑かれちゃったみたい。夏だからかな~?』

 強引だが、そういう事にしておく。あの発言をしたのは、憑依した何か! シーマくんではない。もうヤケである。

『憑かれたってw 大変だったものね。ユックリ休んでね~』

 オチがついたからな、飽きたのか、だんだんと反応は少なくなっていく。私は夜、家でスマフォを手にホッと息をつく。

 一日盛り上がっただけで炎上というかTwitterのボヤ騒ぎは沈静化した。

 こんな事故は二度と起こさないように、私は自分のアカウントとシーマくんのアカウントをゴッチャになる事はしないように、スマフォで使うアプリそのものを分ける事にした。

 時々美味しそうなマスコットと絡む時にはチラリとネタとして、『食べちゃダメだよ!』とか言われる事はあってもほぼ、再びシーマくんの穏やかな生活が戻ってきた。


 そんな事も忘れて半年程たったとき、シーマくんの知名度を知る為に何気なく検索をかけてみることをした。すると Wikipediaに項目が作られている事に気が付いた。気になってクリックして読んでみる事に。するとウチの動物園の住所や交通アクセスまできちんと書かれた状態で紹介してある事に少し感動する。

『シーマくん 中武動物公園の公式マスコット

 シマウマのキャラクターで、穏やかでおっとりした性格の男の子。

 ○○県を中心に様々なイベントに登場して、活躍している。ゆるキャラグランプリ20○○年において、513ポイントを獲得し458位となる。』

 読んでみると結構詳しい事がかかれていて、キャラを作っている私達からしてみても参考になった。

『仲良しのマスコットは南松川高原のウシのマツミルちゃん、東平原牧場のブタのハングリーくん。また米原牧場のウーマくんとは馬同士だけにウマがあっているようだ。』

 こんな事まで書かれているとは。しかも、私が使ったダジャレもしっかり使われている事に、照れくささを感じた。 

『Twitterにおいて語尾にシマーとかシーマという感じでしゃべり、密かな人気を博している』

 まだ、密かな人気レベルと書かれている所が当たっているだけに、心の中でやる気が燃える。今後もっとシーマくんを売り出していかなければと心に誓う。

『シマウマである事から草食系男子という事だったが、Twitterにてうっかりシェラスコを食べにいった事を暴露してしまい、実はガッツリ肉食系マスコットである事が発覚』

 その文章を見て、私は激しい目眩を感じ仰け反った。


 一度犯した過ちが、ここまで残ってしまうなんて……ネットって恐ろしい……。


   ※   ※   ※


シーマくん

挿絵(By みてみん)


松川市中武動物公園にて住み込みでお仕事をしているシマウマのマスコット。

性格はおっとりしていて優しい草食()男子の()()()()。背中の縞模様が実は『シマ』の文字になっている。

子供には人気があり、園内でも彼の縫いぐるみは人気商品となっている。

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