第九十八話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
ザッザッザッザッザ!ザッザッザッザッザ!ザッザッザッザッザ!ザッザッザッザッザ!
ローマ軍の兵士達が砂埃を上げながら、エルサレム神殿に到着しました。それまで過越祭りで賑わっていた人々にも、一瞬緊張が走ります。馬に乗る百人隊長のロンギヌスは、市民達を睨みながら威嚇をしており、横にいる部下のカッシウスは、属州総督であるピラトゥスの警護。しかしピラトゥス自身は不機嫌な様子。
「ピラトゥス様!!ピラトゥス様がローマ~帰ってきたザマス!!」
カヤパは真っ赤になって焦って飛び出し、横にいるパウロも蒼くなってオドオドしております。二人は属州総督に頭を下げて迎えますが、当の本人ピラトゥスはまるっきり無視でした。
「ピ、ピラトゥス様?」
「うるさい、カヤパ。後にしろ」
「し、しかしピラトゥス様。あの元大工がエルサレムに入城しておりまして。。。」
「うるさい!それどころではないのだ!」
「ヒィーーーー!」
それもその筈です。その理由とは、現ローマ皇帝ティベリウスの右腕で、親衛隊長官であるセイヤヌスがローマで失脚し、セイヤヌスの後ろ盾を失ったピラトゥスは、窮地に立たされていたからです。
「よいか!カヤパ。今後はユダヤ人同士でもめ事を起こすなよ。そんな事をすれば、貴様の司祭の立場も追われることだけでなく、首も飛ぶことにになるのだからな!」
「そ、そんな!殺生ザマス~~~~~~!」
そう言うと、ピラトゥスは総督室の扉を固く閉ざし、一切外に出る様子はありませんでした。顔面蒼白で残されたカヤパ。とパウロ。
「ど、どうしましょう?カヤパ様」
「そんな事言っても、大工を放っておいたら、ミー達は破産ザマス!ピラトゥス様が納得できるよう、奴を犯罪者に仕立て上げるしかないザマス!パウロ!お前はあのくそ大工を陥れるザマス!」
「わ、分かりました!」
スタコラサッサ~!
パウロはカヤパに尻を叩かれ、早速あんちゃんの元へ向かいました。
「キーー〜ー!中間管理職は辛いザマス!!」
カヤパが自分の杖に八つ当たりしていると、突然一人の老人がやってきました。
「だ、誰ザマス!?」
「あっしはカヤパ様の味方で、名も無い老人です」
「こんな大変な時期に、名も無い脇役なんて興味無いザマス!シッシッ!」
「そんな邪険に扱わないでくだされ。あっしには、あの大工とやらを陥れるいい考えがあります」
「な、なんザマス!?」
「お耳を」
ゴニョゴニョ。
半信半疑だったカヤパでしたが、老人の話を聞いて狂喜しました。
「それは本当ザマスか!?」
「はい。今、その男は私の術中にハマりつつあります。もう少しすれば、きっと」
「フッフッフッフッフッフ!風向きは変わってきたザマス!頼んだザマスよ!見てらっしゃい!クソ大工!」
さて、健気にあんちゃんに立ち向かうパウロは、今日もマッカートニー坊や扮装して、大工のあんちゃんへ果敢にも挑みます。
「愛の伝道師!今日も勝負だ!」
「おおお?お前は昨日のマッカートニー坊やだな?」
「その通り!昨日は貴様の屁理屈にしてやられたけど、今日こそは勝って見せるぞ!」
「フッフッフ。良い心がけだ、受けてたってやろう!」
<大工のあんちゃん VS マッカートニー坊や(実はパウロ)討論バトル in エルサレム神殿 第二戦!>
パウロは必死に先手を色々と考えています。その時、側にいた商人が銀貨の交換をしている姿を見かけました。ピーンと!っときたパウロは、最初の一手を出します。
「噂によると、あんたはとっても正直な方だそうだな?」
「まぁーな。正直すぎるとも言われちまうけどさ」
「世の中に不安を抱えた人々に、進めべき正しき道を無料で説いて、誰に対してもえこひいきしないらしいな」
「もちろん。俺のキャッチフレーズは、『人類皆兄弟!』格好いいだろ?」
そんなあんちゃんに、パウロは嘲笑しながら質問します。
「それでは教えてほしい。我々がローマ帝国に税金を払うことは許されているのか?それとも許されていないのか?」
パウロの質問は、非常にクレバーでした。そうです、第三十話に出てきた、『モーゼおっさんの十戒』の一つを思い出してみましょう。
"一、神様はたった一人じゃ!
そうです。十戒に厳しく刻まれているように、ユダヤ人は他の神様を崇めてはいけません。しかし、当時のローマ皇帝は最高神祇官という職も兼任しており、神にも等しいローマ皇帝に、ユダヤ人は税金を支払わなければいけなかったのです。つまりパウロはこれは十戒違反ではないか?と問いかけたのです。
「どうだ!?許されているのか?許されていないのか?」
もしあんちゃんが許されていると答えれば、十戒を背くことになります。しかし許されていないと答えれば、今度はローマ帝国の法律に背くことになるのです。
「うーーーーーん」
しばらく両腕を組んで考え込むあんちゃんに対し、パウロはドヤ顔でしてやったりです。
「そうだ!マッカートニー坊や。ローマ銀貨は持っているか?」
「デナリウス銀貨の事か?ああ、ここにあるさ」
「ちょっと貸してくれ」
パウロは懐からデナリウス銀貨を一枚取り出して渡しました。あんちゃんはじっくりそれを眺めながら、今度はパウロに問いかけました。
「デナリウス銀貨に刻まれている、この横顔は誰なんだ?」
「ははは、当然二代目ローマ皇帝ティベリウスに決まってるだろ」
するとあんちゃんはニンマリと笑顔を浮かべ、パウロの手にデナリウス銀貨を返し、次のように語りました。
「それならローマ皇帝のものはローマ皇帝に返し、神様のものは神様に返せばいいじゃんか」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
あんちゃんの見事な答えに、多くの人々が雄叫びを上げます。ペテロもトマスも、あんちゃんのエクセレントな答えに感心しました。
「なるほど元大工!上手く答えやがったな!」
「つまり元ヤンは、政治と宗教は別もんだぜ!という、政権分離で答えやがったわけか!」
これにはパウロも八方塞。あんちゃんは今回も圧勝で、スタン・ハンセン宜しく、人差し指と小指を立てたジェスチャー『テキサス・ロングホーン』サインで勝利宣言します。
「ウィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイ!」
「くっそ!覚えておけ!」
スタコラサッサー!パウロは再び、逃げるようにしてその場を去りました。ペテロは感心しながら、あんちゃんの側に寄ってきました。
「しっかし元大工。どうしたらそんな答えを考え付いたんだよ?」
「なぁ~に簡単な事よ。俺が幼い頃、マリア母ちゃんとヨセフ父ちゃんが、俺の事で激しい喧嘩をおっぱじめたんだわ」
「へぇ~」
「平行線の頂点に達した二人から、『どっちの味方なんだ!?』って問い詰められたんだよ」
「ひでーな。どっちか選べなんて、子供には酷な話だぜ」
「だろ?だからさ、俺は愛くるしい瞳を瞬かせながら、『父ちゃんも母ちゃんも僕には大切だ!』って答えたわけさ」
「なーるほどな!さすがだな、おい」
あんちゃんは胸を張って調子乗りまくりです。ですが、隣にいた疑いのトマスは、一つ気になる様子です。
「しっかし、なんで元ヤンの両親は喧嘩してたんだ?」
「あ、まぁそれは、子どもの教育方針っていうか。DNAっていうか」
「はぁ?」
口を濁すあんちゃんに対して、人混みの中からある女性が叫び出しました。
「それはこの子が、寝小便したからよ!」
あんちゃんは顔を真っ赤にして、その叫び声を打ち消そうとしてます。
「だ、誰だ!?そんな根も葉もない噂を流す奴は!?」
そう、人込みから現れたのは、なんと!あんちゃんの母親である、マリア母ちゃんだったのでした。
続く




