第三十七話
一晩明けて、ヘロデ国王の住むお城では。
「大変だ~!!!ヨハネの野郎が逃げたぞ!!!」
パウロは城中に大声で叫んでます。それを聞いた妻のヘロディアがわざとらしく騒ぎたてます。
「(わざとらしく)な、何ですって!?パウロ、その話は本当なのですか!?」
「(わざとらしく)は、はい。今先ほど、牢屋を見てきたら、な、なんと格子が開いてまして」
「(わざとらしく)そ、それは、大変ねぇ。あ、貴方!?ヨハネが逃げたそうです!」
「。。。。。。」
しかし玉座に座って、俯いてるヘロデからは返事がありません。
「あ、貴方?」
「。。。。。。」
「ヘロデ国王?ヨハネが逃げたのですぞ!」
「。。。。。。」
「???」
二人は様子がおかしいと玉座に近づき、俯いているヘロデの顔をあげます。
「きゃーーー!!?何これ!?」
「だーーー!!こ、これは!ダッチワイフだぁあああ!」
そうです。ポカーンと口と両目をあけたままのダッチワイフのシェリーさん(20才)が、なんと玉座にいるはずのヘロデ国王とすり替わっていたのです。パウロとヘロディアはあたふたしております。
「ガッハッハッハッハッハーのハッ!」
「そ、その声は!ヨハネ?」
不敵に笑いながら登場したアニキは、両手両足に鎖をつけたままアイスクリームをペロペロ食べています。
「やはり(ペロペロ)パウロと(ペロペロ)ヘロディアの(ペロペロ)仕業か(ペロペロ)」
「き、貴様はヨハネ!!!
「キィーーーー!あたしの夫をどこにやったのよ!?」
「そんなこと(ペロペロ)悪巧みしている(ペロペロ)お前ら二人に(ペロペロ)教えるか(ペロペロ)ボケ!」
「くっそう!ペロペロとうるさい奴め!」
「俺様を(ペロペロ)騙そうなど(ペロペロ)、片腹痛いわ(ペロペロ)!!!ガッハッハッハッハッハー!」
そういうと、アニキは牢屋に戻ってねっころがり、アイスクリームをペロペロ食べ続けました。では、読者のみなさんには、一体、どうしてヘロデがダッチワイフのシェリーさん(20才)さんと、見事すり替わったのかをお伝えしましょう。それは真夜中の、アニキの牢屋のある地下牢でした。。。
「な、なに!?何だって!?」
「おい、ヘロデ。俺はまだ、何も言ってないぞ」
「す、すまなかった、アニキ」
「まぁつまりだ。あのパウロって野郎は、俺とお前の仲を引き裂こうと、わざと脱走させるように企みやがった」
「そんなばかな!?」
「これがその証拠の牢屋のカギだ」
キーン!
アニキは牢屋のカギを、ヘロデの足元へ投げつけました。それを拾うヘロデ。そして、この牢屋のカギが、パウロ如きの輩が気軽に持てるようなものではないことを確信します。
「どうやらパウロとお前のカミサンは共謀したんだろう」
「だああああ!!!俺のナンシーーーめ!!やっぱりシドである俺を裏切るのか!」
頭を抱えてうなっているヘロデ。
「しかしアニキ、一体、あの二人は何故こんな手の込んだ計画を!?」
「最近俺の弟分であるナザレの坊主が、救世主メシアと呼ばれているらしい」
「あの愛の伝道師か!?しかしユダヤ王国で、普通の人間が救世主メシアなんて呼ばれたら。。。」
「そうだ。それは即逮捕されるだろう。きっとパウロは、義憤に駆られた俺がナザレの坊主のところへ行くと踏んで、陥れようとしたのさ」
ヘロデはカギを眺めながら、牢屋に入り続けているアニキを見ました。
「ではなぜ、アニキは脱走しなかったんだ?」
「脱走?」
「そもそも、そんだけプロレス殺人技を持っているのに、いざとなったらここから簡単に出られるじゃないか。なのに何故その牢屋から出ないんだ?」
「フッ俺は罪人じゃないからだ」
「!?」
アニキは両腕を組んで、真剣な眼差しで持論を語ります。
「いいかヘロデ。もし俺がここから脱走すれば、俺は自分が罪人である事を認める事になる。俺を慕ってくれるファンも嘆き悲しむだろう。上に立つ者とは、そういった事を含めた上で、他人の夢までも背負い込んで生きていかなければいけないんだ」
「アニキ。。。」
「それに、俺はお前が気に入ったのさ。だからこの牢屋から俺が出る時は、死んだ時か、お前に自由を認められた時以外には考えられない」
アニキの熱い言葉に、ヘロデは感動して泣きはじめました。アニキもヘロデの肩をガシッ!と抱きしめます。
「アーーーニーーーキーーー!なんだってそんなに俺を信じてくれるんだ?」
「当然だろ。お前は48のプロレス殺人技をマスターし、パンクを体現する立派な男になったんだからよ!」
「アーーーニーーーキーーー!実は、俺の母親は迫害されていたサマリア人で、グスッ。それが原因で誰も信用できなかったんだ、グスッ。だからヘヴィメタを聴いて虚勢を張って誤魔化していたんだ、グスッ。でも、グスッ。アニキはこんな俺でも信用してくれた!嬉しいぜ!!!」
涙も鼻水もびしょびしょに濡れたヘロデに対し、アニキも満面の笑みを浮かべて
「よーし、よーし!良い子だぜ。そこでだ、ヘロデ。俺の代わりに、ナザレの坊主が本当に十戒を違反したかどうか、様子を見てきてくれないか?」
「え?俺がですか?アニキ」
「そうさ。お前だからこそ頼みたい。もしナザレの坊主が噂通り、生意気でどうしようもない奴に落ちぶれていたときには、お前の得意技であるブレーンバスターを一発お見舞いしてやれ!」
「分かったぜ、アニキ!けれど、もしナザレの坊主が、無償で誰かを救ってたりしていたらどうするんだ?」
「そんときは何も声をかけず、ただ戻って俺に報告してくれ。俺はそれだけで満足なのだから」
感慨深い大きなアニキの心に、ヘロデはまだ見ぬ大工のあんちゃんへ、妙な親近感を感じました。ただ、ヘロデには一つだけ気がかりな事があります。
「でも、アニキ。俺がこの城にいない間、妻のヘロディアは怪しまないか?」
「フッフッフッフ、安心しろ。ちゃんと代役は俺が準備してある」
「なんと代役まで!?」
「まぁ少し使っちまったが、膨らませれば問題は無いだろう」
「さすがアニキだ!頼もしいぜ!それじゃ行ってくるぜぇ!」
「おう!!」
こうしてヘロデは大工のあんちゃんの様子を見る為に、お城から飛び出していったのです。そしてヘロデがいない間、このお城の主はアニキが用意したダッチワイフのシェリーさん(20才)が、ポカーンと口と両目をあけたまま支配することになったのです。ヨハネに出し抜かれたパウロは、シェリーさん(20才)の間抜け面が、自分を馬鹿にしているように思えてなりません。
「くそう!!!いつもいつもこの俺を出し抜きやがって!ヨハネめ!」
ボコ!
殴られ宙を舞っているダッチワイフのシェリーさん(20才)は、、ポカーンと口と両目をあけたまま床に落っこちました。それらの様子を苛立ちながら見ていたヘロディア。
「パウロ!このままでは、うちの旦那も、あの野蛮なヨハネの言いなりだわ」
「まずい!それだけはマズイ!」
「こうなったら貴方が計画した、ローマの官民連中を招く宴会を開いて、あの計画を今すぐにでも実行するのよ!」
「そうですね、ヘロディア様!このままヨハネを野放しにしてはいけない!」
だがパウロは一つだけ晴れない事がありました。
「ですがヘロディア様。ヘロデ国王にヨハネを斬首するよう仕向けるには、どうすればよいでしょうか??!」
「。。。」
ヘロディアは顎に右手を抑え、両目を閉じながらじっくり考えこみます。床にはポカーンと口と両目をあけたままの、ダッチワイフのシェリーさん(20才)が踊っているような姿をしていました。それをじっと見ていたヘロディアは妙案を思いつきました。
「そうだ!!これしかないわ!」
「な、なにか思いついたのですね?ヘロディア様」
「オッホッホッホッホ!!オッホッホッホッホ!!」
「な、何を?」
両腕を伸ばして、まるで世界征服でもしたかのような高笑いをするヘロディア。パウロは気でも狂ったのかと心配してます。
「フフフフフ!あたしの娘サロメを呼びましょう!!」
「なんと!?」
続く




