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第七十二話

その頃!大工のあんちゃんはというと!


「とう!うりゃ!とう!」


なんと!アニキの幽霊とあって怖くて逃げ出していたのではなく、たった独りで修行に励んでいたのです。しかも毎日腹筋30回、背筋20回、ダンベル運動各30回。スクワット50回、ときどき休んで一服。でも、それでも握力50回、両肩各30回ずつ。左右胸筋50回に、上下胸筋50回です。


「ちくしょう、年末正月と調子に乗って、飲み食いし過ぎだったな~。あのマリヤが作った餅がいけねぇーんだ、あの餅が!だーーー!うりゃ!とう!それ!こりゃ!」


そういうとあんちゃんは、ぽっこり膨らんだ腹を叩いて嘆いています。すると、修行しているあんちゃんの側え、あるギリシャ人がひょっこりやってきました。


「いやー、ここのところ一週間、ずっと正月から筋トレだなんて精が出ますな~」

「およ?あんたは一体誰?」

「あははは申し遅れました、私はロボスと申します」

「ロボスさん?」


そう、その男の名はロボス。非常に明るい表情で、ひげを生やしてニコニコしている。


「ええ。私エジプト生まれでしてね、アレキサンドリアで文学を学んで、こうやって色々な人と出会い、旅をしているんですよ」

「へぇ~文学ですか。あ、申し遅れました。私、元ニートで大工だった、愛の伝道師です」

「ほぉー、愛の伝道師さんですか!?一体どういった職業で?」

「まぁ、マジジョブは愛の歌を唄ったりしながら心を癒したり、あとはギリシャ医学者ヒポクラテス先生の本を参考に、愛のカイロプラクティスをしたりしているんですわ」

「へぇー!それじゃ、結構儲かるでしょ?」


あんちゃんは腕を組んで偉そうに、きっぱりと否定します。


「いえいえ、お金は一銭も頂いてないっすよ。えっへん!」

「ひょえーー!けったいな人ですね~。不景気なこの世の中で、みんな生活苦だっていうのに」

「だからこそですよ、ロボスさん。そんな困っている人からお金なんてもらえないでしょ?」

「なるほど」


あんちゃんは再び筋トレを始め出しました。ボロスは顎を撫でながら、物珍しそうに眺めています。


「それにしても、そんなあんたが、どうして肉体を鍛えているんですか?」

「なんちゅーか、世界でビッグになるには、健全な肉体に健全な精神が宿るかもってさ!たはははは」


しかしロボスという人間は、とても奇妙な目つきであんちゃんを眺めています。どことなく何か影を宿しているような、そんな感じです。


「えらい!あんちゃん、あんたなかなかできた人間よ!」

「へ?」

「みんながみんな、めんどくさがり屋で諦めモード全開のこの世の中、腐ってねじ曲がった自分の根性を叩きなおすため、自ら律して筋トレを始めるだなんて!」

「い、いやー、それほどでも。。。」

「あんたみたいな人が、この世の中には必要なのかもな。古代ローマの風刺詩人ユウェナリスよりも早く、しかも皮肉でなくて、まじめにそのことに気が付いてるなんて!すごいじゃん」

「あははは。。。そ、そんなに持ち上げられても。。。」

「いやいや、本当に本当!」


ロボスは口元をクイと上げて、まるであんちゃんを試すように、拍手をしてあげています。するとあんちゃんは頭をポリポリ掻きながら赤面し、しかしズーンと気分が落ち込んできたらしく、ついには土下座して謝りだしたのです。


「すまねぇロボスさん!」

「ど、どうしたんですか?土下座なんかいきなり始めて」

「いやー!あんたには謝らなければならねーんだ!」

「なんだ?何か新しい運動?」

「違う違う。実は俺、見ず知らずのあんたに嘘ついちまった」

「嘘?」

「ああ。本当は正直な事言うと、格好いい理由で筋トレ始めたわけじゃねぇーンだ」


正直に告白するあんちゃんを眺めるロボスは、まるで重箱を突くように眺めています。


「実は、俺の弟子にペテロっていう奴がいるんだけど、そいつがなんというか腹が出ているデブなんだわ」

「フムフム」

「で、ある日、そいつが『俺も人の事言えないけど、元大工、お前も結構腹出てきたな』なんて言いやがったわけよ!」

「フムフム」

「後で考えたら、実に馬鹿にされているような気がしてさ。だから『おめーに言われたかねぇーよ!』って悔しくて悔しくて筋トレを始めたわけさ!」

「そりゃー確かに、あんた嘘つきだわ」


あんちゃんは土下座しながら、頭を地面に擦って謝ってます。そんな姿を見つめるロボスは、面白そうに笑ってます。するとあんちゃんは泣きながら自分の主張を訴えてきました。


「でもよー!ロボスさん。やっぱりデブにデブって言われたくねぇーじゃん?なぁ?そうだろ?なぁ?」

「まぁーあんたが悔しくて、見ず知らずの俺に格好付けて嘘ついちまった気持ちは、分からなくもないけど」

「分かってくれるか?やっぱり!」

「でも、あんたの弟子をデブデブ言うのも、よくないんじゃないか?」

「あ。。。」


確かにそうです。この大工のあんちゃんは、確かに事あるごとにペテロをデブ扱いしてました。早い話だと、ペテロ初登場時の第二話から、既にデブ扱いです。しかもデブと言って何が悪いと開き直ってやがりました。


「あんたが弟子にそんなこと言うから、今度はあんたがデブった時に、ここぞとばかりに言ってきたのかも知れないぞ」

「ロボスっち!確かにそうだ。俺も奴にとって嫌なことを連呼してたわ」

「人の心は合わせ鏡らしいでっせ、大工のあんちゃんさんよ」

「だなーーー。いやーさすが文学やってるロボスさんは、言葉の使い方に慣れてらっしゃる!」

「まぁこれが商売なもんでね」

「これからは言葉を気をつけるよ」

「感心感心!」


再びあんちゃんは筋トレに励みました。ロボスはどうやら、この大工のあんちゃんが気に入ったそうです。この不敵で怪しいけど、陽気でニコニコした笑顔を見せる男ロボスとは一体何者なのか!?ここで、読者へのプレゼント・コーナー!実はこのロボス、既にあんちゃんとは会話をしております。さて、それは第何話だったでしょうか?発表は後ほど!


「とう!うりゃ!とう!」

「それにしても、よくよくも頑張るね~、あんちゃんさんよ」

「なんか筋トレ始めたら、やってないと落ち着かなくなっちゃって」

「へぇー。蹴りの練習とかしてるんだ?」

「テコンドー、ムエタイ、とにかく蹴りに関しては、アニキよりも上に行かなくては!」

「アニキって?」


するとあんちゃんはびっくりしたようにロボスを見ます。


「あれ?ロボスっちは、知らないんだ?パンキッシュなアニキ・ザ・ヨハネを」

「誰だいそいつは?」


再びロボスは口元をクイっと上げて笑ってます。


「全ての民を圧政から救うために立ちあがった、プロレス大好きアニキ・ザ・ヨハネさ!」

「へぇ~。プロレス好きね~」

「そりゃー、アニキの格好良さといったら何とも言えねぇさ。金持ち連中、政治家だろうがお構いなしに中指おっ立てて、ファッキンシットの連発シャウトよ!」

「ずいぶんと勇ましいやつだな~。そんな奴がいれば、少しはこの国も明るい未来になるのかね?」


しかし、ズーンと気分が落ち込んできたらしく、あんちゃんは再びうなだれてしまい、そして両膝を地面につけ、突然大泣きをしてしまいました。


「ううう、それがこの間、アニキはヘロデ達を救うために、自ら斬首しちまったんだ~。ううう」

「なんと!!」

「ううう、俺はその後にアニキの亡霊に会っちまったんだけどさ、もう、その事実を知った時には、泡吹いて青ざめたのなんのって。うううう」

「ほれで、どんな話をしたんだ?」

「ううう、うん、それがさ。。。」


その時でした!

ロボスとあんちゃんがいる場所へ、ある農民が焦ってこっちに走ってきたのです。


「た、大変だーーーーー!!!!!!うちの子供がさらわれた!!!!」

「なんだって!?」


続く

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