第九十六話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
あんちゃん達と全くかみ合わなくなったユダは、泣きながらエルサレム神殿を掛け抜けました。自分は一体なんだったんだろうか?そもそも、あんちゃん達と一緒にいても、褒められもしなければ疎外されるだけ。
「くっそ!俺だってな!俺だってな!褒めてもらいたんだYOOOOOOOOOOO!!」
しかし今は過越祭の真っただ中、そんな叫びに誰も彼も相手にしません。ユダは自分の無力さ、そして存在感の無さに打ちのめされておりました。
「ホッホッホッホ!どうしたんじゃ?若者よ」
そんなユダに、優しい眼差しをした老人が話しかけてきました。ユダは一瞬睨みます。
「うるせーくそ爺!向こう言ってろYO!」
「ホッホッホッホ!嘆くな若者よ。時に人は人生において、壁にぶつかることもあるじゃろさ」
「説教なんて、もうたくさんなんだYO!」
「ホッホッホッホ!説教はたくさんか。それなら飯はどうだ?」
「いらねーYO!そんな気分じゃねーンだ!」
グ~~~~~~~~~~~!
しかしユダのお腹は空腹サイレンを回しています。
「く、くっそ!」
「ホッホッホッホ!腹が減っては人間泣く事もできんじゃろ?」
するとその老人は無理やりユダを連れてってしまったのでした。一方、ユダの抜けたあんちゃん一行はというと。ユダの心の叫びに、一人あんちゃんは夜空を眺めておりました。
「ユダ、お前は何に怒ってたんだ?」
するとロボスが久しぶりに、フラッと現れます。その不敵な笑みは、相変わらず意味有り気でした。
「うわ!ロボス。びっくらこいたじゃんか」
「お久しぶりです、あんちゃんさん」
「今度は、何の意地悪を俺にするんだ?」
「フフフフ、意地悪だなんて。人聞きの悪い」
ロボスとあんちゃんは夜空を眺めてます。いつもの陽気なあんちゃんとは、様子が違ってました。
「今宵はお悩みあんちゃんさんですか?」
「まーな。さっき、ユダが泣き叫んで、またまた飛び出しちまったんだよ。まぁ、俺の教育がなってないからなんだろうけどさ」
「そうなんでしょうねぇ」
「え?」
相変わらずのロボスは、再び不敵な笑みニヤついてます。
「あんちゃんさんも悪い人だ。あのユダが、今まで散々悪い事をやってきたというのに、面と向かって一回も叱りとばさないのだから」
「ヴ!し、知ってたのか?」
「当然です。私はエジプト太陽神ラーを守護する蛇神ウロボロスですよ」
「さ、さすがだな」
ロボスは微笑んでます。
「正直言うと、ユダは俺の弟みたいで、自分の悪いところばっかり見ているような気がするからさ。どうやって扱えばいいのか、時々分からなくなっちまうんだ」
「それは卑怯ですね?あんだけ偉そうな事をライブで言ってるのに、ユダを冷遇ですか?」
「冷遇?そんなわけないだろ!いつも優しく迎えているし」
「それがかえって、ユダのような人物には重荷なのでしょうね」
するとロボスは口に手を抑えながら、あるエピソードを話し出します。
「あんちゃんさんは、カインとアベル兄弟の話をご存知ですよね?」
「ああ。アダムとイブの子供で、神から供物を無視されたカインが、嫉妬に狂ってアベルを殺しちまうんだろ?」
「では、ローマ創立者である、狼に育てられた双子ロムルスとレムスの話は?」
「それも知ってるよ。覇権を認められた兄ロムルスに、弟レムスが嫉妬して、逆に殺されちまうんだよな?」
「そこから何を、あんちゃんさんは学びますか?」
するとあんちゃんは両腕を組みながら、暫く考え込んでしまいました。ロボスはじっと静観していますが、やはりあんちゃんにはなかなか口にできないようです。
「本心を言うと、あなたには分からない。なぜならば、誰かを嫉妬した事が無いから。でしょう?」
「面目ねぇ~、確かにそうかもしれない。あ、でも、羨ましー!って思った事はあるよ」
「でも、相手に殺意を覚えるほどではないでしょう?」
「たしかに」
ロボスは少し微笑みながら、あんちゃんに語り出しました。
「みんな自分の人生では主人公でありたい。だけど自分の目の前に輝く人間がいると、人はたいてい二通りの生き方を選ぶ。一つはその相手に憧れをもって追従。もう一つは、嫌悪感を抱いて排除。ユダのような人間は、どうしても後者を選んで、あんちゃんさんを妬んでしまうのでしょう。カイン然り、レムス然り」
「難しいな、人間の付き合いって」
「でも、だから楽しいんでしょ?あんちゃんさんは」
「アッハハハ、まーな。確かにな」
ロボスとあんちゃんさんは、夜空眺めながら笑ってました。一方、変な老人に連れられたユダはというと。。。
「え?これ全部喰っていいのかYO?」
「当然じゃ」
ユダの目の前には、あんちゃん一行と一緒にいる時とは考えられないくらい、豪華な食事が目の前に広がってます。もちろん、ユダはモグモグ食べ始めました。
「いやー!モグモグ、本当に美味いぜ!モグモグ。ブラザーと一緒にいる時には、味わえないYO!」
「そうじゃろ、そうじゃろ。無理は良く無いのじゃ。あんたは輝くために生まれてきたのじゃよ」
「え?俺が?」
「そうじゃ。お前は自分の人生の主人公じゃろ?他人の為に無理して生きる必要なんてないじゃろ」
「ああ!そうだ!俺はブラザーなんて関係ない!」
すると老人はユダに肩を回して、馴れ馴れしく語りかけました。
「ユダ。実はわしは、あの愛の伝道師が語る愛って物には、どうも眉唾物なのじゃ」
「眉唾。。。」
「特にわしらのような、常に虐げられてきた人間にとっては、愛なんて物は移ろい易く、実態もなく、目に見えない陳腐な飾り言葉。太陽だって鬱陶しい時がある。違うか?」
「ああ!確かにそうだ!なんちゅーかよ、邪魔なんだよ!自分が宇宙の中心だみたいな気でいやがって。自分の言っている事はすべて正しく、俺の意見は全て否定されるんだ。まるで人を見下しているように!」
ユダはあんちゃんの陽気な笑顔を思い出すたびに、腹の底から煮えたぎる怒りが湧き上がってきます。老人は目を細めながら、用心深くユダの怒りを扇動します。
「しかも鬱陶しい太陽ってやつは、あんたの些細な想いさえも利用するじゃろ?まるで友人の振りをしながら、だが結局は、自分の手柄にしてしまう腹黒い鬱陶しい太陽なのじゃ」
「爺さん!あんたはなんて俺の気持ちが分かる人なんだ!」
ユダは涙を浮かべ、老人の両手を取ります。
「そうなんだ!俺だってブラザーみたいに持て囃されたいし、みんなから黄色い声援を送ってもらいたんだ!それなのに、それなのに俺は除者扱いされて!」
「ユダ。あんたの抱える哀しみは本物じゃ。人がどんな時に疎外され、どんな時に傷付き、どんなものを欲しているのかを心から分かる人間じゃ。おぬしこそ、救世主として神の子を名乗るのだ!」
「俺が救世主として、神の子!」
続く




