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中に人など、おりません!  作者: 白い黒猫
地方マスコット
19/23

ファンと握手

「じゃあ、次のロケの準備のため、ここで一時間休憩いれますね~」

 柄﨑街の城下町のロケを終えた後、俺はその言葉に俺は爽やかに見える笑顔を作り良い子な返事をしてスタッフに頭を下げる。

「じゃあ、折角だから一足先にお城見てきます」

 そう連絡してから一人で離れようとするとスタッフさんが慌てる。

「だ、大丈夫? 理玖(りく)君 アイドルがお付きも無しに一人で行動って!」

 俺はその言葉に苦笑してしまう。今日はマネージャーは同じグループのメンバーの別の仕事についていっており、この観光地ロケの集合場所にも一人できた状態。

「逆に、一人で歩けないくらいの存在になりたいですよ。東京でも普通に電車乗って移動出来る俺です。だから大丈夫です!」

 自分で言って悲しくなる言葉。最近結成してそれなりに人気は出てきたアイドルグループにいる俺だけど、そのグループどちらかと言うとキラキラした存在感を放つ居城(いじろ)(すばる)とソレを盛り上げるメンバーという感じで、その中でも俺は最後に名前が挙げられるような存在。最近、昼間に放送されている情報番組のレポーターや、バライティー番組のコーナーアシスタントとかの仕事をバーターでもらうようになったことで少しずつ知名度は上がっているものの、街で声をかけられることは殆どない。『ファンですサイン下さい』と言ってきたくせに俺の名前を分かっていない状態の人だっている。ただ芸能人っぽいから貰いにきただけなのだろう。そういう感じなので、今回のような地方ロケで声をかけられることは皆無といってもよい。

 俺はそういう哀しい現実から逃避するように、目の前の﨑柄城の荘厳さを楽しみ歴史と和の美の世界に没入することにした。

 この﨑柄城の築城主は髙塚賢司というが、そこからして『誰? それ』という感じ。また土地柄戦略的に重要な拠点にするには中途半端で、また邪魔にもならないということで歴史の表舞台にたつこともなく平和にヒッソリと存在していたお城。代々良き城主だったことで、地元の人には愛されているものの、日本でこの城の事を知っている人はあまりいないのではないだろうか? しかも大正時代に天守閣といった建造物を焼失しており、城壁しか残っていなかった所に、昭和になって城を再建したもので建造物としての価値も低い。しかしその庭園は梅の木が素晴らしくて、【梅香城】の異名ももっている。県内ではそれなりに人気のある梅見スポットとなっている。

 俺はまだ開花には早い庭園を歩きながらも、その見事な庭園を楽しんでいた。そして馬屋跡という看板の前を歩いていると、何か強い視線を感じる。その方向を見た俺は、一瞬身体がビクリと震えるのを感じた。城の勝手口のような戸の前に二体の異様なモノがいる。目と口のついたピンクで丸いモノに足がついたもの、目のついた緑色で丸いモノに人間の足がついたもの。緑の方は頭に兜らしきものを被り、ピンクの方は頭に昔の御姫様の髪型を思わせる黒いモノがのっかっている。異様なのは、身体は大きな梅の着ぐるみなのに足が思い切り人間。彼ら? は﨑柄城のマスコット﨑ちゃんと柄くん。予め渡されていた番組資料にも紹介してあったのだが、それがイラストだったのでこんなにも足が人間であることまでは分からなかった。その異様な風体のマスコットを俺は呆然と見つめていると、マスコット二体もコチラをジッと見つめている。いや、凝視されている。

 俺はそのまま固まっていたが、その二体いきなり身体を激しく揺すった後コチラに向かってくる。しかも走って。みるみる柄くんと﨑ちゃんは距離を縮め俺に体当たりしてきた。いきなりの事で驚いたが俺は何とか踏みとどまり倒れずに済んだが訳分からない。

「申し訳ありませ~ん! この子達少しヤンチャなもので!」

 法被を来たアテンダーの女性が後から走りながら謝ってくる。いやマスコットっていくらヤンチャでもいきなり人に突進はしてこないだろう。そうは思ってもコチラは一応アイドル。変に騒動起こすわけにもいかない。

「いえいえ、コレが柄くんと﨑ちゃんなんですね。こんなにヤンチャだとは知りませんでした。いや~カワイイですね」

 そう笑顔でアテンダーに笑いかけ、柄くんと﨑ちゃんに視線を向けると、その二体が俺をまだジッと見ている。しかも走ってきた所為か、それとも興奮しているのか中からゼイゼイという息遣いが聞こえて、少し怖い。

「すごい~♪ 超~理玖!! マジヤバい!」

「どうしよ! どうしよ! どうすれば良い?」

 中から聞こえてはいけない筈の声が聞こえる。ふと視線を下にするとそこから伸びている草履を履いた生足が目に入る。その足の雰囲気と、聞こえてくる声から中には女の子? 女の人? が入っているようだ。足を見つめ続けるのもどうかと思い視線をあげるが、マスコットの目が妙に怖くてアテンダーに視線を戻す。アテンダーも二人の声が聞こえていたので俺が誰だか察したようだ。

「東城理玖さんだったのですね! 今日はお世話になります! この二人も東城さんにお会いする事をとても楽しみにしていたので、このようにはしゃいでしまっているようです。

 あっ、あの、折角だから柄くんと、﨑ちゃんと写真を撮っていただけないでしょうか?」

 この後一緒に仕事をすることにもなっているし、SNSなどに写真をアップすることで互いの宣伝にもなるので断るはずもない。しかし並んで撮る柄くんと﨑ちゃんの密着度が半端ない。顔が俺の身体で凹んで変形しているけれど、それで良いのだろうか? しかも、『ウォ~』『ワォォオ』『この皮が邪魔~』『こんなに近くにいるのに触れないのが辛い』という心の声らしきものが聞こえまくっている。ここまで喜んでくれるという事は本当に俺のファンなのだろうが、この状況が異様過ぎて素直に喜べない。俺のスマフォでも撮影してもらってアテンダーさんに握手して別れようとしたら、二体のマスコットが身体を激しく揺さぶり始める。

「ねえねえ! ウチらのスマフォでも撮影してよ!」

 その言葉が言い終わらぬ間に、柄ちゃんと﨑ちゃんの胴体部分の下から人間のスマフォをもった手首がニュウッと出てきた。引き攣った笑いをしているアテンダーにスマフォを渡した柄ちゃんと﨑ちゃんは、下から手首を出したまま俺の方にクルッと向き直りそのままの状態で握手を求めてきた。

 柄ちゃんと、﨑ちゃんは手のない構造だから仕方がないとは思うけど、マスコットとして、こういう形で握手を求めてくるのって大丈夫なのだろうか? 



   ※   ※   ※


 柄くん 﨑ちゃん


挿絵(By みてみん)


 東北の方にある柄﨑城のマスコット。梅の名所という事で梅がモチーフとなった姿をしています。

 手がなく、しかも足部分が思いっきり人間の姿はカワイイと言うより異様。梅なのだが、尻から足が生えているように見える構造のため一部のマニアには愛されているマスコットです。

 アイドルグループ【シャトーズ】の東城理玖の大ファンというか好き過ぎるマスコット。Twitterでも絡みにいって、お返事を貰って大喜びをしています。

 


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