第五十六話
リベカは拾った皮袋を村長に届けました。
「村長さん!大変大変!」
「おおリベカ、どうしたのじゃ?」
「ローマ金硬貨が入った皮袋見つけちゃった」
「な、なんじゃと!?」
それはユダが村人に賭けの対象として差し出した物でした。リベカを無事に帰らせた後、村長は恐る恐る皮袋を覗くと、なんとその中身は石ころばかりでローマ金硬貨なんて一つも入っておりません。まんまとユダに騙されたことを知った村長は、青筋をこめかみに何本も立てています。
「あんのーーーーー!!くそがきゃあああああーーーーー!!!!!!!!!」
村長はすぐさまその皮袋を手に持って、村の中心部まで行きました。そして通りかかる村人に決起を呼びかけます。
「ベタニア村の諸君よ!勇気あるリベカ少女の手によって、あのユダの悪行が暴かれたのじゃ!」
「村長?どうしたんですか?」
「この皮袋は、あのユダがローマ金硬貨500枚が入っていると断言したものじゃ!じゃが事実は小説より奇なり!見よ!これが奴の本性じゃ!」
バーっとユダの皮袋を投げ出すと、地面には石ころだけが転がっていきました。それを見た村人達は愕然とするしかありません。
「なんだよ!全部石ころじゃねぇか!」
「どこにもローマ金硬貨なんてないぞ!」
さらに村長は声を張り上げます。
「あやつは元々我々を騙す為だけに、このベタニア村へやってきたのだ!」
「くっそおおおおお!!」
「インチキな賭けをしたくせに、まんまと食料と女共をせしめ、更にはベトエルの大切な畑までも燃やしたくせに、やつは平然と賭けに勝ったからと開き直りやがったのじゃ!」
「あの野郎!!!!もう許せねェ!!」
「あやつは『賭けに勝って対等のレベルになってから文句を言え』と言ったが、この賭けは元々インチキで、無効にすぎない!!!」
「そうだ!そうだ!モーゼの十戒にも!『盗むな』『嘘をつくな』とあるぞ!なのに、やつは平気で破ったんだ!」
「あのくされポコチン野郎を締めあげろ!!!!!」
村人達が怒りを爆発させる頃、ユダはそれらの様子を物陰で見ていたのでした。
「やべーーーーーー!!!!!ついに見つかった!!!!早くバラバと逃げないと!」
もはや村人達は決起して、ユダを探してひっ捕えろと息巻いてます。ユダはベトエルの農場へ走っていき、バラバのいる部屋に辿りつきました。
「バラバ!逃げるぞ!」
「およ?救世主ユダ様?どうしたんだ?」
「いいから!詳しい話しは後でするから、とにかく逃げ出す用意だ!」
バラバは何のことか分からず、とにかく慌てているユダの言いなり。ユダは脂汗を掻きながら、バラバを外へ連れ出そうとしています。しかし出口には、両手を広げて制止するリベカの姿がありました。
「だめーー!逃げちゃだめ!」
「このガキ!おめぇーだな!?村長に言いつけたのわ!」
「あたりまえじゃない!」
「てぇんめぇーのせいで、俺は村中の奴らから命を狙われることになっちまったじゃねぇーか!」
「だって、インチキしたあんたが悪いんでしょう?」
「うるせーーー!!!」
するとユダはリベカに襲い掛かって、その場を離れてしまいます。あっという間の出来事に、バラバは何が何だか分からない様子。ユダの後を追いかけようとしたバラバの前に、村人を引き連れた村長達がやってきました。
「ちょっと待てバラバ!」
「あ、村長!」
「このインチキどもめ!もう逃げられやしないぞ!」
「逃げる?なんのことだ?」
「お前とユダは、インチキな賭けでワシら村人を騙したんじゃ!」
「インチキな賭けだって?あははは、まさか」
「まさかじゃない!ユダが持っていた皮袋には、ローマの金硬貨が入ってるなんて真っ赤なウソ!石ころばっかり入っておったわ!」
「あははは、それはだって、救世主ユダ様が石ころを食料に変えるって言ってくれたやつで、おらも拾っているの見たさ」
すると、ある事に気が付いたベトエルは、怒り狂ってる村長に助言をします。
「村長、もしかしてバラバも騙されたのではないでしょうか?」
「なんじゃと!?」
「私はバラバと何日か過ごしましたが、バラバにはユダのような悪意を感じる事ができません」
「うむむむむ、しかし、バラバはユダが連れてきた奴じゃ」
「この怪力を利用したのですよ、ユダは」
しかしバラバは気になって仕方がありません。
「もういいか?おら、リベカを連れ戻さないといけないんだ」
「な、なに?リベカだって?」
「ああ、ベトエル」
「リベカがどうしたんだ!?」
「ユダ様が連れてってしまったんだ」
「な!なにーーーー!?」
「それを早く言わんか!!!ユダはリベカを誘拐したのじゃ!!」
「な、なんだってーーーーー!???」
リベカを連れさらったユダは、村の外れの崖っぷちを目指していました。リベカは何とか暴れて抵抗しています。
「いやだー!離して!」
「うるせー!静かにしろ!!!」
「お父ちゃん!助けてーーー!バラバー!!」
ドッドッドッドッドッドッド!!!!!
リベカを抱きかかえたユダの後ろから、なにやら凄まじい足音が追いかけてきます。
ドッドッドッドッドッドッド!!!!!
「ま、まさか!?」
「父ちゃん!?バラバ!?」
そうです。あのバラバが鬼の形相で、村人達と一緒に追いかけてきたのです。
「あああ!バラバだ!!!!」
「くっそお!!!」
目の前には崖っぷちで先に進めず、ユダはリベカを抱えたまま、オロオロするしかありません。バラバと村人達は、ユダの悪行を全て知ったようで、もはや怒髪天です。バラバはその大きな拳を握りしめ、地面を叩きました。
ドガガガガッガガ!!!!
まるで引き裂くように、バラバの怒りで地面が割れていきます。
「ユダァアアアアアアアア!今迄よくも、おらの事を騙してくれたなぁああああ!」
「だ、だましてなんかいねぇよ!バラバ、お前こそ村人に騙されてるんだって!」
しかし村長は怒りに震えるバラバの代わりに身を乗り出して、けしからんユダに痛烈な言葉を発しました。
「もうおしまいじゃ、ユダ!貴様の化けの皮ははがれたのじゃ!」
「な、なんだと!?」
「バラバから話は全て聞いた。バラバは貴様の事を、最近巷で有名な元大工の『愛の伝道師』だと思ってたそうだ」
「ゲッ!」
「じゃがおぬしは『愛の伝道師』とは、似ても似つかぬ真っ赤な偽者じゃ!」
「ウグググググ。。。」
正に精神的にも崖っぷちに追い込まれたユダ。少なくとも、大工のあんちゃんと比べられる事だけは、どんなに追い込まれても許せない事でした。
「あんな奴と!俺を比べるんじゃねぇ!!!」
ユダは歯を剥き出して叫びます。しかし、村人達は微動だにしません。ベトエルはユダに捕まったリベカを案じていました。
「リベカ待ってろ!直ぐに助けてやる!」
「父ちゃん!ありがとう!」
「ユダ!リベカを離せ!」
「バラバ!!!」
すると再びバラバは激憤して地面に拳を叩きいれます。
ドガガガガガガガガガーーーーン!
「リベカを離せ!!!」
抱えたリベカの安心しきった笑顔を眺めた時、ユダにはもう一つの悪意が生まれたのです。
「フフフフ!!そうかいそうかい!!」
「ユダ!!いい加減にしろ!おら、絶対におめぇをゆるさねぇ!」
「そろいもそろって正義面しやがって!バラバ、お前の望み通りこのガキを手放してやるよ!」
なんと、ユダのクソ野郎は、幼い少女リベカを崖の上から放り投げたのでした。
続く




