第五十一話
「うわわわわわ、バ、バラバだーーーー!!!!」
まるで大木を思い起こさせる太い両脚が、ノッシノッシとシナゴーグの中へ入ってくると、ゆっくりとその巨漢はユダを見下ろしました。
「なーんだ?救世主様ってのは、ずいぶんと怖がりなんだなぁ~」
「うわわわわわ、あわわわわ」
その恐ろしい筋肉の塊に、もはやユダは脅えて失禁状態。なんとかよつん這いで、泣きながら逃げ出そうとするユダでしたが、バラバはひょいっと首元を二本の指で掴んで持ち上げます。
「うぎゃーーー!殺さないでくれぇええ!」
「どうした?おらが怖ぇのか?」
「だ、だって。あ、ああああ、あんたは、何人も人殺しをしてきたんだろうが???」
「だっははははは、心配するでねぇって。おらが殺したのは窃盗する奴や強姦した奴だけだ」
それでもユダはその巨漢に怖がって、お漏らしをしてしまいました。
「なーんだ。救世主様でも、怖くて漏らしちまう事があるんだな?」
「くそぉおお。。。」
「まぁ、神の言葉を預かる者でも、食べりゃ出るもんな!ガッハッハッハッハッハ!」
ずっとバラバに吊るされているユダは、赤面しながら怒りだしました。
「大体な!お前がそんなにデッカイから、喰われると思って、こっちはびっくりしたじゃねぇか!」
「おーすまんかったすまんかった。そりゃ、お漏らししちまうな~」
「うっせぇー!お漏らしって言うな!俺の名はユダだ!いい加減降ろせ!」
「ほいよ、救世主ユダ様」
するとバラバは、まるで摘まんだ小石を投げ捨てるように、ポイッとユダを捨てました。床に頭をぶっつけ、血を流すユダ。
「いってぇー!じゃねぇか!」
「おお、悪かった。軽く飛ばしたつもりなんだがよ。ガッハッハッハッハ」
更にどなり散らすユダでしたが、大らかなバラバは笑ってばかり。そんな二人のやり取りを、カペナウム村の村長達がびっくりして見ています。
「なんだ?バラバの奴。わりと機嫌がいいな」
「あのユダとかいう男、本当はバラバを手懐けてるのでは?」
「ま、まさか!?」
「いや、そうかもしれん。同じ村人のワシらだって、バラバはあんな表情を見せた事は無いぞ」
ようやく血が治まったユダは、バラバに説教を始めました。
「この野郎!でかいからっていい気になりやがって。そんなんじゃ女なんかにモテなねぇーぞ!」
「ウンダ、確かにおらは女の子にモテた事ないかもしれない」
「なーんだ、おまえドーテーなのか?」
「テヘヘヘ。昔、初恋した女の子がいたけど、好きな相手がいるって言われてフラれた」
「お前、そこは照れる所じゃないだろ?そんだけ鈍感だと、女も逃げてくだろうな」
「それじゃ、どうすりゃいいんだ?救世主ユダ様」
「よーっし!俺がいっちょ、ニュースクールのギャングスタ上りとして、指南してやっから座れや」
「おいっす!」
ドスーーーーーン!
バラバが胡坐をかくと、シナゴーグ全体がゴゴゴゴゴゴっと揺れ出しました。周りのローマ駐屯地にもその地鳴が轟き、百人隊長ロンギヌスと部下カッシウスは異変に気が付きます。シナゴーグの中で、バラバの側にいたユダの頭には、天井に置いてあった壺が落ちてきました。
「痛っ!!!おい、バラバ!お前、少しは周りの事も考えろ!」
「なんでだ?おらがなにかしたか?」
「お前な。。。でかいからって、周りの事を気にしてないかもしれないけどな、こっちはいい迷惑なんだよ!」
「そういうもんなのか?確かにおらは昔っから、同じような事を言われてるかもな」
「だろ?」
二人は何とも不思議な関係です。
ユダはさっきまでビビってたバラバに説教をし、バラバも熱心にユダの説教を聞いてます。
「もしお前のケツのところに大好きな可愛い女の子がいて、それに気がつかないで尻もちしてみろ。お前は好きな子を殺しちまうぞ」
「それは大変だ。そんときにはどうすればいいんだ?」
「いいか、そんな時はだな。。。」
すると百人隊長ロンギヌスと部下カッシウスが、二人のいるシナゴーグへ偵察にやってきました。
「貴様ら!一体何の騒ぎだ!?」
「ひぃい!さっきのローマ軍兵!」
ユダはビビりなので、すかさず巨漢バラバの後ろに隠れます。しかし、バラバは一向に動じません。むしろ、鋭い目つきで百人隊長ロンギヌスと部下カッシウスを睨んでいます。
「あのよ~軍人さんよ。ここはおら達にとって神聖な場所なんだ」
「それがどうした?我々は『何の騒ぎだ』と聞いているんだ」
「関係ないこった。余所もんのおめーたちが、ノコノコと土足で達いる場所なんかじゃない」
「このウドの大木め!ローマ軍団に楯突く気か!?」
「あ!ロンギヌス隊長!後ろにいる奴は、さっき我々の駐屯所でワインをこぼしたガキです!」
「な、なに!?さっきの小僧か!?」
するとビビりまくりのユダは、バラバの耳元であることを囁きました。
「おい、バラバ!もしこいつらを追っ払ったら、女の子を紹介してやるぞ!」
「本当か?あんた、おらに女の子を紹介してくれるのか!さすがは救世主ユダ様だ!」
後ろにいるユダを庇うバラバはぬぅーっと立ちあがり、近くにあった列柱を両腕でベアハッグします。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「こ、こいつ!一体何をしようとしているんだ?」
「気をつけろ、カッシウス!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
更にバラバは両腕で列柱を締め付けると、辺りはグラグラと揺れ出します。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「フンガー!!!!」
ドガガガガガガ!ドゴゴゴゴーーーン!!!ガラガラガラ!
なんとバラバはベアハッグで列柱を破壊し、シナゴーグ全体をぶっ壊してしまったのです。素早く逃げだしたのもつかの間、百人隊長ロンギヌスと部下カッシウスは慄いて屋根の瓦の下敷き。気絶しているようですが、息はあるようです。ユダはバラバが庇ってくれたおかげで無傷でした。すっかりビビって、再び失禁するユダ。落ちてきた瓦礫を振り払うバラバは、ユダに向かってニコっと笑いました。
「おお、どうやら大丈夫だったみたいだな?」
「すっげーーーー。。。。」
ユダはひょいっとバラバの肩に乗せられます。側で見ていた長老達四人も、バラバの破壊力に気絶している始末。
「どうだい救世主ユダ様、いい眺めだろう?」
「ああ、確かにいい眺めだ。バラバ、お前と俺がいれば百人力だ!お前はゴリアテに立ち向かった英雄ダビデになれるぞ!」
「そうなのか?」
「どうだ!?バラバ、俺と一緒に旅をしないか?」
「旅?」
「そうだ!俺と一緒に旅をすれば、お前は英雄になれて、いっぱい女の子にもてるぞ!」
「ガッハッハッハッハ!そいつは名案だ!行こう行こう!」
結局、シナゴーグをぶっ壊したユダとバラバの二人は、後片付けもすることなく、ローマ兵の二人が目覚める前に、意気揚々と村から出てってしまったのでした。
続く




