第七十五話
今日も大工のあんちゃんは読書の時間です。とっても感情豊かな表情で、クセノポン著作「ソクラテスの思い出」を熟読しております。
「ううう。だよな~、やっぱりそうだよな~」
あんちゃんは本を読みながら、鼻水と涙を流しながら、感動して何度も頷いています。ロボスはそんなあんちゃんに声をかけました。
「おはよう、あんちゃんさん」
「ううう、おはよう~ロボスっち」
「なんだなんだ?またまたソクラテス先生の本を読んで、今度は大号泣かい?」
「だってよー、ソクラテス先は本当に素晴らしいんだぜ。うちの弟子達も、もっとお互いに信じあって分かりあってくれればな~」
「そうは言っても、人間なんて自分の都合で動いているんだから。みんながみんな、分かりあうことなんて不可能だろう?」
するとあんちゃんはまじめな表情で、ロボスに語り出します。
「ロボスっち、それは違うぜ」
「ほほう?」
「だってよ、やっぱり人間、愛を信じる心があるじゃないか」
「うーん、そうか?そんなに簡単な事じゃないだろう?そもそも、生まれも育ちも違うんだから」
「いや、生まれも育ちも違っても、誰であろうと愛し合うのが本当で、それが実現できたときにこそ、本当に互いに幸せになれると思うんだよ」
あんちゃんの熱弁に、ロボスも再び口元をクイっと上げて微笑みます。
「相変わらずあんちゃんさんは、熱いハートの持ち主だな」
「イエーイ!俺は脚の伝道師だかんな、ロボスっち」
「それなら、ちょっくら付き合って欲しいところがあるんだけど、いいかい?」
「うげぇ!またかよ~、今度はどこ?」
「来ればわかるさ♪」
ロボスは両手をポッケに入れて、口笛を吹きながら向こうへ歩き始めます。あんちゃんは「ソクラテスの思い出」を胸に抱え、掌に人という字を三回書いて口の中に入れ、ロボスの後を付いていきました。しばらく二人が歩いていすると、多くの罰当たりなガキんちょが集まっている会場に出くわします。
「ここだ、あんちゃんさん」
「ロボスっち、ここは!?」
「そう。故アニキ・ザ・ヨハネのファン達が結成した、アニキ教団のトリビュート・ライブだ」
【トリビュート・ライブ】
偉大なアーティストに対する感謝や尊敬を表すライブの事である。対象アーティストが既に死去した場合には、追悼ライブや追悼コンサートなどと呼ばれる場合もある。
「さぁ!あんちゃんさん、アニキ教団の連中達に向かって、あんたの信じる愛ってやつを語ってくれ」
「。。。」
「知っての通り、あいつら過激なガキんちょ達は、アニキを熱烈に崇拝している信奉者達だ。そんな奴らの前で、奴らの心に愛が響くのかを見てみたい」
俯いていたあんちゃんは、突然腹から笑い出しました。
「グワッハッハッハッハッハッハッハーーーー!」
「およ?」
「ロボスっち、今度こそは俺の勝ちだな!」
「何!?」
「俺を誰だと思っている?あのアニキから洗礼を受けた、正にアニキの次期継承者なんだぜ」
「ほうほう」
シャキーーン!!
あんちゃんは人差し指を天に差し上げます。
「つまりだ!俺はアニキから直々に認められたんだよ!つまる処、アニキのファン達を説得することなど、お茶の子さいさい!」
「そいつは見物だな、あんちゃんさん。ではじっくり見ているぜ」
あんちゃんは両腕をブンブン振り回して、自信満々と意気揚々でステージに上がって行きました。その後ろ姿を眺めているロボスは、口元をクイっと上げて両腕を組んで嘲笑しております。
「アニキーーーーーーー!!!!なんで死んじまったんだよ!!」
「アニキがいなければ、俺達はどうすりゃいいんだよーーーー!?」
「頼むアニキーーー!蘇ってくれ!!!!」
アニキ追悼ライブのステージには、不敵な笑みを浮かべて中指を立てている、あのアニキの肖像画が掲げられております。尊敬する多くのアーティスト達は、偉大なる存在を称えてました。ファンのがきんちょ達は泣き叫びながら、アニキが残したパンキッシュな曲を唄っていました。
「"よう!みんな!元気だったか?"」
なんと!ニコニコ笑顔なあんちゃんが、陽気な感じでステージ中央に入ってきたのです。
「誰だあいつ?」
「アニキの曲を邪魔しやがって」
ガヤガヤガヤ、ガヤガヤガヤ、ガヤガヤガヤ。
しかし場違いなあんちゃんは、お構い無しにロックスター宜しくです。
「"今までお前達を待たせちまって、本当にすまねぇ~」
ガヤ、ガヤガヤ、ガヤ、ガヤガヤ。
「"俺はアニキの弟分である、愛の伝道師だ!"」
シィーーーーーーン。
ついに観客席は静まり返えってしまいます。
「"アニキ亡き混迷した時代、次期継承者として、今日はお前達に話したい事があるんだ!"」
あんちゃんは静まり返った観客席に向け、場違いで陽気なオーラを発しながら話しだしました。当然アニキの熱烈な崇拝者達は、あんちゃんの陽気な笑顔に鋭い視線を送ってます。
「"アニキも別れ際に言ってくれたんだ。だからさ、やっぱり愛を信じないといけないんだわな~!"」
すると、さすがに我慢が出来なくなったファンが、泥を投げました。
ベチャ!
「!?」
あんちゃんの顔には、見事泥がヒット。一体わけがわからない状態です。
「このペテン師め!何がアニキの弟分だ!」
「そうだ!そうだ!てめーみてぇーな青くせぇ歌に、アニキが賛同するわけねーだろ!」
「帰れ!帰れ!俺達はお前みたいな根性無しを認めはしねー!」
「そうだ!そうだ!何が愛を信じろだ!くそったれー!それでアニキは殺されちまったじゃねーか!」
アニキ教団のファン達は、次々とあんちゃんへ泥を投げ始めました。何が起きているか分からないあんちゃんは、茫然と立ちすくんで泥まみれ。前回のガリ・フェスでは、あのミラクルなダンスで、投げつけられた全ての泥を避けていたのにです。
「アニキに認められただ?ふざけんな、この売名行為野郎め!」
「大体!アニキが一生懸命バラバとデスマッチ勝負してた時、てめぇーは何をしてたんだよ!?」
「どうせ正月の餅ばっかり喰って、寝腐ってたんだろーが!」
「今はアニキ追悼ライブなんだ!空気を読めーー!!」
ますます過激になってくるアニキのファン達は、泥だけでなく色々な物を投げつけ始めました。そして観客席のあちらこちらから、あんちゃんの態度に怒り狂ったファンが飛び出して、もはや暴動に近い状態。あんちゃんもさすがにこの状態には戦くしかありません。
「あんちゃんさん。どうやらあんたの予想外だったようだね?」
ロボスはまたもや不敵な笑みを浮かべながら、慌てているあんちゃんの様子を高みの見物です。
「何が愛の電動コケシだ!!アニキを侮辱しやがって!」
「そうだそうだ!あんな愛なんて叫んでる青くせぇ奴は、みんなでフルボッコだぜ!」
「みんな!あのチェリーをぶっ殺せ!」
多くの罰当たりなガキんちょ達が詰め寄ってきたその時でした!
ぶっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんん!!
なんとあんちゃんの全身から、突然紅蓮の炎が燃え盛りだしたのです。調子乗ってた罰当たりなガキんちょ達も、異様な雰囲気で俯いているあんちゃんの姿に、フルボッコを躊躇しました。そしてあんちゃんの周りには、地割れのような途轍もない音が響いてきたのです。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
キラーーーン!恐ろしい形相、鬼のような眼つき、血管が浮き上がった両手拳を握りしめ、ついにあんちゃんはブチキレて叫び出したのです!
「今!!!誰がチェリーって言ったぁーーーーー!!!!??」
続く




