第四十三話
結局マリヤちゃんがぶっ壊した馬車を修復することになり、大工のあんちゃん一行はアル・アカバ村でもう一晩泊ることになりました。身分を隠したヘロデも、浮浪者爺さんの格好をしたまま、一緒にあんちゃん達と過ごすことにしました。
「よーし、爺さん。クイズを出してやる」
「ほほう、かかってきなされ」
「"私はこんな事ができる。私がボールを一つ動かす。するとボールは私の手を離れて動いて行くが、ある距離だけ進むと一旦止まり、今来た道を戻って、スタート点である私の手に戻ってくる。ただし、何かにぶつけるとか、何かを結びつける、回転を与える、坂をつかう等の細工は一切していない。こんな事が出来るだろうか?"」
「な、なんじゃと!?」
フッフーン。あんちゃんは勝ち誇った表情です。しかしです。実はヘロデ国王も大のクイズ好きでした。
「それはあれじゃな、ただ単に上にボールを投げただけじゃろ?」
「くっそう!正解だ。なんですぐに分かったんだ!?」
「ホッホッホッホッホ。わしもクイズが好きでな、おぬしのような若い者には負けないぞよ」
「それなら爺さん、そっちからもなんか出してくれ」
浮浪者爺さんにふんしたヘロデは、嬉しそうにクイズを出し始めました。
「ある国に、AとBとCという三人の死刑囚がいた。彼らの牢屋はお互いの姿が見えるような場所で、国王は三人の死刑囚に、次の条件のどちらかを満たした者を釈放すると言ったそうじゃ」
「ふむふむ」
「条件一、黒い帽子が二つ以上見えた時。条件二、自分の帽子が白だと分かった時」
「ほいでほいで?」
「そして国王は、三人の手足を縛り、死刑囚全員に白い帽子をかぶせた。もちろん鏡もなく、自分の帽子を見ることはできない。三人の死刑囚はお互いを睨み合い、頭のいいAだけが『分かった!』と答えたそうじゃ」
「へぇ~」
「さて、頭のいいAはどのよう推理をし、死刑から逃れたのじゃろうか?」
大工のあんちゃんは考え込みました。それを聞いていた他の弟子達もみんなで考え込みます。フィリポとバルトロマイはiPhone5を使って、インチキしてネットで検索しようとしました。
「こりゃ!若造二人!」
「ひーー」
「(呟き)ほよ?」
「インチキは無しじゃ。自分の頭だけを使って、この問題を推理するのじゃ」
「ふぁーい」
「(呟き)了解つかまつりました!」
弟子達は一生懸命知恵を絞って応えますが、誰一人正解に辿りつけるものはいません。
「だめだ~、ジェイコブ。もう、さっぱりわからないぜ」
「マタイ兄ちゃんの帽子が黒で、僕の帽子が白で、ああああ!!!」
いつもコアな会話をしているヤコブとヨハネも、目を回して困っています。
「一見して、こういった数学的な理論に基づかない問題というのは、実は推理の理論と仮説に基づいて、緻密に計算されているのかもしれないな」
「アルキメデスの流体静力学から、正解を導き出せないのなら、これらの問題は別の角度で考えるしかないのかもしれない」
つまり、彼らは全くと言ってお手上げ状態です。しかし、頭のいい大工のあんちゃんだけが、突然手を挙げました。
「ユーリカ!(※ギリシャ語で分かったぜ)」
「ほほ~。それはどんな答えじゃ?」
「ちょっくら、弟子達が必要だから、見ててくれよ」
すると、先ずあんちゃんは自分の胸に『A』という名札を張り、フィリポの胸に『B』、そしてバルトロマイには『C』という名札を張ります。そして次に、三つの白い帽子をそれぞれに被せました。
「いいか、爺さん。これは推理力と仮定が試される問題なんだな~」
「なるほど」
「もし『A』の俺が、自分の頭に黒い帽子を被されたと仮定する。『B』のフィリポから見ると、白い帽子をかぶった『C』のバルトロマイと、黒い帽子を被った『A』の俺が見えるわけだ」
「ふむふむ」
「では今度、『B』のフィリポが同じように黒い帽子を被っていると仮定したとする。『C』であるバルトロマイからは、『A』の俺は黒い帽子、そして『B』のフィリポも黒い帽子が見えるのだから、条件一である、黒い帽子が二つ以上見えたので、『C』であるバルトロマイは国王に釈放を願うはずだ」
「そうなるの~」
「それは、『C』であるバルトロマイが仮定した場合でも同じといえる。だが、二人とも睨んだままで、何も言わなかった。つまり『A』の俺が、自分の帽子が黒だと仮定した推理は間違っていたわけだ。そこで、自分の帽子が白だと分かったのさ。どうだ!?」
ニコニコ微笑んだヘロデは、満面の笑みを浮かべて応えます。
「正解じゃ!」
弟子は正解したあんちゃんに拍手を送ってます。得意になって、イエーイ!とピースサインを送っているあんちゃん。感心しているのはペテロとトマスです。
「あの大工って、こういう事になると本当に頭の回転が速いといか、あざといというか」
「それには同感だ、ペテロ。元ヤンはどうして直ぐに答えられるんだろうな?」
こうして身分を隠したヘロデを囲んで、あんちゃん達一行は和やかに一晩を暮らしました。翌日、マリヤちゃんがぶっ壊した馬車は、村人達の助けですっかり元通りに修復されてました。その横には、尊重であるハガル婆さんがニコニコ笑っています。
「わーーーん、ハガルおばあさん、ありがとう!!」
「ええって事よ、マリヤ。またこの近くに来たら、必ずこの村に寄るのじゃぞ」
「はい!」
一行は旅の支度を始めました。それらの様子を、微笑んだ姿で見ているヘロデ。大工のあんちゃんは、陽気な様子で話しかけました。
「おい、爺さん。あんたも一緒に来るか?」
「わしか?わしは帰らんとアカンからの」
「帰るってどこへだよ?まさか、ヘロデ国王の城じゃねぇだろうな?」
ギク!
ヘロデは自分の身分がばれたのかと動揺しました。
「ほら、曾孫さんに教えてたんだろ?ダビデのポコチン像の話しを」
「こらこら、何と言う罪深い事を。まぁ、そうじゃな」
ふぅ~。どうやらまだばれていないようです。しかし、その横にいるハガル婆さんは、何かを感じ取っていました。
「爺さんや」
「なんじゃ?愛の伝道師」
「もしヘロデ城に行くなら、そこにアニキ・ザ・ヨハネって人が牢屋に捕まっていると思うだ」
その言葉を聞いたヘロデは、突然険しい顔になりました。何せ、そのアニキを捕まえているのは、自分自身だったからです。しかし、身分は身分。
「もしアニキに会えたら、ありがとうって伝えてくれよ」
「な、なんじゃ?それだけか」
「ああ、それだけだ」
「おぬしのアニキ分でみんなの希望の星じゃろ?助けに行ったりしないのか?」
大工のあんちゃんは両腕を組んで暫く悩みます。しかしやっぱり頷いて応えます。
「色々考えたんだが、やっぱりアニキなら、何か考えがあって捕まったままでいるはずだよ。若造の俺が助けに行ったところで、アニキのラリアットで一蹴されちまうさ」
ヘロデはアニキの性格を知っているせいか、思わず堪え切れなくなって笑い出しました。当然大工のあんちゃんも、浮浪者爺の笑い声に釣られて笑い出します。二人は腹を抱えて、転げ落ちるように笑い出しました。
「アハッハハハハハハハ!こんなに笑ったのは、一体、何年振りだろうか?」
「俺もだよ、爺さん。あんたの笑い声が面白くてなんのって、ギャハハハハハハ!」
するとあんちゃんはヘロデの両肩に両手を置いて、御別れを言いだしました。身分を隠したヘロデも、あんちゃんの両肩に両手を置いて応えます。
「またな、爺さん」
「おぬしもな、愛の伝道師とやら」
「また、会おうぜ」
「そうじゃな、今度は、面白いクイズを楽しみにしているぞ」
こうして笑い声に包まれながら、大工のあんちゃん一行は村を離れる時がやってきます。いつまでもヘロデに手を振るあんちゃん。身分を隠したヘロデも、爽やかな表情で手を振ってこたえています。あんちゃん一行が、真っ赤な夕日に染まった地平線の向こう側で見えなくなった時、ようやく身分を隠したヘロデは、浮浪者の格好を脱ぎ捨てました。横にいたハガルのおばあさんは、びっくりして尻もちをついてます。
「ま、まさか、貴方様は!?ヘロデ・アンティパス国王様!?」
「いかにも。この件に関しては、内密に願いたい」
ヘロデはこうしてアニキとの約束を守り、自分の目で大工のあんちゃんの真の姿を見届けたのでした。
続く




