第八十七話
70番目のソロモン悪魔『地獄の君主セーレ』と共に、大工のあんちゃんを捜す旅に出かけたサロメちゃん。今まで噂でしか聞いた事がなかったので、とりあえずネットで人物画像検索してみました。
「えーっと、"愛の伝道師"っと」
検索結果には、『愛の伝道師ラブ・グル』に主演したマイク・マイヤーズと、なぜかバラエティ番組に出演中の石田純一。
「うーん。どう見たって二人とも怪しいわね」
すると地獄の君主セーレは、そんな悩んでるサロメちゃんに助言をします。
『"サロメご主人様。実際にその方と遭った人々に、どっちが本人か聞いてみてはいかがでしょうか?"』
「なるほど!さすがセーレ!頭がいいわね」
『"ヘロデ王様は、どこかで愛の伝道師と出会ってたと聞きましたが"』
「そうだったわ!確か、アル・アカバ村!すぐに参りましょう」
『"仰せのままに、サロメご主人様"』
ヒヒーーン!セーレの黒馬が再び鼻から炎を吐き出し、そして勢いよく空を駆け巡って行きました。さて、その頃ベタニア村で一か月の無償労働をしているユダと、アフロヘアの大工のあんちゃんはというと。。。
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
お気に入りのアフロヘアで、ビージーズの「ステイン・アライヴ」を熱唱中。横でサボっているユダは、あんちゃんの唄に完全にイラついてます。
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
「ブラザー。よく唄いながら無償の仕事できるな~」
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
「全然聞いてね~よ。少しは黙って仕事できねーのかYo!?」
しかし全く聞く耳持たないあんちゃん。次は70年代のディスコダンスで、そんなユダに対抗し始めます。
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
「うわー!うぜぇ。人の話を聞けって、ブラザーYo!」
それでもあんちゃんはディスコダンスしながら、今度はユダの頭を小突き始めました。
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
ポコ!!ポコ!!ポコ!!ポコ!!
「いて!何するんだYo~!?」
さらにあんちゃんは面白がって、ディスコダンスでユダの頭を小突きました。
「アッハッハッハ~♪ステイン・アラ~イヴ♪ステイン・アラ~イヴ♪」
ポコ!!ポコ!!ポコ!!ポコ!!
「あて!いってーな!やめろって!」
ディスコダンスをしながら、あんちゃんはそのまま畑仕事に精を出しています。痛がるユダの側へ、咥えタバコのトマスがやってきました。
「ユダ。おめぇー、ちゃんとマジメにやってるか?」
「クッ、トマスかよ。マジメにやってるって。ただな、さっきからブラザーが邪魔して仕事になんねーんだYo!」
「うそこけ、どうせお前サボってたんだろ?」
「本当だって。ずっとブラザーはディスコソング唄って、ディスコダンスで邪魔するしYo!」
「へぇ~、どれどれ?」
するとトマスは一服しながら、アフロヘアのあんちゃんをしばらく眺めました。ディスコソングを唄いながら仕事しているあんちゃんは、どんなに汗をかいても笑顔を忘れていません。
「ユダ。ひょっとしたら、あれが仕事をする理想の姿じゃねーか?」
「はぁ?何が仕事をする理想の姿だよ。ふざけてるだけじゃんかYo!」
「別にこの仕事は、元ヤンは手伝わ あくたっていいんだぜ。だけどお前一人じゃ可哀想だからってんで、付き合っているんだよ」
「そういうのがウゼーんだわ。小さな親切、余計なお世話Yo!大体ブラザーにそんなこと頼んでねーし」
「ユダ、そう言い方はねーだろ?」
「だって本当の事じゃんか」
「元はと言えば、おめーが悪さしたからだろーが?それでも元ヤンは気を遣ってるのが、まだ分からねーのかよ!?」
「。。。」
ノリノリのステップで、クルクルと器用に回りながら、アフロヘアのあんちゃんは陽気に楽しく仕事をしています。
「ユダ。俺は最近よ、あの元ヤンが馬鹿みたいに叫んでいる『無償の愛』ってやつが、なんとなくわかるようになってきたぜ」
「ケッ!くだらねー。そんなのこの世の中には、一銭の価値にもならねーYo!」
「だけどよ、タダだからこそ本当に価値あるものだって思わねーか?」
「タダだからこそ価値がある?分からねー。。。」
「あんなにいっつも楽しんでいる元ヤンを見ていると、ちっぽけな事に拘っている自分って、本当に小せぇーなってつくづく思うんだわ」
「。。。」
ユダの目には、アフロヘアで踊っているあんちゃんの姿と、今まで数々の大歓声を浴びてきた姿がオーバーラップしました。例えブーイングを受けようとも、観客一人一人に目を向け、とにかく愛を叫んで、ハッピーなライブしている姿を。そんな姿が羨ましく、ユダはビッグマネーをゲットできるような、ラッパーになりたいと思ってたくらいでしたから。
「元ヤンは世界中でビッグになるって、俺たちに豪語してるんだから。もう少し付き合ってやろうぜ?」
「ああ、トマス。ブラザーの言うビッグが何かを見届けてやるぜ!」
すると突然!あんちゃんはユダにクワを投げつけてきました
ビュン!
「うわ!?」
「あぶねー!!」
スギーーーーーーン!ギュンギュン!あんちゃんの投げたクワが、トマスとユダの間の地面に刺さりました。
「こらー!トマス!ユダ!何べっちゃぐてるんだ!?暇なら手伝え!ったくよー」
さすが元ヤンキー。舎弟がサボっているのは見逃しませんでした。
一方、ようやくアル・アカバ村へ着いたサロメちゃんはというと、村の頭上で宙に浮いたまま、セーレと共に、ゆっくり地上の様子を眺めていました。
『"着きました、サロメご主人様"』
「ここがアル・アカバ村ね?」
アル・アカバ村の人達の表情はとっても明るく健康的でした。男共は戦場に駆り出され、殆ど全員が戦死してしまっているので、ここの村人達は女性ばかりなのです。するとある女性が、宙を浮いているサロメちゃん達を、不思議そうに眺め始めました。
「あれって、何かしら?」
次第にその物体はゆっくりと降りてきます。その姿は誰の目から見ても、ソロモンの悪魔セーレとその愛馬!
「キャーーー!悪魔よ!!!ソロモンの悪魔が降臨してきたわーーー!」
「逃げてー!みんな逃げてー!」
ヒヒーーン!
セーレの黒馬が再び鼻から炎を吐き出すと、村人はビビって怖がって、逃げまくりです。そんな事さえ気が付かないサロメちゃんは、紫のパラソルを開けて地面に降り立ちます。
「なぁに?村人はみーんな逃げて。スーパーダークな気分」
『"どうや私の姿を見て、逃げ出したようです"』
「あたしはヘロデ国王の義理の娘よ!プンプン!」
物陰に隠れている村人も、次第にサロメちゃんの存在に気が付き始めました。
「あの方って、まさかヘロデ王の皇妃の娘じゃないかしら?」
「ええ!?あの妖しい舞で旅人を惑わす、サロメお嬢様なの?」
「確かにゴスロリ系のファッション。似てなくもないわね」
「それにしても、何だってソロモンの悪魔と一緒にいるのよ~」
そんな村人の噂話も知らずに、村人に対してiPad2を手にして呼び掛けるサロメちゃん。
「アル・アカバ村のみなさーーーん、少々お尋ねしたい事がありますの~!」
シーーーーーーーーーーン。。。
村人は誰もが怖がって出てきません。
「お願ーーーーい!みなさん出てきてー!あなた達って、愛の伝道師と出会ったんでしょ?どうしても探しているの~!」
!?
すると愛の伝道師という言葉を聞いた村人達はお互いに顔を見合せました。
「あら?今サロメお嬢様、あのイケメン大工の事言わなかった?」
「ええ。あたしも聞いたわ、確かにメシア様の名前よ!」
そうなると村人の女性達は、一斉にゾロゾロと出てきました。
「ど、どういう事なの?」
『"きっと噂の愛の伝道師は、村人全員に好かれていたのでしょう"』
「こ、こんなにも?それにしてもすごい数じゃない」
『"そうらしいですね"』
気が付くと、終いには村人の女性全員が、お祭り騒ぎで出てきたのです。サロメちゃんは、あんちゃんの凄まじい人気に、顎が外れるほどビックリしちゃったのでした。
続く




