第七十三話
大工のあんちゃんが駆け付けると、幼気な子供を人質に取った若者が、刃物を振り回して吠えてました!
「おめーら!殺してやるぅううう!全員炎上だーーーー!!」
ブンブン!ブンブン!
刃物を振り回す若者は、明らかにブちぎれてます。村人達もあんちゃん達も、誰も彼の周りに近づけない様子。
「なんて野郎だ!あんないたいけな子供を人質にとりやがって!」
人質に取られた子供の名前はリベカで父親はベトエル。そう、あのバラバが救った親子だったのです。彼女は犯人に脅えに脅えて、泣きじゃくってます。
「お父ちゃーーーーーん!!怖いよーーー!!!」
「ああああ!リベカ!!!!」
あんちゃんを呼んだベトエルは、やるせない気持ちでいっぱいです。
「一体何があったんだ?」
「あの若者は、うちの娘リベカにちょっとぶつかっただけなんだ。そしたら突然暴れ出して。。。」
「ったく!最近のガキんちょわ!!!!何考えてるんだ!?」
するとあんちゃんは一人、ズンズンと身を乗り出して若者のいるほうへ近づこうとしました。しかしロボスはあんちゃんの肩を押さえて制止します。
「やめとけ、あんちゃんさん。どうせあの若者の疲れて腹が減れば、怒りがおさまるだろう」
「何を言っちゃってんのよ、ロボスさん!?今、目の前で子供が人質になってんだぜ?」
「まさか、あんたが助けるのか?」
「ああ。人間誰でも話し合えば、分かりあえるってもんよ」
「そうかね?」
「ああ。それに誰かが助けなきゃ、危ないだろう?」
「だが、それであんたが死んじまったら意味無いだろう?」
「大丈夫だ!これでも、多少はアニキの技がある」
「それじゃ、子供がケガをしちまったらどうするんだ?」
「。。。」
しかしあんちゃんはロボスをキッと見つめ、袖をまくって、キレてる若者を説得し始めました。
「おい!お前!お前だよお前!」
「だ、誰だ!?」
「今すぐ、その子供を離すんだ」
「なんだてぇめーーー!?」
「いいから、そのナイフをこっちによこせ」
「はぁ?何言っちゃってんだよ!ふざけんな!」
さらに若者はブチギレて刃物を振り回し始めました。しかしあんちゃんは怯みません。右手を差し出したまま、じっと若者の目を見つめています。
「お前がブチギレて刃物を振り回したい気持ちは、俺にもよーく分かる!だがな、そんなことして何になるんだ?」
「うるせーーー!どこの馬の骨だかわからねーよな奴が、偉そうにぬかしてんじゃねーぞ!」
「お前はまだ若いじゃねぇーか。夢も未来も希望もあるじゃねーか」
「てめぇーは何様のつもりだよ!ああん?」
しかしあんちゃんは両腕を組みながら、クドクドと説得を続けています。
「いいか?俺も10代の頃は、そりゃーいっぱいムカついた事ばかりだった」
「なんなんだよ、てめーわよ!」
「女にはモテねーし、ギターも弾けねーしで、馬鹿にされてよ、おまけに中免の試験も三回受けたもんだ」
「べちゃくちゃ喋ってんじゃねーよ!このガキ殺すぞ!」
「だがな、今考えれば楽しい思い出だよ。若い頃の苦い体験なんて、後になれば笑い話になるんだよ」
「うるせー!黙れ!」
「お前もよ、もうそろそろ成人式だろ?一時の感情で、自分の人生を棒に振るんじゃない」
「てぇめー!サスペンス劇場の説得刑事のつもりか!?そんな手には乗らねーぞ!」
若者はナイフをリベカの右肩そばまで突き付けました。堪らずベトエルは土下座をし始めます。
「たのむ!若者よ!お前の欲しい物はなんでもやる!だから、うちの娘のリベカを離してくれ!」
「俺の欲しい物だ?」
「ああ。あんたさえよければ、うまいもんだっていっぱい食わせてやる!」
しかしあんちゃんはベトエルの土下座を止めます。
「こんな分からず屋のガキんちょに、あんたがわざわざ頭を下げる事はない」
「そ、そんな!」
「悪いのはブチギレて刃物を振り回しているこのガキであって、娘を人質に取られたあんたじゃない!」
「でも、このままじゃリベカが。。。」
しかしあんちゃんはベトエルの話を聞かず、今度はガキんちょに熱血教師で対抗します。
「おい!貴様!あの夕陽が見えるか?」
「はぁ!?」
「いずれ夜になっちまう。だがな、夜が来れば必ず朝もやってくるんだ!お前は今、夢も希望もない、夜の中で彷徨っているだけなんだ」
「今度は金八かよ!ごらーーー!!ふざけんな!」
「もうそのナイフを振り回すな!俺と一緒に肩を組んで、あの夕陽に向かって愛の歌を唄おうぜ!」
「もう許せねぇ!!!!!」
するとキレてる若者は、リベカの肩をすっと切りつけました。
「キャーーーーーーーーー!!!!」
「リベカ!!!!!」
リベカの父親は膝を落として、震えています。あんちゃんはさすがにその行為にブチぎれました。
「てんめぇーーーーーー!!!!何やってやがんだ!!!!!!???」
するとあんちゃんはクルクルっと、宙を舞い、全身を竜巻のように回転させました。
「秘儀!スペース・ローリング・ソバット!!!!!!!」
ドカ!!!
「ウゲ!!」
あんちゃんのローリング・ソバットは見事、若者の顔面を蹴り上げて倒しました。
「リベカーーーー!!!」
「お父ちゃん痛いよーーー!!!」
リベカの肩からはかなりの血が流れています。あんちゃんはすぐにリベカを抱えるベトエルの下に駆けつけます。
「だ、大丈夫か?」
「近寄らんでくれ!!!」
「え!?」
キッとあんちゃんを睨みつけるベトエルは、恐ろしい形相でした。後ろのほうではロボスが、両腕を組んでじっと眺めています。
「あんたがあの若者を変に刺激しなければ、うちのリベカは此処までケガをしなかったんだ!!!」
「う!それは。。。」
「この子は女の子なんだぞ!この傷は、一生残るんだ!」
「す、すまない。。。」
「変な正義感を振り回して!あんたは自分に酔いしれて、リベカを危険にさらしただけじゃないか!」
あんちゃんは俯きながら何度も反省して謝りますが、ベトエルの怒りはおさまりません。リベカの傷は思ったよりも浅く、大事に至らないようでしたが、それでも切りつけられた恐怖に脅えています。
「もう帰ってくれ!!」
「申し訳ないっす。。。」
ボロスは黙って静観しています。悔しいあんちゃんは、両手で拳を握りながらじっと歯を食いしばり、俯いたまま立ち竦んでいました。そんなあんちゃんにロボスは、ゆっくり後ろから近づいて、ようやく話しかけます。
「あんちゃんさん、気分はどうだい?」
「。。。」
「俺の言ったとおりになっただろう?」
「ああ。。。」
「全く人間なんて、所詮勝手な生き物だと思わないか?あんたが必死に若者に言葉を投げかけても、違う時代を育った奴の心には、何も響かなかった」
「。。。」
「それに、あの農夫のベトエルは、リベカを助けようとしたあんたの失敗を非難して、責任転嫁さえもしているのだから」
「そうさ、ロボスさん。あんたの言うとおりさ」
ロボスは再びニヤっと口元をあげて、あんちゃんを眺めてます。もっとも気分が沈んだ状態で落ち込んでるあんちゃんは、自分に嫌気がさすように言葉を吐き出します。
「俺は、何て傲慢で最悪な奴なんだ。。。」
続く




