呪いのアプリ
最近の映画というのはどんどん進化していっている。3Dだけでなく、I-MAX、TCXだとかの上映規格の映画館も次々誕生してきて、しまいには椅子が振動して香りまでつく4Dの劇場まで作られるようになった。もはや映画は観るものではなく体験するモノとなってきたようにも思う。
そんな世の中の流れからか、今度はスマフォアプリと連動するという映画まで作られることになった。映画館でそのアプリを立ち上げておくと、映画と連動して色々な事が楽しめるというもの。映画館ではスマフォや携帯の電源をOFFにという常識を根底からひっくり返す出来事である。
しかもその映画、スマフォから呪いが伝染していくというホラー作品。なかなか面白そうである。
話のネタにもなりそうだから行ってみる事にした。
予めアプリをDLして準備万端で劇場にいってみると、映画が始まると、被害者となったという男が悶えながら出てくる。そして苦しみ唸りながらも、『ちゃんとアプリをDLしてきたか?』 『機内モードに切り替えたか?』 『切り替えてないならーー』と丁寧に機内モードの仕方を伝授し、アプリの起動までも促してから死んで行く。まるでテーマパークのアトラクション前の注意事項の説明のような感じである。
そして映画が今度こそ始まり、作中で電話が鳴ると、手にもっているスマフォも鳴り着信する。スマフォを耳に当てると映画の主人公が聞いている電話の向こうの会話が聞こえてくる。映画の中で登場人物が見つめている写真がスマフォのディスプレイにも表示される。なるほど体験型映画という感じでこれはコレで面白い。スクリーンで大量の蝶々が飛び交うと、スマフォが震えるので観てみると画面の中でも蝶々が飛んでいる。呪いの象徴である蝶が劇場全体にまで広がった雰囲気を作り上げる演出は悪くない。
驚かせるシーンでは、しっかり震えて、観ると気持ち悪い画像を表示してさらに驚かせる。映画そのものは、子供だましの内容でくだらないのだが、スマフォという遊びの要素がなかなか面白くてそれなりに楽しい時間を過ごす。嫌な余韻を残し映画は終了した後、劇場中のスマフォが震え、観客がビクリとする。画面を見ると、映画の冒頭で死んだはずの男の名前で着信している。通話ボタンを押して耳に当てると……低くささやくような声がした。
『機内モードの解除忘れるなよ~』
役割だとはいえ随分長いダイイングメッセージを語る男にされたものである。血を激しく流しながらの熱演だったが、怖がらせたいのか、笑わせたいのかよくわからない状況だ。苦笑しながら言われた通り機内モードを解除しながら劇場を後にした。
ホラー映画観たとはいえ、ぶっちゃけ映画はつまらなかったし、怖くもなかったので劇場出た瞬間に日常生活は戻る。
そのまま本屋に寄って、適当なモノを買って家に帰った。そして家でビデオを観ながら適当な晩御飯を食べてダラダラしているとスマフォがまた震えた。見ると、『船生藜子』と昼間観たホラー映画の中で呪いを振りまいていた女性の名前がそこにあった。
(まさか、呪いの電話!)
と思いながらも、それがいつもの着信とはまったく違っていてアプリが作り出すフェイク着信画面であるのが明らかに分かったので、好奇心から通話ボタンを押すと、呻くような声がしばらくスピーカーから漏れてくる。何を言っているのかはいまいちわからないが、何か忌まわしい事言っているのだろう。
それにしても、映画を終わった後にまでこうして楽しませてくれるとは、企画としてなかなか面白いと感心した。
その呪いのアプリを消すこともせずに、入れた事も忘れたまま、十二月となった。平日のクリスマスイブの日、恋人とロマンティックにデートなんて事はなくて、会社で愚痴りながら残業をしていた。
「おい、清水! 女から電話がかかっているぞ!」
冷やかすような同僚の声に、俺は震えるスマフォを見ると、そこには『船生 藜子』の名が。もちろん着信しているのではなくて、着信しているように見せているフェイク画面である。俺はそっと着信ボタンを押してスピーカーに耳を当てる
「メ……リークリ……ス……マ……ス~」
おどろおどろしい口調のわりに、平和な言葉の後、悲鳴が聞こえ音声は終わる。
映画の公開も終わって三か月も経っているのに、まだこんなお遊びを用意していたらしい。同僚に事情を説明すると大笑いして、『俺もその映画を見に行けば良かった』とかいう会話を楽しみ、残業で荒んでいた職場の空気も少し和んだ。
そして一週間程経った後、実家に戻り家で家族とこたつに入りながらのんびりしていたら、スマフォが震え、『船生 藜子』から電話がかかってくる。俺は迷う事もなく着信ボタンを押す。
「ア……ケマ……シテ……オ……メデ…トウ。クッウゥゥ」
クリスマスと同じように、途切れ途切れの低い声でそんな新年の挨拶をしてきた。
(こんな真っ昼間に悪霊が挨拶してくるって……)
俺は苦笑するしかなかった。
ここまでくると、逆にこの呪いのアプリを消せなくなってしまった。今後はどのタイミングで電話をかけてくるのか楽しみになる。
その後も、『船生 藜子』はバレンタインの時など、何か目出度げなイベントの度に電話をよこし、ブルーレイ発売の時や、テレビで放映される日にもわざわざ電話で宣伝してきた。彼女に『お前よりもマメじゃないか?』と言ったら『だったら、そっちとつきあえばいいでしょ!』と言って叩かれた。
この几帳面さって、悪霊としてどうなのだろうか? 面白いから良いけれど。
映画を観て、ここまでの時間を楽しめるとは、千八百円も高くはなかったかもしれない。
※ ※ ※
船生 藜子
ホラー映画『バ・イ・ブ・レー・ショ・ン』に出てくる悪霊の名前。
女性を食い物にする最低男に引っかかり、孤独のまま死んで悪霊となった。最期に恋人であった男に携帯電話で呪いをはきながら死んでいった事で、電話回線を介して移動していく。
最初はいかにも女の敵とかを標的にしていたが、だんだん二股かけているだけの調子こき男、モテモテの女子などその基準が曖昧になっていく。
こちらの元ネタですが、かの有名なジャパニーズホラーの最高峰の最怖ヒロイン山村○子登場の映画が、スマ4Dとしてやっていた企画が元となっています。
物語の内容とはまったく関係なく、言わなきゃ分からないのですが、こちらの主人公は『アダプティッドチャイルドは荒野を目指す』に登場した主人公の友人清水隆くんの社会人になった時の様子です。




