第六十八話
そしてアニキとバラバの二人は、広大な陽の光を浴びながら、あらゆるものに祝福されてるように握手をします。
「アニキ、本当にすまねぇ。オラは、オラは!」
「いいんだ、バラバ。お前が、少しでも、何かが気が付けただけでも。そして、俺もまた、自分の。。。」
ズーーーーーーン!!
グサッ!!!
「ア、アニキーーーーーーーーー!!?」
しかし非情にも、ローマ軍団兵士カッシウスの放った短刀が、アニキの心臓を貫いたのでした。その激痛に耐えきれないアニキは、苦渋を舐めるが如く、両膝を地面につけて苦しみ悶えます。
「くそったれがぁああああ!!!」
そして再び立ち上がる為に、アニキは歯を食いしばり、全身の力を振り絞りました。だがしかし、先のバラバとの激闘で消耗した体力が、アニキに立ちあがらせることを拒否しております。目の前で起きた惨劇に、ヘロデとヘロディア、そしてサロメの三人は、この仕打ちを命じたピラトゥスを睨みつけました。
「ピラトゥス様!!なぜだ!勝負はアニキの勝ちだったじゃないか!!」
「そうよ!卑怯よ!」
「スーパーダークーサノバビッチ!」
しかし、ピラトゥスは笑うばかりで、何も答えるつもりはありません。そしてピラトゥスの代わりに、ローマ軍百人隊長ロンギヌスが彼らに応えます。
「ユダヤの属州民のくせに、驕り高ぶるな!」
「な、なんだと!?」
「いいか!貴様ら属州民は、我がローマ帝国の支配下にあることを忘れるな!世界の平和のため、属州民が起こした反乱を鎮圧するのが、我がローマ軍団である!」
「世界の平和の為だと!?ふざけるな!それこそお前達の思い上がりじゃないか!」
「愚直なりヘロデ国王!たとえ無法者であろうとも、高官であろうとも!一蓮托生であるお前達属州民は、我らと一戦を交える覚悟がおありか?!我らローマ帝国に刃向う者あれば、我々は全力を持ってこれを制する!」
その言葉に、ヘロデ国王は何も言えず、ただ歯ぎしりしながら地面を殴り続けました。抵抗できな歯がゆさを感じながらも、側にいたヘロディアは百人隊長から目を逸らし、自分の夫の肩に手を添えています。サロメちゃんは顔を強張らせながら、短刀が胸に刺さったままのアニキの姿を、両手で遮るようにしゃがんで泣きじゃくりました。
「ゲヘヘヘヘ~!ヘロデや。どちらにしても、ヨハネはローマ帝国に歯向かった危険人物であり、処刑は免れない運命なのだ!そしてワシらローマ帝国は、属州国などに負けることは、ティベリウス皇帝に誓って決して許されないのである!!」
さすがに横にいたカヤパも、この残虐で非道な思考回路を持つピラトゥスに慄いております。バラバはなんとかアニキを救おうと、左胸に刺さった短刀を抜こうとしますが、しかしアニキはバラバの手を払い除けました。
「触るな!バラバ!俺は、俺は!こんなところでは死なん!」
「しかしア、アニキ!!」
「うるさい!俺は!自分の足で、もう一度立ち上がるのだ!!!」
凄まじい気迫で立ち上がろうとするアニキは、両膝に手を置いて、歯を食いしばり、雄たけびを上げました。
「うおおおおおおおお!!」
しかしローマ軍の非情な仕打ちは、それでも尚、アニキに向かって投げつけられていくのです。
グサ!グサ!グサ!グサ!グサ!グサ!グサ!
「!?」
エルサレム神殿の隅に隠れていた他のローマ兵士たちが、顔色一つ変えず、次々とアニキへ短刀を投げつけたのです。まるで吸い込まれるように、彼らの投げた短刀がアニキの身体へ次々と刺さっていくのでした。
「やめろーーーー!!!やめてくれーーーー!!オラが代わりに死ぬから!」
「ゲヘヘヘヘヘ~!バラバよ!貴様のような醜い犯罪者が、この危険分子なヨハネの代わりになるとでも思っているのか!?」
「そ、そんな!」
「ゲヘヘヘヘヘ~!お前など殺しても、属州民の希望を打ち砕くことはできん!いや、そもそもこのユダヤ属州の総督であるワシが、きさまのような醜い犯罪者となどと、約束などできると思うか?!」
「!?」
「貴様が必死に守ろうとしたリベカの住む村の土地はな、既にローマの富裕層から不動産の対象となっているのだ!我らがきっちり焼き払ってやろう!!!」
「な!?なんだと!?」
ジャラジャラジャラーーーーーン!ガチャ!!!
何と今度はローマ兵士達は鎖を持ち出し、バラバの両手両足を捕まえました。
「は、離せ!オラをどうするつもりだ!?」
ジャラジャラジャラ!
百人隊長のロンギヌスは、そのままバラバの身柄を拘束するよう、兵士達に命令を下しました。
「無法者バラバよ!お前はローマ帝国への反乱首謀者ヨハネの補助として、独房監禁に処する!」
「ふざけるな!!!オラを自由にしろ!!」
「連れていけ!!!」
怪力バラバをもってしても、高度な身柄拘束法を使うローマ兵士達には太刀打ちできず、虚しい抵抗を続けながら連行されてしまいました。そしてリング中央に一人、多くのローマ短刀を体で受け止めたアニキが、膝を抱えながら、必死に立ち上がろうとしております。
「うぐぐぐぐぐぅあああああ!!!!」
「ゲヘヘヘヘヘヘ~!無駄な足掻きだ!ヨハネ!」
一本、また一本と短刀を抜こうとするアニキでしたが、その度に吹きだす血が、アニキの身体から体力をどんどん奪っていきます。もはや息も絶えだえに、アニキは朦朧とする意識の中で、あのガリ・フェスで多くのファンの心を掴んだ、愛の伝道師大工にあんちゃんの姿を思い出してました。
"心が空しい奴は幸せだぜ~♪フーフ~♪"
"泣いてばかりも幸せだぜ~♪フーフ~♪"
"虐められてる奴も幸せだぜ~♪フーフ~♪"
"正義にもえる奴も幸せだぜ~♪フーフ~♪"
アニキはあんちゃんのメロディーを掠れた声で歌い出しました。
「フッ、ちくしょう、いい歌じゃねぇか」
闘争本能を剥き出しにして、常に何かと闘ってきたアニキにとって、あんちゃんの心地よいメロディーが、アニキの心を癒してたのかもしれません。何故かこびりついて離れなかったのです。
"握った拳を広げて~♪みんなで握手をするんだ~♪フーフ~♪"
"父ちゃんにも握手~♪フーフ~♪"
"母ちゃんにも握手~♪フーフ~♪"
"爺ちゃんにも握手~♪フーフ~♪"
"婆ちゃんにも握手~♪フーフ~♪"
"ついでに敵にも握手~♪フーフ~♪"
「敵にも、握手か。。。」
するとアニキは、何か意を決したのか、最後の力を振り絞って、仁王立ちしました。
「ピラトゥーーーース!!!」
「ゲヘヘヘ〜?!」
「俺たちを侮ったらどうなるのか?よーーーく目をかっぽじって見ておけ!!!」
左胸に刺さった短刀を思いっきり抜いたアニキは、ニヤッと微笑みながら、ゆっくりと短刀を自分の首に添えます。
「愛の伝道師、後は頼んだぞ」
そしてアニキは微笑んだまま、自ら短刀で斬首したのでした。
続く




