第四十話
さて、アル・アカバ村の外れで、旅支度をしている大工のあんちゃん一行。
かなりの遅れになってしまったので、みんな忙しなく支度をしておりました。しかし、まるっきり非協力的な大工のあんちゃんは、眉間に皺を寄せ、タバコを口に咥え、かなりのご立腹でした。そこへ、ちょうど通りかかったペテロ。
「ペテロ!コノヤロー!」
ポコ!
「いてぇ!大工!いきなり頭を殴りやがって、何すんだよ!?」
「いくらなんでも、俺を毎晩、木に吊るすこたぁねぇだろが!」
「はぁ?!」
そう、大工のあんちゃんは、村人の女性達とイチャイチャしてやろうという企みが、ペテロとトマスにばれてしまい、なんと夜毎、縄で身体を縛られ木に吊るされていたのです。
「自業自得だろうが!エロ・チェリーのお前を放っておけるか!」
「こ、この野郎!人が気にしている事を、土禁で踏み込みやがって!」
「それを言うなら『土足で踏み込む』だ!このアホタレ!」
「うるせー!このデブが!」
「あ!てぇめこそ、人の気にしている事を!」
「うるせ!デブにデブって言って、何が悪い!?」
「ぶち殺してやる!」
ボコスカボコスカ!
ついにペテロと大工のあんちゃんのケンカが始まりました。忙しなく旅支度をしていたマリヤちゃんは、フゥーっと溜息をついて、両手に腰をついて二人をどなり散らします。
「あんた達!この忙しい時に、何やってるのよ!?」
ボコスカボコスカ!
二人のケンカは止みそうにありません。
「今日という今日は、決着付けてやるぜ!チェリー!」
「望むところだデブ!うりゃ!!」
ボコスカボコスカ!
「こんな忙しい時に、何やってるのよ」
ボコスカボコスカ!
しかし、二人はまったく利く耳ありません
「ん、もう!!!いい加減にぃいい、しなさいよぉおおおおお!!!!トゥ!」
するとマリヤちゃんはクルクルっと宙を舞って、アニキ直伝プロレス48の殺人技フライング・ボディー・アタックとパワーボムを、ばっちり大工のあんちゃんにかましました。
ドカ!バタン!
カンカンカン!スリーカウント!
「い、いって。。。マリヤ!な、何すんだよ!?」
「あんたが下らないケンカを始めるからでしょ!?」
「しかもなんで俺だけ??!」
「ペテロの言う通りよ!あんたはエッチなことを企んでたんだから、猿ぐつわにされても文句が言えないんだから」
「猿ぐつわ?おれにはそんな趣味はねぇ。それにな、(キッパリ)神に誓ってそんな性欲はねぇって」
「フーン、あんたが誓う神っていうのは、随分と安っぽいのね」
しかしマリヤちゃんは両腕を組んで、疑いの眼差しで見ています。
「コ、コレコレ、マリヤ~(苦笑)。お前は何と言う罰当たりな事を。。。」
「フーン、それならあんたの神はきっと、ギリシャ神話のエロスでしょ」
「おいおい、俺を誰と思っている。俺は天下の『愛の伝道師』だぜ」
「フーン、だから?」
「だ、だからって、そりゃこの俺は一度もあの経験もなく!(鼻息荒い)純粋無垢ってことよ~」
「フーン、そんなことを胸を張って自慢する事もないでしょ?」
「(困って)チェ、チェリーのこの俺が、どうしてエッチな事を企んでると思うんだよ~」
「フーン、だって、『早川ツバキ』のDVDコレクションいっぱいあるじゃない」
「あ、あれは男のたしなみって言うか、まぁ~、その、なんだ?ワインみたいなもんだ」
「フーン、何がワインよ。単なるAVじゃない」
「(さらに困って)これこれ。そういう事をはっきり言うんじゃないの。とにかくだ!俺の心は、まるで波一つない湖の如く、穏やかなもんだぜ~。性欲なんて今までも、これまでもなかったって事よ」
「フーン、だったら。トップ嬢マリコだった私を、あんたが指名しようとした過去は?」
ギク!
「しかも、ラザロの話によると、夜に弟子が寝静まってから抜け出したわけでしょ?」
ギクギク!
「さらに、大漁にゴムも買って、(さらに疑いの眼差し)あたしをアフターに誘って、あわよくば"ピー!ピー!"(※自主規制)をしようとしたじゃない」
ギクギクギク!
すっかりマリヤちゃんに鋭い突っ込みを受けた大工のあんちゃんは、冷や汗を流しながらも、まるで、すかしっ屁をしながらも、シラーっと隠し通そうとする、あの白々しさで誤魔化そうとします。
「あ、あはははは、あれれ??おっかしなぁ~。そんな事ありましったっけ?(ポリポリ)」
「フーン、まさかこの第四十話になって、すっかりまるっきり、忘れてしまったわけじゃないでしょうね?」
シャキーン!
軽蔑した眼差しのままのマリヤちゃんは、胸元から二つ折り携帯を取り出し、第十九話から第二十一話までの小説サイトを見せます。それを口を尖らせて読む大工のあんちゃん。確かに自分がこっそり宿を抜け出し、大漁にコンドームを購入している話が、事細かに、しかも誠しやかに書かれていました。
「くっそおおお!作者め!ストーカーまがいの事をしやがって」
仕方がありません。作者なので。
「何がストーカーよ。全部、エッチな企みを持ったあんたがいけないんでしょ?」
「作者!俺のかっこいいシーンを、もっと増やせってぇーの!!」
「作者のせいにするんじゃないの」
ありがとうマリヤちゃん。心から感謝しております。
言い逃れできない大工のあんちゃんは、両手を広げながら肩を竦めて、すっかり諦めて模様です。
「分かったよ、マリヤ。フッ。。。(前髪をかき分ける)俺は海よりも深く、山よりも高く、反省しているぜ」
「フーン、本当に?」
「ああ、本当だって(目を閉じて)フッ。。。」
「あ、そう~」
ズポ!
なんとマリヤちゃんは、第七話で大工のあんちゃんが被っていた坊主のヅラを、無理やり頭に被せました。
「あ!な、何をしやがんだ。あああ!!!こ、これは!!?」
「フフフ、トマスから貰ったの。懐かしいでしょう?」
「どうしてこんなもんを!ったく!トマスの奴はくだらないもんを残してやがってぇ~」
「みんなの旅支度が終わるまで、それを被りながら、そこで正座して反省してなさい!」
「な、なんで!?俺ばっかり~」
結局、大工のあんちゃんは、坊主のヅラを被ぶったまま、正座して反省することになりました。さて、一方、浮浪者爺さんに姿を変えていたヘロデは、大工のあんちゃんとケンカした後のペテロと出くわします。
「おおお、あんた!ちょうど良かった」
「なんだい?じいさん」
「あんさんは、あれじゃろ?『愛の伝道師』の弟子なんじゃろ?」
ピキ!
ペテロのこめかみに、青筋が浮かび上がります。
「クッ!胸糞悪い。俺はあんな奴の弟子なんかじゃねぇ!」
「そ、そうなのか?じゃが、村人の女共は口をそろえて、『愛の伝道師』は救世主メシアと呼んでおったぞ」
ピキ!ピキ!
さらにペテロのこめかみには、青筋が浮かび上がります。
「いいか!?爺さん!その遠い耳へ、冥土の土産に良い事を教えてやる!」
「な、なんじゃ?」
「あんなエロ・チェリーが救世主メシアだったら、この世はぜーーーーーーーんぶ破滅だ!」
そう吐き捨てて、ペテロはそのままプンプン怒りながら、どっか行ってしまいました。まさかヨハネだけではなく、ペテロの黙示録まであったとは。。。
「ナザレの坊主ってやつが、ますます分からなくなってきたな。村人の女達には、救世主メシアと呼ばれてるかと思えば、弟子からはエロ・チェリーで世界を破滅する男とまで言われてて。。。」
ペテロの迫力にびっくらこきながらも、とにかく、自分の目であんちゃんの姿を確かめるべく、ヘロデはあんちゃんのいる所へ足を進めました。
続く




