第七十六話
アニキのファンである、多くの罰当たりなガキんちょ達が詰め寄ってきたその時でした!
ぶっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんん!!
なんとあんちゃんの全身から、突然紅蓮の炎が燃え盛りだし、血管が浮き上がった両手拳を握りしめ、恐ろしい形相であんちゃんは叫び出したのです!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「誰がチェリーって言ったぁーーーーーーー!!!!??」
さすがロックシンガーのあんちゃん。その声は野太く辺りを圧倒するには十分です。たまった油に水を垂らしたように、圧倒されたガキんちょがあんちゃんの周りから後ずさりしました。今では陽気な愛の伝道師のあんちゃんですが、その昔は、泣く子も黙るナザレ三中をシメてた元ヤンキーだったのです。
「おう!おう!どうしててめぇーらは、そうやって自分の気に入らねぇー事があると、いじめっ子になるんだ!ああん?」
「だ、だってよ、アニキの追悼ライブしてたら、あんたが突然乱入してきてよ」
「だからって、人には触れちゃいけねー事だってあるだろーが!そんなこともわからねぇーのかよ!」
「で、でもよ」
「デモもくそもあるか、このくそったれ!てめぇーだって、みんなからマザコンの引き籠りって言われたら、傷付くだろう?!ああん?」
「な!なんでそれを!?」
さすがミラクルあんちゃんです。無意識で神通力を使い、ばっちり相手の素姓をすっぱ抜きました。そしてさらに横にいるガキんちょにも指をさします。
「おう!そこのお前!お前なんか、先週女にフラれて一日中泣いてただろう?その腹いせでこのライブに来てるだけじゃねーか?!」
「ど、どうしてそれを!」
「そこの横にいる、チビ!お前なんか、生前のアニキを散々馬鹿にしてたのに、アニキが亡くなった途端、熱烈なファンの面しやがって!」
「うわ!!?どうして!?」
ミラクルあんちゃんは自分の神通力で、次々とアニキのファン達の素姓を暴露しまくりです。結局ファンのガキんちょ達も、それほどチェリーなあんちゃんと大差なかったのでした。
「おめぇー達は、結局アニキの事を何も分かってねーじゃんかよ!!」
「。。。」
「そりゃーお前達が言うように、ひょっとしたら!童貞かもしんない俺がだな~、お前達の心を踏みにじっちゃったかもしんねぇー。それは心から謝る。悪かった!すまん。でもな、人の話は最後までちゃんと聞け!」
「。。。」
結局、ミラクルあんちゃんはステージの上であぐらをかいて、アニキのファンであるガキんちょ相手に説教を始めたのです。
「いいか?よーく思い出してみろ。アニキは自分より弱い人間に手を出したことがあるか?」
ブルブルブル。ファン達は首を横に振ります。
「アニキはいつだって、強い者達だけに対して、中指を立ててただろう?」
コクンコクン。ファン達は首を縦に振ります。
「なのに、ファンのお前達が弱い者いじめしてどうする?」
ズーーーーン。ファン達は落ち込んじゃいました。
「結局お前達は、何かに便乗して暴れたいだけの弱い人間じゃねーか」
ミラクルあんちゃんに鋭く指摘されたがきんちょ達は、何も言い返せなくて黙っていました。まるで嵐が去った後の海のように、静まり返ってしまったのです。流石に気の毒に思ったあんちゃんは、ちょっぴり悪い事したなって思いました。
「まー俺もクドクドと説教するのは好きじゃねーから、今日はあれだ!アニキに代わってこの際、おめーらの不安とか全部受け止めてやっから。なんでも質問してこい!」
ファンのガキんちょ達は、あんちゃんの太っ腹な心意気にびっくりしています。
「まずは、そこのマザコン引き籠り!おめーからだ!」
「はい。。。僕はずっとイジメられてて、学校に行っても独りぼっちで。それ以来、家から出るのも怖くなっちゃったんです」
「そっか。でもよー、お前は今こうやって、アニキの追悼ライブに参加してるじゃねーか」
「!?」
「安心しろ。好きなことの為だったら、お前はちゃんと頑張れる人間なんだよ」
あんちゃんの優しい言葉に、彼は涙を流して感謝をし始めました。あんちゃんも両腕を組みながら、一緒に涙を流して頷いてます。
「つぎは、そこの女にフラレた坊主!」
「はい。兄さんに言われた通り、俺は女にフラレて自暴自棄になってます。どうしたらいいんでしょう?」
「女を好きになると、男ってどうしても自分は正しいって思いがちなんだよ。だがよ、お前だって苦手なものがあるだろ?」
「はい、あります」
「相手の女の子もあると思うしかない。アニキも言ってたぜ?『助けようとした貧困層から、自分は理解されなかった』ってよ」
「そうだったんですか!?」
「ああ。だからアニキは彼らから理解されるために、自分を変える努力をしていったんだ。だからお前も、自分のフラレる原因を追及して、弱点を必殺技に変えてみろ!」
「あ、ありがとうございます!」
彼もまた、涙を流しながら、あんちゃんの熱いハートに感謝感激です。
「今度は、そこのチビか?」
「はい。僕はずっと背が低かったから馬鹿にされたくなくて、つい自分を大きく見せちゃうんです。でも、本当は見下されてるんじゃないかって、不安で不安で仕方ないんす」
「ばかやろう。チビのどこが悪いんだ?」
「で、でも」
「お前はゼウスを知ってるか?」
「ギリシャ神話の天空の神ですよね?知ってます」
「その天空の神ゼウスだって、巨人族タイタンに比べたら十分チビだぜ?」
「!?」
「いいか?背が低いってことは、それはお前が生まれ持った才能なんだ。自分の背を伸ばすことを考えるんじゃなくて、その才能を伸ばすことを考えて生きてみろ!そうしたら、きっとお前を必要にしてくれる人が現れるんだ」
「に、兄さん!あーざっす!」
彼もまた、大泣きしながらあんちゃんに握手して感謝感激です。次第にファン達の中から、あんちゃんに対する尊敬のまなざしが注がれるようになっていったのです。そして次から次へと、多くのファンが押し寄せてきました。あんちゃんは立ち上がって、マイクを持って応えます。
「兄さん!俺、将来が不安なんです!どうすりゃいいですか?!」
「"安心しろ!ようやく歩いた赤ん坊も、世界を支配してるローマの独裁者も、最初はみーんな不安だったんだ!不安なのはお前ひとりじゃねーぜ!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!
ファン達は一斉に驚嘆の歓声を上げました
「兄さん!兄さん!俺、友達がいなくてさびしーっす!」
「"馬鹿野郎!友達の数で競い合うから寂しいんだ。友達の質で競い合え!いなければ自分から話しかけろ!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
さらにファン達は一斉に驚嘆の歓声を上げました
「兄さん!俺は生きているのが辛くてしょうがないっす!」
「自分の胸に手を当てて、そのハートビートをよーく聴いてみろ!お前の落ち込んだ気分なんかと関係なく、いつだって最高のリズムを奏でているぞ!」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
さらにさらにファン達は一斉に驚嘆の歓声を上げました。そして、あんちゃんは右手の人差し指を、天高く上げて、罰当たりなガキんちょ達に熱いメッセージを伝え始めたのです。
「"嘆き悲しんでる自分を不幸だなんて思う必要はねぇーんだ!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
「"ダサくたっていいじゃねーか!だれがそんな事を決めたんだ?!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
「"他人に嫌な事されて、仕返しに同じことを他人にしたって、お前達の寂しい心は絶対に救われねぇーんだ!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
「"だったら偽善者と呼ばれてもいいから、人の為に善いことをしてみよーぜ!まるで自分を救うようにさ!"」
ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!ウオオオオオオオオオ!!!!
ガキんちょ達は猛烈に感動しています。ある者は涙を流し、ある者は祈り、ある者は土下座をし、ある者は笑い、ある者は肩を組んで語らい、みんなあんちゃんの熱いメッセージに感化されていったのです。ステージ上から、あんちゃんは後ろに掲げられたアニキの肖像画を眺めました。するとさっきまであった中指が、不思議と消えているではありませんか。あんちゃんは感慨深い表情で、アニキの肖像画をずっとがきんちょ達と一緒に眺め続けていたのでした。
パチパチパチ!パチパチパチ!パチパチパチ!パチパチパチ!
バックステージにあんちゃんが帰ってくると、ロボスが拍手をして待ち構えていました。
「素晴らしい!あんちゃんさんはさっすがだな!ガキどもの心を一気に鷲掴みだ!」
「ロボスっち、ありがとうよ。でも、そろそろあんたも自分の正体を晒す番だろ?」
「ほう?どういう意味かな?」
ロボスは拍手する手を止め、瞬きもしないであんちゃんをじっと見つめます。
「実はよ、俺がアニキに勧められて断食をした時、変な奴から声をかけられたことがあったんだ」
「へぇー。変な奴からねぇ~」
「そいつは俺に、石をパンに変えろだの、乱交させてやるだの、王にさせてやるだの言ってきてよ」
「。。。」
「まぁー俺は腹が減っててそれどころじゃなかったから、丁重にお断りしたんだけどな」
あんちゃんも不敵な笑みを浮かべながら、ロボスをじっくり眺めてます。
「そして今回も俺一人で修行中。しかもギリシャ語のロボスって名前でピーンと来たんだわ」
「ほう?」
「ロボスっち、あんたの正体って、本当は蛇のウロボロスだろ?」
続く




