第五十二話
ユダとバラバの二人は、エルサレム近郊にあるオリーブ山近くのベタニア村に到着しました。ユダはニヤニヤと笑い、まるで獲物を狙うハイエナの如くです。
「さぁー!バラバ。お前の為に、この村で俺が奇跡を起こしてやる!」
「奇跡をか?ひょえー!さすが救世主ユダ様だな!」
するとユダは空の布袋を胸元から取り出し、地面にあった石ころをいっぱい詰めました。バラバは横で不思議そうに眺めています。
「一体何をしているんだ?ユダ様は」
「この石ころを、俺の奇跡で食料に変えてやるんよ!」
「そんな事できるのか?」
「ただし、お前の怪力もちょっぴりだけ必要なんだ。お前はこの救世主の俺様に、協力できる英雄になれるんだ。感謝しろよ~」
「わかった。おら、何でも協力する」
ユダはバラバを村の入り口に立たせたまま、石ころを詰めた布袋を持ちながら村の中へと進みます。村人達は見知らぬユダの姿に、ちらりちらりと見始めました。中心部に辿りついたユダは、大きく息を吸い込んで、胸一杯に叫び出します。
「ベタニア村の迷える子羊達よ!俺様の名前はユダ!」
ザワザワ。
「あそこにいるバラバは、どんな大理石も粉々にし、どんな大木でも持ち上げ、そしてどんな大男でも投げ飛ばすほどの大巨漢だ!」
ザワザワ。
村人達が、ユダの宣伝文句に耳を傾け始めます。
「アームレスリングで挑んで勝てた奴には、この袋に詰まった500ローマ金硬貨をタダであげちゃうよ!」
それを聞いた村の人々は、目の色を変えて駆け寄りました。最近の悪政によって、みんな喉から手が出るほどお金に困っていたからです。するとある男がやってきました。
「そこのユダとかいう奴よ、その話は本当なんだろうな?」
「本当も本当よ。もちろん勝てたら、このローマ金硬貨は全てお前のもんだ。だが、負けた場合には、一週間分の食料を頂くぜ!」
「よっしその話乗った!ベタニア村のみんな!この村の為に、このベトエルは挑むぞ!」
"おおおーーーーーー!!"
"頼むぞ!!!!"
「ケッケッケ!馬鹿な奴らだ!」
けしかんらんユダは、もはやアコギなサーカス団長と化していたのです。
「レディ!ゴ!」
ベトエルは健闘するも、怪力バラバの前には敵う事はできず、瞬殺で負けてしまいました。早速ベトエルへ続けとばかりに、ベタニア村の猛者達がバラバ相手にアームレスリングを挑みますが、誰も敵う者はいません。結局バラバのお陰で、ユダは一週間の食料を貪る結果となったのでした。
「ギャッハハハハハ~!最高だ!ここの村は食べ物は旨いし酒も旨いし、たまんねぇーな!え?バラバ」
「本当だ。救世主ユダ様の言ったとおりになった」
完膚なきまで叩きのめされた村人達は、仕方なしにユダとバラバに給仕してます。
「だろー?バラバ。キャッハッハッハッハッハ!」
「まさかあんな石ころつめただけで、こんな美味しい物が食べれるなんてよ!」
「わ!バカ!」
「本当に奇跡を起こしたんだな、救世主ユダ様わ!」
するとバラバの言葉に、周りにいた村人達が不審がります。
「シーーー!黙ってろ」
「どうしてだ?」
「神に仕える者は、民には知られてはいけないこともあるんだ!」
「なんでだ?みんなに言えばいいのに」
「だめだ!バラバ。神の言葉は絶対だろ?とにかく喰え。飯食って寝ろ。あした女の子にもてさせてやっから」
「うん、わかった!」
バラバは勢い良く食べ物を貪ります。一人だけキャハキャハと酒ばっかりを飲んで盛り上がっているユダ。負けた村人は一週間分の食料を奪われてしまい、みんな恨めしそうに腹を空かしています。腹いっぱい食事を済ませたバラバは、ぬぅーっと立ちあがりました。
「ふわぁ~あ。ユダ様、おらメシいっぱい喰ったから、なんだか眠たくなってきたよ」
「おう、そうか。おやすみちゃーん」
バラバは一人宿へ帰っていっちゃいました。それを見計らったユダは、給仕する美女達を無理やり自分の手元に引っ張って、ベロベロチューしまくりです。
「ゲヘヘヘヘヘ~。今夜の相手はお前達だ!!」
「いや~ん」
さて、すっかりお腹もいっぱいになったバラバ。宿に帰る途中、しゃがんでる一人の少女を見かけます。バラバは気になって声を掛けました。
「お?おめぇどうしたんだ?」
「フン!」
「口をどっかに落しちまったのか?」
「フン!フン!」
「あ、分かった。腹減ってるんだろ?」
「フン!フン!フン!」
しかし少女は睨んだまま、顔を横に振って全く喋りません。何かを思いついたバラバは、美女とベロベロチューしているユダの所に戻りました。
「う、うわあああ!なんでもどってきた」
「なんか、おら、腹減っちまってよ」
「なんだよ、とっとと喰って寝ちまえって」
「ここらへの食糧持ってっていいか?」
「ああ、もってけもってけ!」
バラバは喜んで両腕に食料を抱え、先ほどのしゃがんだ少女のいる所へ戻りました。
「ほら、これを食べれば喋るだろう?」
「ゴクリ。。。」
「なーんだ、やっぱり腹減ってたのか?」
「フン!フン!フン!フン!」
グぅ~~~~~!
しかしお腹は正直です。赤面しながら顔を隠す少女に対し、バラバは大らかに笑い出しました。
「ガッハッハッハッハ!いっぱい食べろ!」
「うん。。。」
すると少女はガツガツと食べ始めました。バラバは側にいて、ずっと微笑んで眺めています。
「おめぇ、名前はなんてーだ?」
「あたしはリベカ」
「そっか、リベカって言うのか」
「あんたはバラバでしょう?」
「なんで知ってるんだ?おめぇ、あったまいいな~!」
「知ってるわよ。だって、うちの父ちゃん、あんたに負けて、今日の食べ物ぜーんぶ取られちゃったんだから」
するとバラバは申し訳なさそうに謝りだしました。
「それはすまんかった。おら、そんなつもりは無かったんだけどな」
「いいのよ、挑戦した父ちゃんが馬鹿なんだから。フン!」
「しょうがない。村のみんな、腹を空かしてるだろうから、この食料を分けに行くか?」
「本当に?」
「ああ。だって、元々は村の物だったんだからよ。おら達だけで飲み食いしたら悪いだろ?」
するとリベカはとっても嬉しそうになりました。
「バラバって凶暴な化け物だと思ったけど、結構優しいんだね?」
「ガッハッハッハッハッハ!おらがそんな事を言われたのは、おめぇが、生まれて初めてだ。ありがとよ、リベカ!」
こうしてリベカとバラバの二人は、寝静まった村を転々と渡り歩き、ユダが奪った食料を鼠小僧のように分け与えたのでした。
続く




