第五十九話
さて、すっかり作者から放ったらかしにされた主人公、大工のあんちゃんは今ごろ何をしているかというと。。。
やっぱり会いも変わらず呑気な気分で過ごしていました。
「フィリポ。昭和の人情アニメといえば、やっぱり『ど根性ガエル』だよな~」
「いやリーダー。それをいうなら『巨人の星』だって」
「お前は若い。いいか?ひろしの優しさ、ピョン吉の男気、宝寿司の梅さんのお節介、京子先生のミニスカート!どれをとっても最高の昭和が、そこに凝縮されてるじゃないか~」
「チッチッチッチ!甘いな、リーダー。雄馬を叱る星一徹のちゃぶ台返しこそ、あの昭和の頃にあった全てが、凝縮しているんだって」
「いやー、フィリポ。やっぱり梅さんの運ぶ寿司が旨そうだって」
「いやいや、雄馬の明子姉ちゃんが作る、晩御飯の方が旨そうだって」
もはやこの二人の話に、誰も関心を寄せておりません。すると、遠くの方にいたトマスが、慌ててこちらの方にやってきました。
「おーい!元ヤン。こっちに、飢え死にしそうな奴が、ぶったおれているけどよー」
「なに??」
あんちゃんはトマスに呼ばれて、その場所へと行きます。トマスは後輩のタダイと一緒に、ヤンキーばりにウンコ座りしながら、木の枝でぶっ倒れている男をツンツンしてました。
「トマス、なんだこいつは?」
「それがどーも、見覚えのある坊主頭なんだよ」
「お、確かに見覚えのある坊主頭だな」
「もしかして、あのクソ生意気なユダじゃねぇか?」
「ユダか!?」
すると、ぶっ倒れてた男は意識を取り戻します。
「ううう、ブ、ブラザー」
「おお!ユダ!」
「み、水を」
ベタニア村から逃げてきたユダでしたが、食べ物も全くない状態で、一週間、荒野をさまよう羽目になっていたのです。あんちゃんは直ぐに水を用意して、ユダに飲ませます。ようやくユダは、普通に話せる状態に回復しました。
「大丈夫か?ユダ!」
「ブ、ブラザー。ありがてぇ、助かったよ」
「良かった、良かった!」
あんちゃんは、まるで自分の事のように、嬉し泣きしています。
「ったく、このタコ坊主、どこをほっつき歩いてたんだ?心配掛けやがって!」
「し、心配って。ブラザーが俺の事を追い出したんじゃねぇか」
「まぁ、そういう過去は見ずに流してだな。それよりも、今までどうやって生活してたんだよ」
「あはははは、まぁ~、なんていうの?ベンチャー?みたいな感じで。起業してた?みたいな」
「おお、ベンチを売ってたのか?随分まともになったじゃねぇか」
相変わらずの勘違いあんちゃんですが、しかし疑い深いトマスは、ユダがまともな生き方をしていたようには思えませんでした。
「おい、ユダ。お前、本当の処は何やってたんだよ?」
「え?」
ウンコ座りしながら、ユダに鋭い眼つきを見せるトマス。あんちゃんはそんなトマスを宥めます。
「おいおい、トマス。ウンコ座りしながら、人を疑うんじゃねぇっつの。いいじゃねぇか、ユダが無事に帰ってきただけもよ〜」
「良くはねぇーよ。あんたは黙っててくれ、元ヤン」
トマスはメンチを切りまくっています。さすがにあんちゃんも仕方なしに黙ると、トマスは今度、ユダの坊主頭をジーッと眺め出しました。
「お前って、瞳の色が青いよな?」
「そ、それがなんだよ?トマス」
「ヅラでも被ってたのか?」
「ギク!」
「なんかやけに頭の部分だけ、日焼けしてねぇーじゃんかよ」
「こ、これは、その、鉢巻をまいててだな。色々と大変だったんだよ」
「その割には、随分とお前の腹は肥えてるな?」
「ギク!ギク!」
さすがあんちゃんのヅラを見破った男トマス。ユダがマトモな生き方をしていなかった事を、うすうす勘づいているようでした。しかしあんちゃんは、そんなトマスに説教をします。
「おい、トマス。直ぐそうやって疑うのは悪い癖だぞ」
「しかしよ、元ヤン。こいつは端っから信用できねぇーぜ」
「それよりも大切な事があるだろ?」
「大切な事って、なんだよ?」
「今日はユダという俺達の仲間が、無事に帰ってきたんだ」
「でもよ!」
「うるせー。疑うよりも、素直に喜べって」
そう言うと、トマスはしぶしぶ頷きました。ユダもほっと一安心。
「よーし、そうとなりゃ、今日は宴だぜ!なぁユダ?」
「お、おう!リスペクト!ブラザー!」
あんちゃんはユダの肩を抱えながら、他の仲間達へユダの帰還を報告しに行ってしまいます。その場に残されたトマスと後輩のタダイ。トマスはずっとウンコ座りしながら、ユダを睨んでいました。
「トマス先輩。何かユダの事で気になる事でもあるんすか?」
「タダイよ。最近、俺達がどこかの村に行くたびに、元ヤンがインチキメシアって批難されてたろう?」
「そうでしたね。確かリーダと同じ髪形で、青い瞳のインチキメシアだって。。。」
「もしもよ、あのユダに元ヤンと同じ髪形のヅラを被せたら、そのインチキメシアの人相に似てねぇか?」
「あ!確かに。ユダは青い瞳ですしね!まさか、トマス先輩??」
「元ヤンは人が良すぎるから、ああ言っているけどよ。もし、ローマ軍とかにマークされたら、それこそ大変だ。まぁ、俺達だけでも用心するに越したことはないわな」
「そうっすね」
ウンコ座りしているトマスとタダイは、プカプカとタバコを吸いながら、煙で輪っか作ってました。さて、その頃ヘロデ国王の住むお城では、なんと大変な事が起きていたのです。
「た、大変だぁあああああああああああっっっっっさああああ!!!!!」
ヘロデ国王は冷や汗をかきながら、城中を走りまわってます。しかし、相変わらず牢屋で筋トレしているアニキ・ザ・ヨハネ。
「ア!アニキ!大変だ!!!」
「どうした?ヘロデ。そんなに焦って」
「ヘヘヘ、ヘロディアとサロメが!」
「あの二人がなんだ?」
「ピピピ、ピラトゥス総督の暗殺を企てやがった!!!」
「な、なんだと!?」
ヘロデがアニキに手渡した置き手紙には、次のような内容が書かれていました。
"親愛なる貴方へ
私達ヘロディアと娘のサロメは、ユダヤの民を圧政で苦しめるローマ帝国のピラトゥス総督を、これ以上のさばらせておくわけには参りません。
よってユダヤの神の名において、エルサレム神殿にいる、あのガマガエルのピラトゥスに然るべき報いを与えます!オーッホッホッホッホ!
追伸、行き先は教えません。捜さないでください
貴方を愛するヘロディアとサロメより"
「だとよ、ヘロデ」
「うあーーーー!!ヘロディア!サロメ!お前達はどこ行ったんだ!?」
「お前は節穴か?ここにエルサレム神殿って書いてるじゃねぇか」
「あ、本当だ」
ヘロデはさらに慌てて頭を抱えてしまいました。
でもなんだって、あいつらはピラトゥス総督を暗殺するだなんて、計画を立てたんだぁーーー?!」
しかし、その横でアニキは、ニンマリ笑顔で腕を組んで感心してます。
「ヘロディアもサロメも、随分と心を入れ替えたようじゃねぇか」
「アニキーーー!そんな悠長なこと言っている場合ですか?!もし、この計画がバレたときには、ローマ軍が一斉にユダヤ王国を攻めにやってきやすって!」
「うーむ」
「ア、アニキ!?何を考えこんでいるんですか?!何とかしなきゃ!」
暫くアニキは腕を組んで、髭をこすりながら推敲しておりました。
「よっしゃ!ヘロデ。変装してエルサレム神殿に乗りこむぞ!」
「ま、まじっすか!?」
「当然だ!勇敢になったヘロディアとサロメを救いに行くんだ!」
「アニキ!!」
「むざむざとガマガエルなんかに殺させてたまるか。全く世話のやける親子だぜ、ガハハハハハ!!!」
両腕をぐるぐる回して準備体操を始めるアニキは、なんだか嬉しそうでした。
続く




