第九十三話
エルサレム神殿には、大工のあんちゃんを今か今かと待ち構えている、多くの人々でごった煮です。
「アニキ!あんたの遺言通り!愛の伝道師を俺達は応援するぜ!」
「頼む!愛の伝道師よ!ローマ帝国にバックドロップかましてくれ!!」
イカレポンチで罰当たりなアニキのファン達は、リーゼントにバスタオルを肩にかけ、まさに永ちゃんファン宜しく待ち構えていました。
「キャーキャー!ジョニー・デップ似のイケメン救世主はまだーーーぁ!?」
「ちょっと!後ろから横入りしないでよ!!」
「あああ!愛の救世主様!私の魂を奪い去ってくださいませぇーーー!!」
アル・アカバ村の未亡人女性達は、大きな扇子にボディコン衣装で着飾り、まさにバブル時代を彷彿とさせながら待ち構えています。
「兄弟共よ!!兄さんを迎える為にゃ!俺達も北風に吹かれながらフンドシいっちょだ!」
「兄さんもぜひ!フンドシになってくだせー!」
「ヤーレン、ソ~ランソ~ランソ~ラン~♪ハイハイ♪」
マグダラ村の漁師達も、フンドシいっちょで大漁旗を掲げ、まさに演歌の世界を彷彿させながら待っていました。一方、サドカイレーベルのカヤパは。。。
「大変です!カヤパ様!」
「なんザマスか?朝から騒々しい〜」
「愛の伝道師を名乗る男が、エルサレム神殿へやって来ました!」
「なんザマスって?!!!!」
カヤパのレーベルから神殿を見下ろすと、多くの人がごった返しになってました。カヤパは顔面蒼白で脂汗ダラダラです。
「キーー〜ーーー!どうするザマスか!!!?ピラトゥス総督閣下から、大目玉喰らうザマス!!!」
多くの人々の期待に応えるが如く、雌ロバの子供に乗った大工のあんちゃんは、ペテロを筆頭とした12人の弟子と、マグダラのマリヤにサロメちゃんを引き連れ、エルサレム神殿に近付いてきました。
「うぉおおおおおお!!!!愛の伝道師がやってきたぞ!!!!」
「きゃーーーー!!!!きゃーーーーーーーー!!!」
「兄さんだ!!」
待ち構えていた人々は、思い思いの応援の仕方であんちゃんを出迎えております!ロバの鼻先にリンゴを吊るしながらのあんちゃんは、にこやかに颯爽とみんなに応えております。横にはペテロとアンデレが歩いてます。
「いやー、ペテロ!!見たかこの俺様の人気!!!」
「元大工!最高だぜ!!これがお前が言ってた、人類の愛ってやつを釣り上げる瞬間か!!」
「へへん〜!正にビッグな存在よ!」
すると脇で涙ぐむマタイが、あんちゃんに感謝しています。
「先生!俺はリア充になって、本当に良かったです!」
「なぁ?そうだろう!こんな楽しいことは、部屋に閉じこもってたら、絶対に分からなかったもんな」
「あの時、先生が立ってる扉を開けて、本当に良かったですよ!」
「フフフフ!タンコブできたけどな」
フィリポもバルトロマイも万々歳で喜び、議論好きなヤコブとヨハネは人気の高さに圧倒されています。
「おい、元ヤン。中坊の頃から大した奴だと思ってたけど、やっぱりすげ〜な」
「ありがとうよ、白夜叉」
「お前は俺を卒業させてくれたからな、蒼夜叉よ」
隣にいるタダイに微笑むトマス、そんな二人をあんちゃんは嬉しそうに微笑んでいます。
「リーダーさ、本当に凄い奴なんだね」
「そりゃそうさ。なんせ俺はビッグな人間だからよ!」
感慨深いジェイコブとシモンも、あんちゃんの勇姿に惚れ惚れとしています。そんななか、たった一人でか、後ろから恨めしそうにそれらを見ている奴がいます。
「くっそう!ブラザーだけ、もてはやされてよ。俺だってオープニングアクトやってるんだYO!」
するとマリヤちゃんがユダに一言言います。
「まぁいいじゃないの、ユダ。たまには、あの人の格好いい姿も見ないと」
「はぁー?あの人!?マリヤ、その言い方何なんだYO?」
「あ、えっと〜、何でもなーい。アハハハハ」
しかしあんちゃんを見つめるマリヤの瞳は、何処かハートマークでした。そんなマリヤの姿を見て、ますますユダはあんちゃんを妬むようになっていったのです。
「くっそ…!」
「ちょっとそこの丸坊主。その言葉、スーパーダークにお下品ですわ」
後ろにはあの、サロメちゃんが歩いていたのです。まるでユダを煙たがるように、右手を払って退かすサロメちゃんは、愛するマリヤの元へ抱きつきます。
「マリヤお姉様ー!今日もとっても素敵な日ですね?」
「そうでしょう?!サロメちゃん!」
辺りを見渡すユダですが、人々の視線の先には、常に大工のあんちゃんへ向かっており、自分の存在なんてちっぽけな感じでした。その後ろからドドドっと、雪崩のようにファン達が押し寄せます。なんと、そのファンはあんちゃんのみならず、他の弟子達やマリヤやサロメちゃんにも声援を送ってます。
「トマス様ーーーーー!素敵!」
「アンデレちゃーん!可愛い!」
「バルトロマイくん!無口で格好いい!」
「照れ屋なフィリポくーーん!こっち向いて!」
ユダは必死に自分を応援してくれるファンを探し始めました。
「シモンさーーーん!あんた最高に渋いぜ!」
「ジェイコブ!俺の服を着てくれ!!」
「ヤコブっち!最高の映画は何だ??」
「ヨセフっち!最強の映画監督を教えてくれ!!」
焦り出したユダは、それでも必死に自分を見てくれるファンを探します。
「マタイの旦那!俺もあんたと同じように、ローマの税収人辞めるぜ!」
「ペテロのおやっさん!あんたの漁師の腕前を見せてくれ!」
「タダイくーーん!微笑んで!」
悔しがるユダの側に、二人の美しい女性達が近付いてきました。嬉しがるユダは、涙を流して両手を広げます。
「アハハハハ!やっと俺にもファンが。。。」
しかし二人はユダを通り抜け、そのままマリヤとサロメちゃんへ声援を送りました。
「マグダラのマリヤ様!尊敬しております!!」
「サロメ様ーーー!ぜひ踊って下さい!!」
殆ど除け者扱いのユダに、ようやく!太っちょの女の子が駆け寄ってきました。
「くっそう。俺にはあんなのしか残ってねーのかよ」
ドン!!
「ちょっと!邪魔しないでよ!」
しかし太っちょの女性は、ユダにぶつかったくせに、謝りもせずあんちゃんへ駆け寄ったのです。その反動で地面にぶっ倒れ、ロバのウンコ塗れになるユダ。
「汚ったない。誰あれ?」
「ああ、なんかユダとかいう、ボンボンでしょう?」
「ヤダー!ロバの糞まみれじゃない」
「何だってあんなのが、愛の救世主の弟子なわけ?」
ファンの心無い言葉が、除け者にされたユダの心を深く傷付けたのです。そんな賑やかで楽しそうな雰囲気が、今のユダには苦痛と悪意にしか感じられなかったのでした。
続く




