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中に人など、おりません!  作者: 白い黒猫
動物園のマスコット
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しゃべれませんが、呟けます(前遍)



『オハヨー♪ 今日も良い天気で、嬉シーマ♪ お仕事頑張るシマー♪』


 職場のパソコンから、こんな文章をネットで呟く。別に私が残念な人間であるわけでもない。コレは私の大事な仕事の一つ。中武(チューブ)動物公園のマスコットのシーマくんの呟きを私が担当しているから、この朝の挨拶が日課なのだ。


 マスコットというのは、基本喋らない。そしてボディーランゲージで想いを表現するそういう存在である。最近TVでしゃべくりまわっているマスコットもいるが、あれはまた別のジャンルを生きるマスコット。というか珍種である。

 しかしマスコット界の王道とも言うべき、球界のマスコットから、かの有名なゆるキャラ、有名観光地のマスコットが最近軒並みTwitterを始め呟きだしている。またそれがちょっとした芸能人すら敵わない程のフォロワーを持つ。南の人気の黒いクマさんなんて一度ハッカーに狙われアカウントを乗っ取られるという事件まで起きた事があるくらい注目されているのだ。

 それくらい、最近のマスコットはリアルな世界だけでなくネットの世界まで活動の場を拡げ頑張って闘っている。ウチのシーマくんも、些か出遅れ感はあるがネットデビューをした。


『こういうのは、君ら若いセンスでいい感じで、それっぽく可愛くやってくれたら良いから!』

 と園長に命令(まるなげ)されてから、広報部イベント班のメンバーによって、ウチの動物園のマスコットのシーマくんの公式Twitterでの仕事が始まった。


 資料を改めて見直して見るとシーマくんは『シマウマのマスコットで、心優しくノンビリした草食系男子』とある。『草食系というか、草食動物ソノモノでしょうに……』というツッコミをいれてはいけない。マスコットとはこういうものである。


 他のマスコットの呟きを色々見てみると、キャラをシッカリ作っているマスコットの呟きの方が人気があるようだ。逆に、事務的でイベント案内だけしかしないマスコットは人気が低い。それらの事をわきまえた上で、シーマくんのTwitterは、独自なシーマくんしゃべりで特徴を持たせつつ、天気の事、他の動物のネタ、飼育員さんのエピソードとかを交えたものにする事にした。イメージとしては動物園で楽しく暮らすシマウマの日常という感じで表現することになった。

 同時に場内案内、パンフレット、ホームページでもTwitterを始めた事をアピールしつつ、有名マスコットのTwitterをfollowして、絡みやすそうな相手(マスコット)には『僕もTwitterを始めました。まだまだ分からない事だらけ、色々勉強させてください。宜しくお願いシーマす♪』とかいう感じで絡んでいった。そして、ウチの動物園についてや、近くに旅行を考えていそうな相手を検索して探しては、『中武動物園に是非来て欲シーマ♪』とかツイートしてみたりもした。その地道な努力もありそれなりにフォロワー数も増え、人から楽しんで貰えるようなTwitterになってきたとは思う。Twitterに添付したシーマくんの写真にも『今日もシーマくんカワイイね~♪』とか反応もチラホラつくようになった。朝の挨拶にも、返事を返してくれる人もいる。

 シーマくんの着ぐるみをつかった園外での出張イベントでも、『Twitter見ています!』と笑顔でシーマくんに話しかけてくれる人もいて、ちょっとした満足感を覚えていた。努力がこうして結果となって見えるのは楽しいものである。


 今日は地域の観光地PRイベントに参加。こういうイベントは他の広報の方とも顔を合わせられるので、とても楽しい。今後協力して更なる活動にもつながるだけに、ここでの出会いは重要なのだ。まずは互いのマスコット同士を絡ませて、それを互いのサイトに載せて相乗効果を狙うというのが最近の流れ。隣の市にある東平原牧場のブタのマスコットハングリーくんと肩をくんで熱い友情を築いている写真や、南松川高原のウシのマスコットのマツミルちゃんと抱き合っている平和な写真は今日撮影した写真で特に良い感じである。『新しくお友達が出来て嬉シーマ♪』とかいう感じでTwitterにおいて呟き、見た目も楽しいそれらの写真も添付した。帰りのワゴンの中でスマフォから送信し私は漸く一息つく。そしてリツイートしてきた人にお返事を書く。シーマくんの中に入っていた同僚はワゴンに乗った瞬間から電源が切れて寝ているが、シーマくんのべしゃり担当の私は今日の出来事をつぶやき、リツイートに返事を出すまでがお仕事なので、移動は貴重な業務時間なのだ。

「お前も疲れただろ? どうせ今日は荷物を会社置くだけだから、お前は直帰しろ。駅で降ろすよ! お前東松川駅だよな? 最寄り」

 運転していた上司の言葉に私は悩む。

「ありがとうございます。

 でも今日は松川の方でも良いでしょうか?」

 上司はニヤリと笑う。

「何だ、デートか?」

 デートであるのは事実だが、私は惚ける。

「お友達と、シェラスコを食べに行くんですよ!」

 一度イベントに彼氏が来た事もあり、今日が金曜日という事でバレバレなのだろう。フフフフと上司は笑う。

「そりゃ楽しそうだ。ハジけてこい! でも明日も仕事なのは忘れるなよ」

 そして松川駅で降ろさせてもらい、彼氏と待ち合わせて、シェラスコデートを楽しみ、最高にハジけて盛り上がった時間を過ごす。日曜日は私だけお仕事があるので、朝は隣で寝ている彼氏を起こさないようにソッとベッドから降りて、音を立てないように準備して部屋を出て、自転車で職場に向かう。


 通勤途中にコンビニで買ったオニギリを食べながら、デスクでパソコンを立ち上げてTwitter画面をひらいてみて首を傾げる。いつもと違った異常な状態に気が付いたから。

 リツイートが異常な程ついている。そしてその内容も、穏やかではない感じ……。

『そんな馬だったなんて!! ショック』

『シーマくん、本性現したな(笑)』

『それはダメ~』

『シーマくん恐ろしい子W』

『中の人が~~wwwww』

『ウマーってW』

…………

……


 何故こんなに荒れているのか。もしかして、軽く炎上している?

 私はそれらのコメントが一つのシーマくんの呟きから発生しているのに気が付いて青ざめる。


『今日は、肉食獣気分を満喫~♪ シェラスコ最高! 右が牛さんで、左がブタさん! どっちもウマ~♪』


 昨晩私が美味しそうな肉の画像と共に呟いた言葉が何故かそこにあった。自分のTwitterアカウントに呟いていたつもりが、シーマくんのアカウントで呟いてしまっていたようだ。



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