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第七十話

アニキはあんちゃんの両肩をガシッと掴んで、真正面から見つめました。


「愛の伝道師よ、後は頼んだぜ」

「アニキ、なんだかどっか行っちまうような言い方だな?」

「まぁな。ほいじゃな」


するとアニキは微笑みながら、片手を上げてその場を去っていきます。しばらく見つめていたあんちゃんでしたが、大きく手を振って応えました。


「アニキー!気をつけてな~」

「おう!また会おうな!」

「バイバーーイ!」


アニキが向こう側で小さくなるまで、あんちゃんはずっと陽気に手を振ってました。すると、ドタドタドタ~!っとあんちゃんの弟子達が後ろから全員やってきました。


「大工ーーー!」

「おおペテロ!みんな!みんな、どうしたんだ?そんなに血相を変えて」

「大変な事が起きたんだ!!」

「あぁ!あれだろ!ついにマヤ歴カレンダーの世界破滅がやってきたとか?」

「違うって!」

「分かった!ノストラダムスの大予言か?!」

「そうじゃなくって!」


マリヤちゃんなんか、とっても心配そうな顔で見つめてます。能天気なあんちゃんを哀れに思ったペテロは、深刻な顔つきで語り出しました。


「大工。気持ちをしっかり持って聞いてくれよ」

「なんだよ、ペテロ。気持ち悪いな~」

「実はさっき報告があって、アニキが亡くなったんだ」

「へ?」

「ピラトゥスに捕まった王妃と娘を救うために、アニキは自ら犠牲になってよ」


弟子一同は悲しみ襲われています。ですが陽気なあんちゃんは、腹を抱えて笑い出したのです。


「アッハッハッハッハ!!!馬鹿言っちゃいけねーよ、ペテロ~」

「いや大工、本当なんだって」

「アッハッハッハッハ!!!やー!そんなわけねぇ~って」

「アニキが死んで、国中大騒ぎなんだって!」

「アッハッハッハッハ!!!腹痛ぇー。だってよペテロ、俺さっきまでアニキとそこで話してたぜ?」

「へ?」


するとみんなさらに深刻そうにヒソヒソ話をしました。そして溜息をついたペテロが、みんなの代表になって事実を伝えます。


「大工、そんなことはありえないんだよ。だってアニキが亡くなったのは、一昨日なんだから。。。」

「へ!?そ、それじゃ、さっきまで、俺が話してたアニキって?」

「たぶん、死んだアニキの亡霊だろう」


一瞬にして顔面蒼白になったあんちゃんは、そのまま気絶してぶっ倒れてしまいました。


「おい大工!!ど、どうしたんだ??」

「フィリポ!大工の野郎、一体どうしたんだよ?」

「しまったー!先生は幽霊とか怪談とか、そういうの超苦手だったんだ~!」


その通りです。フィリポが言うように、あんちゃんは人一倍超怖がりだったのです。


「おいおい〜ペテロ!元ヤンの口から、なんかヤバイ泡が吹いているぞ!」

「なんかマンガみたいな奴だ」

「どうやら本当に、先生はアニキの亡霊と話をしてたってこと?」

「すげーブラザー!スピリチュアル交信じゃん!」

「ユダ!んな事言ってる場合か?担架だ!担架もってこい!」

「アイアイサー!」


その後一週間、あんちゃんがずっとうなされて寝込んだのは、言うまでもありませんでした。そしてその頃、ヘロデの住むお城でも、アニキの自決以来ヘロデとヘロディア王妃も放心状態だったのです。


「まさか、アニキがあんなことを。。。」

「私も信じられません」

「サロメは?」

「まだ部屋で泣いてます」


ヘロデはサロメが少し心配でした。


「サロメ、一人で大丈夫か?」

「ええ。後追いさせないように、お友達が見守ってくれてます」


アニキ・ザ・ヨハネにぞっこんだったサロメちゃんにいたっては、あまりのショックで生きる気力を失い、ずっと自分の部屋で泣き続けていたのです。


「ウウゥゥゥ、ヨハネ様ー!どうして?どうして?お独りで行ってしまったのですかーーーー?」


サロメちゃんの友達はもちろん、地獄から召喚されてきたソロモン72人の悪魔たち。みんな悲しんでるサロメちゃんに、憐れみを感じています。


「サロメ様は、本気でアニキ様の事をお慕い申し上げてましたからね。。。」

「悪魔料理のレシピも、『意中のハートゲッチュウシリーズ』は全巻iPadでダウンロードしてましたしね。。。」

「そうそう、アニキ様とのハネムーン旅行は、絶対にソロモン神殿だとか。。。」


健気なサロメちゃんの想いをしっかり理解している彼らは、そばでゆっくり見守るくらいしかできません。するとサロメちゃんは、ピタっと泣きやみました。


「私も行く。ヨハネ様と死をご一緒するの!」

「だ、だめですよ!サロメ様~」

「あんた達、ソロモンの悪魔じゃない!ヨハネ様のいる天国に連れてってよ!」

「そんなの無理ですって〜」

「あたしを殺せばいいんだから、簡単でしょ?!」

「いや、そうかもしませんが、あっしらが連れていけるのは地獄くらいなもんで。。。」


するとサロメちゃんは泣きだしました。


「ウァアーーーーーーーンン!なんて役立たずな悪魔たちなのよーーーーー!!」

「そんなこと言われたってねぇ~」

「ウァアーーーーーーーンン!悪魔72人もそろって、ろくでもない能力しかないなんって!!」

「面目ないっす。。。」


するとまた、サロメちゃんはピタっと泣きやみました。


「そうだわ!あなた達、今すぐヨハネ様を生き返らせてよ!」

「えええ!?サロメ様、それは無理でっさ」

「どうしてよ!?悪魔の力があれば、死んでる人間も生き返らせることぐらい簡単でしょ?」

「あっしらの仕事は、生きている人間を地獄へ連れてくぐらいで。。。」


またまたサロメちゃんは泣きだしてしまいます。


「ウァアーーーーーーーンン!本当にあんた達って役立たずーーーーー!!」

「サロメ様、申し訳ございません〜」

「ウァアーーーーーーーンン!バカバカバカバカ!」


ポコポコポコポコ!

ソロモンの悪魔72人は、サロメちゃんにフルボッコを喰らいました。さて一週間後。


「ヘロデ国王!出て来い!」

「てめえ!アニキを見殺しにしやがって!!」

「ただで済むと思ったら、大間違いだぞ!ファック!」


怒りに駆られたアニキのファン達が、抗議を込めてヘロデの元へ訪れて来ました。もちろんヘロデは彼らを優遇をし、そして壮絶なアニキの生き様を伝えたのでした。


「アニキは自らの意志で、我々だけでなく、脅かされていた全国民の為に、命を投げ打ったんだ。。。」

「アニキーーーーー!!」

「何だって?!自ら?!」


アニキのファンは誰しもが泣き崩れ、その喪われた偉大なる存在感を惜しんだのです。


「そしてアニキは、愛の伝道師ならきっと自分とは違う形で、この腐りきった世の中を救うはずだと言って、そのまま帰らぬ人に。。。」

「愛の伝道師。。。」

「思いだした!ガリ・フェスの時の大工のあんちゃんだ!」


結局、双方の話し合いの結果、アニキの葬儀は合同で行われることになりました。必死に涙をこらえるサロメちゃんの姿に、母であるヘロディアは気遣います。


「サロメちゃん。これはね、偉業を成し遂げた人だけに贈られるものなの」

「これって、代々伝わる銀のプレート」

「そう。これで死者の魂を弔うのよ」

「で、でも。。。」

「大丈夫よ。ヨハネのファン達からも、ちゃんとヘロデお父さんは赦しをもらったわ」

「お母様。。。」


二人は親子の絆を確かめ合うように、しっかりと抱きしめ合いました。


「これより、洗礼者ヨハネの葬儀を行なう!」


国王ヘロデの言葉と共に、アニキの葬儀がしめやかに始まると、サロメちゃんは敬意を持って、アニキの首を銀のプレートに乗せ、葬列の最前列に並びました。墓地まで亡骸を送る葬送が始まり、サロメちゃんは心を込めて囁きました。


「麗しき洗礼者ヨハネ様、安らかにお眠りください」


こうしてサロメちゃんは、アニキの口元にキスをしたのでした。


続く

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