第六十九話
さて、第五十九話からすっかり放ったらかしにされた主人公大工のあんちゃん。今ごろ何をしているかというと。。。
「いや〜ユダ。ベンチャーってベンチを売る人の事じゃなかったのかぁ〜。うわっはっはっはっは!」
「そうっすよ、ブラザー。ほら、ホリエモンとかライブドアとか、そんな感じの奴っすよ」
「なーんだ、独り立ちして、俺みたいにビッグな存在になろうとしたわけだな?うわっはっはっはっは!」
「でも行く先々にブラザーの名前が売れてて、全く太刀打ちできませんでしたよ~」
「うんうん、そうだろうそうだろう?なんせ俺は『愛の伝道師』だかんな!うわっはっはっはっは!」
やっぱり相も変わらず、調子良く戻ってきたユダと毎晩酒を酌み交わし、呑気な気分で過ごしていたのでした。
「全く、あの元大工は本当に陽気な奴だよ、アンデレ」
「そうだね、ペテロ兄ちゃん。なんというか、あの人は落ち込む時とか無いのかな?」
「楽観的なラテン系なんじゃねぇーか?」
「しっかし、毎晩ユダと飲んだくれて、ワンパターンなひとだよね〜」
やっぱり弟子達はあんちゃんの陽気な性格を、半分あきらめている感じでした。多分あんちゃんは、ユダを自分で追い出しておきながら、どっか心の奥で懺悔していたのかもしれません。罪滅ぼしなのか、とにかくユダだけ贔屓にしてます。
「うぃーーー、ユダ。なんか飲みすぎちったでござるよ。連れ立ちションに行くでござる」
「は?ブラザー。それは勘弁してよ、マジ勘弁」
「勘弁とはなんでござるか?無礼者!はは~ん。まさか、おれの立ちション必殺技『秘儀桜吹雪の舞』に、恐れをなして引き下がってござるか?」
「ブラザー、ござるってでいつの時代の人さ。。。大体、立ちションに必殺技なんかあるのかよ?一人で行って来い、一人で」
しかし大工のあんちゃんは、少しさびしそうな顔をしています。
「ユダ、本当に付いてこないのでござるか?」
「中学校の女子じゃねぇーんだから、独りで行ってこいって」
「ユーダー!俺の立ちションについてくるでござる!」
なぜかしつこく食い下がるあんちゃんの様子に、ユダはピン!ときました。
「はは~ん。まさかブラザーは、夜一人立ちションが怖いでござるな?」
「ば、ばっかやろう~。そ、そんなわけねぇーじゃんか!俺を誰だと思ってる!立ちションくらい、一人でやってやら~!」
「クックックック!がんばってねぇ~」
あんちゃんはユダの建前上、仕方なく夜道で一人っきりの立ちションをすることになったのです。
「くっそう!ユダの野郎め。せっかく俺の必殺技『桜吹雪の舞』を披露してやろうとおもったのに。。。」
ブツクサと文句を言いながら、立ちションできるスポットを捜しています。しかし、ユダの指摘は正確だったようで、怖がりなあんちゃんはなかなか立ちションのスポットを見つけられません。iPhone5のWi-Fiスポットのほうが、早く見つけられそうな感じです。
「それにしても、寒いな~。ブルブルブル」
ようやくスポットを見つけた時でした。後ろから青白い光に包まれた人物が、ひっそりと立っていたのです。
ドロドロドロドロドロ~ドロドロドロドロドロ~
「うぎゃーーーーー!!!出たーーー!」
恐怖のあまりに、少しだけチビっちゃったあんちゃん。
「うおおお!!!??おおおお!?」
「悪霊退散!魑魅魍魎!増税反対!増税反対!」
「おい、ナザレの坊主!」
「だーーー!増税反対!増税反対!」
「俺だよ、俺。ヨハネだよ」
なんとそこに立っていたのは、あのパンキッシュ洗礼者アニキ・ザ・ヨハネが立っていたのです。
「んだよ!アニキじゃんか。びっくりさせやがってぇ~。ドロドロドロ~なんて鳴ったから、幽霊でもやってきたのかと思っちまったよ」
「あー、すまねぇーな。お前の弟子からお前が怖がりだって聞いたからよ、つい演出してみたわ。ガハハハハハ!」
「ったく人が悪い人だよ、アニキってやつは」
それでも怖がりなあんちゃんは、一応アニキに見張りをしてもらいながら、無事立ちションを済ませました。もちろん、必殺技『桜吹雪の舞』も披露した上で。。。
「どうよ?俺の『桜吹雪の舞』?」
「なるほど、最中に回転を加えることによって、完成させるのか。なかなか至難なわざだな?おい」
「へへへへ~」
「握手はいいから、とりあえず手を洗えって」
すっかり舞い上がってるあんちゃんは、とりあえず手を洗って、久々に再会したアニキと語り出しました。
「ほいで、最近はどうなのさ?アニキ」
「うん?最近か?」
「ああ。あんたヘロデの牢屋につかまってたんだろう?」
「まぁな。でも甘えん坊だったヘロデも、今や立派なレスラーに仕立て上げたぜ」
「なーんだ、それでアニキは、今、自由に出入りできるわけだ。さすがアニキ!」
「そんなところだ、ガッハッハッハッハッハ!」
二人は地面に寝転がりながら、色々な事をだべっています。
「そいでさ、アニキ。まぁーうちのマリヤはすぐに俺を縄で縛りやがってさ~」
「一晩中そのままだったのか?ガッハッハッハッハッハ~」
「それだけじゃねーんだよ、ハゲヅラまで被せて正座だぜ~」
「ガッハッハッハッハッハ~、そいつは傑作だな?」
「まったくこれじゃ宗派が違って話なわけよ~、アッハッハッハッハ~」
アニキは嬉しそうに、ニコニコと笑いながらあんちゃんの面白話を聞いてます。
「ところでアニキ。突然やって来て、何か用があったんじゃねぇーの?」
「うん、まぁな」
「まぁなって、なんでも受け止めっから、語ってくれよ」
「おう、実はな。お前に、感謝している事があるだよ」
「俺に感謝?なーに言っちゃってんすか?アニキが俺に感謝だなんて」
アニキは少し照れ笑いしながら、俯きながら語り出します。
「お前がよ、あのガリ・フェスで唄った曲あったじゃねぇか」
「ああ、『天国に行けちゃうかも階段』?ほうほう」
「今更ながらだけどよ、いい曲だと思ってよ」
「えええ!?だって、アニキあの後、俺の事批判したじゃん」
「あの時は、なんだチェリー臭せぇ愛ばっかりに感じてたさ。でも改めてこの間口ずさんだら、なんだか勇気が湧いてきてな」
するとアニキはとっても嬉しそうに、でもちょっぴり恥ずかしそうに歌い出しました。それを聞いているあんちゃんも、なんだか照れくさそうに、頭なんかポリポリ掻いています。
「くじけそうだった俺の心を、あの曲がバッチリと奮い立たせてくれたんだわ」
「アニキ。。。」
「俺の両親は年老いた夫婦でよ、神に祈ってやっと授かった一人息子だったらしい。親父は祭司だったから、何不自由なく愛情豊かに育ったんだ。ある時、ヤクザ・ローマ帝国の横暴に屈した金持ち連中が、貧困層の連中から金を巻き上げてたんだ。俺は許せなかったから、抗議したんだ。だがよ、助けようとした貧困層から、逆に攻められちまった。『お前は司祭の家でぬくぬく育っているくせに!』ってな」
今夜のアニキはしんみりとした感じで、自分の生い立ちを語っています。
「それでアニキはどう思ったんだよ?」
「そりゃ、ショックだったよ。自分が正しいと思っていたことを、助けようと思ってた連中に真っ向から否定されて」
「俺もわかるぜ~、アニキ。みんな経験しているのに、俺だけ取り残される気持ちっていうのかな?」
「ガッハッハッハッハ、それはお前が単にチェリーなだけだろ?」
「うげ!なんでアニキはそのことを!?あ!しまった!」
「ガッハッハッハッハ~」
赤面しているあんちゃんを前に、アニキは本当にうれしそうに笑ってます。
「まぁ、そんなショックだったときに、セックス・ピストルズとプロレスに出会ったんだわ。まさに俺の人生の転機だな。"理解されないなら、理解してやろうじゃないか。俺を非難した連中よりもストイックに生きて、圧政に立ち向かってやろう!"ってな」
「それでアニキの伝説第二章が始まるわけだ」
「盗んだバイクで走りだしたわけじゃねぇーけど、家を飛び出して、パンクとプロレスに明け暮れ、気がついたらヨルダン川で泥水をぶっかけて、世紀のパンキッシュ預言者なんて煽てられてよ」
あんちゃんも目を閉じ両腕を組みながら、アニキとの衝撃的な出会いに浸ります。
「いやー、俺もアニキと出会った時にはしびれたぜ。堂々とヤクザ・ローマ帝国に中指立ててるんだもん」
「何言ってんだよ。お前はメシばっかり喰ってたじゃねぇーか」
「あ、ばれた?」
「俺の一週間分のメシを一日で喰いやがって。。。」
「ああー!それを言うならアニキだって、俺に断食して来いって追い出したじゃねぇーっすか」
「しょうがねぇーだろ?あんなに喰われちまったら、みんなの分がなくなっちまうんだから」
「まぁそりゃ、そうだ。アッハッハッハッハ」
しばらく昔話に花を咲かせていた二人でしたが、アニキはぽつりとあんちゃんにある言葉を投げかけます。
「ナザレの坊主、今でもソクラテス先生の本は読んでいるか?」
「ああ、もちろんでっさ。やっぱり先生の哲学は本当に胸に染みるよ。最近はギリシャの医学書なんか読んでてさ」
「そっか、それじゃ大丈夫だな」
「え?何が?」
「ナザレの坊主、いや、もう立派な愛の伝道師よ。後は頼んだぜ」
「ア、アニキ?」
続く




