第九十五話
しかし両腕を組んだあんちゃんは、鼻息も荒く自信満々で応えます。
「このビジネスまみれな神殿を壊してみよ!俺が三日で建て直してみせる!!」
ザワザワザワザワ!!ザワザワザワザワ!!ザワザワザワザワ!!
過越祭りで賑わったエルサレム神殿において、あんちゃんはなんと挑発的にも、とんでもない事を口走ったのでした!!
じゃじゃ~~~~~~~~ん!じゃじゃん!じゃじゃ~~ん!じゃじゃ~~ん!
<大工のあんちゃん最終章第一弾! エルサレム神殿死闘編!!>
その夜、エルサレム神殿から少し離れた宿屋では、大それた事を口走ったあんちゃんに、弟子たちが詰め寄ってます。
「ゴラぁ!元大工!おめーはバカ野郎だろ!?」
「ペテロっち~。そんな青筋立てて怒らなくてもいいやねん!」
「いいや!これが怒らずにいられるかぁ!!」
「まぁまぁ、みんなびびっちまって何も言えなくなったんだから、結果良かったろ?」
「馬鹿野郎!!全然良くねぇって!」
そうなのです。エルサレム神殿はむかーしっから、民が大切にしてきた聖なる地がある場所なのです。日本だったら奈良の大仏くらい重要文化財なわけです。それを壊してみろとけしかける輩は、罰当たりな馬鹿野郎としか言いようがありません。弟子達はあんちゃんにブーブーと怒鳴っていますが、当の本人のあんちゃんは笑ってます。
「アッハハハ!まさかお前達、俺が本当にあの神殿を壊せと言ったと思ってるのか?」
「え?先生違うの?」
「あったりまえだろ。これはソクラテス先生の問答法を応用した、矛盾のトリックなんだからな」
「???」
どうやら弟子達はさっぱり分かっておりません。みんな頭の上に??が続くばかり。フフーンな感じで両腕を組むあんちゃんは、黒板を取り出して説明を始めました。弟子達は礼儀正しく、あんちゃんの前に座ります。
「先ず俺は『このビジネスまみれな神殿を壊してみよ!俺が三日で建て直してみせる!!』と言ったな?」
ウンウンウンっと、弟子達は頷きます。
「だが、俺自から壊してやる!とは言っていない。そうだな?」
「うん、確かにそうだ」
ウンウンウンっと、弟子達も頷きます。
「では、誰が一体壊せるのだろうか?」
ウウーーーンン???!っと、弟子達は首を傾げます。
「いいか?誰か壊してみろと言った。でも、この国の民は、この神殿が大切な事を知っているし、壊したら罰が当たって捕まるのも知っている。当然俺も知っているから俺は壊さない」
するとフィリポが閃きます。
「そっか!先生の言っている事を証明するには、誰かが罪を犯すことになるんだ!」
「だから神殿を壊す事は誰もできないのさ!」
オオオオオオーーーーーーッ!!弟子達は一気に吼えました。
「それともう一つ、俺は『三日で建て直してみせる!』とは言ったが、神殿自体を三日で建て直すとは言ってないぜ!」
???!!!っと、再び弟子一同は、首を傾げます。
「再建ってのは何も、建物自体だけでは無いだろ?財政赤字や賄賂はびこる組織の再建だってあれば、ビジネスまみれな神殿を、神聖なものに再建することだってありゃーさ!」
オオオオオオーーーーーーッ!!オオオオオオーーーーーーッ!!弟子達は一気に吼えました。
あんちゃんは腕を組んで、目を閉じ、鼻をすすって、えっへん威張りまくりです。しかし、それらの様子を見て、すこし疑問に思ったユダが、あんちゃんに質問します。
「そ、それじゃブラザーは、なんだって、こんな大それたことをわざわざ?」
「そりゃユダ。サロメちゃんの怒りと同じように、俺もアニキのグッズでたらふく設けている奴が、心底許せなかったからだよ」
「え?」
ユダは少しだけ、自分とブラザーとの距離感を覚えてしまいます。一番弟子のペテロはユダの疑問を無視して、あんちゃんに苦言をしました。
「元大工!カヤパ達にばれたらどうするんだ?ローマ帝国にも目をつけられたら、アニキの二の舞だぞ!」
「大丈夫だ。ユダがあんときに暴れてくれたからよ、今みたいな事ができたんだよ。さんきゅーな!ユダ」
「。。。」
しかし今度は咥えタバコのトマスが、そんなユダに苦言をします。
「だがよユダ。今回の件では、元ヤンにちゃんと感謝しろよ?
「か、感謝?なんでだよ?」
「元ヤンは照れるから、みんなの前で言わねーかもしれねーがな、お前が暴れた後始末をつけてくれたんだからな?」
「暴れた後始末だぁ??」
「当然だろ。お前がなんでブチギレてたかしれねーが、元ヤンがあそこで大それたことやってくれなかったら、今頃お前はローマ軍に突き出されて、ゴルゴダの丘で縛り首か磔刑よ」
たしかにユダは我を見失って、その先の事まで考えていませんでした。あんちゃんの機転が無ければ、トマスが指摘するように、商人達がユダをローマ軍に通報すれば、処刑は免れなかったかもしれません。でも、それでも、ユダは納得がいきませんでした。
「くそ、なんで俺ばっかりなんだよ。。。」
「ああ?ったく。泣き言は寝てから言えよ」
「うるせーな!大体よ!オメーら、俺がなんでブチギレてたかも知れねーくせに!」
すると一番弟子のペテロがユダを宥めようとします。
「そんなのどうだっていいんだよ、ユダ。気にするな」
「うるせーデブ!おめーは黙ってろ!」
「なんだとコラ!ツルっパゲ!表出ろや!」
ユダはペテロにも喧嘩を吹っかけてます。仕方ないあんちゃんはユダに近付いて、宥めようと思いました。
「おいおい落ち着け、二人とも。そんなに喧嘩すること無いだろ?ペテロも途中で割り込んで、ユダの気持ちを逆なでするな」
「す、すまね、元大工」
「ほいで、ユダ。お前は何に怒ってたんだ?」
ユダは他の弟子や、マリヤとサロメちゃんを見廻しました。この中には誰一人、ユダの疎外感を分かってくれるような人物はいません。そんな雰囲気で自分の辛さを暴露しても、笑われるだけだと思ってしまいました。
「ちゃーんと言ってみろ?ユダ。俺が聞いてやっから」
するとユダは鋭い視線であんちゃんを睨み、ある問いかけをしました。
「ブラザー。あんたは俺がなんで怒ってたか、分からないのか?」
「うーん、そりゃ俺は神様じゃねーもん。分からねーよ」
「それじゃ、その理由を知りもしないで、そのソクラテス式なんとかをするために、俺を利用したのかよ?」
「最初はそんなつもりじゃなかったけどよ、お前、目尻に涙浮かべてたからさ。なんとか助けたいって思ったのも本気だぜ」
ますますユダは分からなくなってしまいました。大義名分の為に人々へ訴えかけるあんちゃんと、自分を心配してくれるあんちゃんの姿に、ますます距離を感じてしまいました。
「あの商人がブラザーに対して言ってた事は、本当かも知れねーな」
「商人?なんか言ってたか?ユダ」
「『あんたの言い分は、自分達のことしか考えないエゴの塊じゃないか!』って言ってたさ」
「あれ?そんな事言ってたっけかな?アッハハハ」
笑って誤魔化すあんちゃんですが、ユダには全く笑えません。
「俺もその商人に同感だぜ!ブラザー、あんたは宇宙一のエゴイストだ!」
そのままユダは泣きながら、何処かへ走り去ってしまったのでした。
続く




