第八話
フェス。
それは、通称ロック・フェスティバルの略の事。有名なものでは米国のウッドストックや、英国のグラストンベリーなどがあります。最近の日本でも、富士山が見えないのにフジ・ロックなどという名前で人気です。
さて、大工のあんちゃんがいるユダヤ王国でも、罰当たりな小僧達が中指おっ立て、こぞって泥だらけになりながらフェスを楽しんでました。その名も『ガリ・フェス』。ガリラヤ湖付近にある岩山で開かれていました。
「イエーーーー!おめぇら!よくぞ、このマザーファッキングなガリ・フェスにきたな!」
「うおおおおおおおー!アニキ・ザ・ヨハネ!!最高だぜ!!」
「うりゃーーー!!!これでも喰らえ!」
「かっけーーーーー!!!!!アニキ!俺にも泥水掛けてくれ!」
「どりゃーーーーーー!!!てめぇら最高なサノバビッチだぜ!」
さすがアニキ・ザ・ヨハネ。そのパンキッシュな姿勢とカリスマ的な存在は、罰当たりな小僧達の心をくすぐり、糸も簡単に鷲掴みにしています。大工のあんちゃん達も、奇跡的にガラリア湖の嵐を抜けて、やっとこガリ・フェスに辿りつきました。
「うおおお、すんげーな?ペテロ!ここのフェスの盛り上がりは!」
「大工、なんだかみんな泥だらけだな~」
「馬鹿野郎、それこそフェスの醍醐味じゃんか。俺も嵐の中でゲットしたシャウトで、あの罰当たりな小僧達を盛り上げるぜ!」
どうやら嵐のミラクルは、大工のあんちゃんにとっては単なるシャウトの練習だったようです。するとガリ・フェスを管理している熱心党のシモンがやってきました。
「どうも初めまして、このフェスを管理する熱心党のシモンです」
「あ、どうもどうも、初めまして。この度は出演のオファーをありがとうございます!」
「いえいえ、貴方が最近人気だと聞きましてね、ぜひ参加していただきたかったのです」
「それはそれは!光栄なことです」
シモンはとても大柄で立派なひげを蓄えた、礼儀正しい大人の雰囲気がある人物でした。因みに彼が所属する熱心党とは、ヤクザ・ローマ帝国を追い出して、独立しようと奮闘しているレジスタンスのことです。
「それにしても、貴方があの有名な大工さんなんですね?」
「ええ、まぁ、大工は昔の話なんすけど、最近は司会のバイトなんかやってますが、基本は(キッパリ!)『愛の伝道師』っす!」
「おおお『愛の伝道師』ですか~。これまた壮大なバンド名ですね」
「バ、バンド名?ええ、まぁ~ね。あははははは、」
「ぜひとも今夜は盛り上げてくださいよ」
「任せてください!シャウトもばっちし練習きましたから」
「それは頼もしい!」
シモンは太い腕を組みながら、泥だらけでフェスを楽しんでいる小僧を達を眺めています。大工のあんちゃんもその横で一緒に眺めています。
「どうです?このフェス。異様な盛り上がりでしょ?」
「いやーすごいですね。噂に聞いてましたが、こんなにすごいとは。。。」
「何というかね、このフェスを管理する者として、嬉しい限りなんですよ」
「でしょうねぇ~。こんなに盛り上がれば」
「まぁそれもありますけど、この罰当たりな小僧達のパワーがやがて反社会的な革命とかわり、ブクブク太った金持ち連中とかをぶちのめし、いずれヤクザ・ローマ帝国を追い出しくれると思うと、嬉しくてしょうがないんですわ」
良く見るとフェスの入場バンドは、みんな熱心党のマークが入っていました。当然大工のあんちゃんの腕に掛かる入場バンドにも熱心党のマークが刻まれてます。
「大工のあなただって嬉しいでしょう?ヤクザ・ローマ帝国のみかじめ料に悩まされる事なんて、もう無くなるのですからね」
「その事、観客の彼らは知っているんですか?」
「あはははは!知っているわけないじゃないですか。彼らはいずれ熱心党に入ってもらうことにはなるでしょうけどね」
「......」
「さぁさぁ大工さん、貴方はこのガリ・フェスのオオトリですから!ぜひとも盛り上げてくださいね」
今までは散々フェスの盛り上がりに興奮していた大工のあんちゃん。しかし、熱心党のシモンの話を聞いてから、急に一人で真剣な表情になって黙りこけてしまいました。さすがの弟子達も、あんちゃんの様子に心配そうにしています。
「大工のあんちゃんどうしたんだろね?ペテロ兄ちゃん」
「さぁ?どうせ大工の事だから、腹でも壊しているんじゃねぇか?」
「きっとさっきのシモンになんか言われたんだよ」
「いまさらチェリーと言われても、あいつの心が折れるわけないだろうしな」
一方会場では、さらにアニキ・ザ・ヨハネが罰当たりで泥だらけな小僧達を扇動し、ガリ・フェスは反社会的で攻撃的な雰囲気で異様に盛り上がっていきます。
「いいか!?小僧ども!ローマ帝国サノバビッチだ!ユダヤの金持ちなんかファッキンシットだ!」
「うおおおおおーーーーでたーーーーー!アニキの『奇跡の中指』だ!」
「すげーーーー!今度は両手で中指おっ立ててるぜーーー!」
「てめぇらの握られた拳は!お前達のマザファッキンな敵に向かってぶつけるもんだ!俺に続いて叫べ!」
「うおおおお!アニキーーーー!俺達はついてくぜ!」
「ローマ帝国サノバビッチ!ユダヤの金持ファッキンシット!」
「うおおお!アニキ最高だ!ローマ帝国サノバビッチ!ユダヤの金持ファッキンシット!」
そんな喧騒を余所に、大工のあんちゃんはどこか寂しそうに彼らを眺めていました。フェスから用意された葡萄酒にも魚にもパンにも全く手を付けず、時には一人静かに、一点を見つめて何かを呟いたり。さっきまでの意気揚々としたあんちゃんとは打って変わって、ただひたすらジッと座って、自分の出番をじっと黙って待ってました。
「おいおい、ペテロ。やっぱり今日の先生は、絶対に変だぜ」
「ああ、マタイ。確かにあの様子は絶対におかしい」
「大体、先生は、このギャグ物語の主人公だろう。いいのかよ?あのままシリアスで」
「よくねぇーな。これ以上シリアスになりやがったら、読者離れるじゃねぇか」
「なんとかしてくれよ、ペテロ」
「分かった、マタイ。ちょっくら俺が、あの大工にお灸を据えてやる」
ペテロはすっかり黙りこくって、面白くもなんともない大工のあんちゃんへ一喝しに行きます。
「おい大工!いい加減にしろよ!なんか喋れ!それとも緊張しているのか?」
「......」
「おい大工!」
するとキラリ光る鋭い眼光を見せるあんちゃん。
「少し黙ってろ、ペテロ。俺は今、猛烈に怒ってるんだからよ」
「?!」
その眉間にしわを寄せた険しい表情は、今まで見てきた陽気なあんちゃんの表情とは違っていました。その雰囲気に、さすがにペテロも慄いて近づけません。
「そろそろ出番か?それじゃ、ちょっくら行ってくる」
あんちゃんは一本のアコースティック・ギターを片手に持って、ステージへ静かに上がって行きました。一体、大工のあんちゃんの身に何が起きたのでしょうか!?やはりチェリーと言われて猛烈に怒っているのでしょうか?それとも今までのギャグ路線から、急にシリアスな展開に突入したのでしょうか!?気になるこの続きはwebで!
続く




