第三十三話
ここはガリラヤ近くの荒野。
『ファリサイ』レーベルのパウロは、大工のあんちゃんを陥れる為、ラクダに乗って追いかけていました。
「フフフフ!調子乗った大工め!今に見てろよ!」
本人は気付いてないようですが?その割には、結構のんびり屋さんです。さて、暫く進むと、目の前に一人の男がぶっ倒れていました。
「うん?誰だ?」
「だ、だれか、水を。。。」
大工のあんちゃん一行から逃げ出して一週間、何も喰わず死にそうになってユダでした。パウロに救われて、何とか生き返えったユダくん。
「リスペクト!どこの誰だか知らないけどYo!マザファッキン助かったぜ!」
「その喋り方、貴様は大工の弟子のユダだな?」
「そういうお前は誰Yo!?」
「俺は『ファリサイ』レーベルのプロモーターしているパウロだ」
「え!あ!『ファリサイ』レーベルって言えば、あのインディーズ・ヒップホップ・レーベルで有名な!?」
「そうだ」
「リスペーーーーークト!!!あの『ファリサイ』の社長に会えるなんて!」
ユダが喜ぶのも無理はありません。ヒップホップ好きなガキンチョからすれば、『ファリサイ』レーベルは憧れの的なのです!
「ユダ。一体こんなところで野たれ死んで、何をやってたんだ?」
「いや、実はYo!ブラザーと喧嘩しちまって」
「喧嘩?」
「最近ブラザーは死にかけた子供を救って以来、メシアって崇められて爺や婆を相手に、接骨医みたいなのをやり始めたんだ」
「ああ、最近ちまたの噂では、その話で持ちきりだ」
「『愛の伝道師』が『愛のカイロプラクティッカー』なんて呼ばれちまってよ。ところが、ブラザーは浮かれるどころか、全部無償でやっちまうんだよ」
「な、なに!?全部無償だと!?」
「世の中がこうだからどうだとか、はっきり言って中学生日記よりも青臭い事言っちまってよ。だから俺はブラザーに金儲けをしようぜって持ちかけたのさ」
「そしたら断られたんだろ?」
「ああ。。。しかも、引っ叩かれて『お前は何もわかっちゃいない、帰れ』って!」
そんな 意気消沈しているユダを眺めながら、パウロはある事を閃きました。
「ユダ、お前は全然悪くないぞ」
「え?」
「お前があんな大工に殴られる筋合いが分からない!人の為に尽くして、その報酬として金を貰う。仕事ってそういうものだろう?それのどこが悪いんだ?」
「そ、そうだよな!さすが『ファリサイ』レーベルのパウロさんは違うぜ」
「『右頬を叩かれたら、左頬を突き出せ』と言ってたあの大工が、当たり前のことを言ったお前の頬を殴ったんだぞ!お前はそんな奴を信用するのか?!」
「くっそ!!!!」
「元々お前はラッパーを目指していたんだろ?それなのに、あんな古臭いロック・ライブの前座なんかで満足していいのか?!」
「そうだ!よく考えたら、俺があんなオールド・スクールのラッパーなんかに、ヒョコヒョコついていくこと自体が意味わかんねぇ!」
単純馬鹿なユダに対して、頃合いを見計らうようにパウロは甘言に乗せます。
「だったらよ、ユダ。お前、うちのレーベルからデビューしないか?」
「え!?えええええええええええええええ!???」
もう、ユダは目ん玉が転げ落ちそうなくらいに驚いています。何せ、憧れのインディーズ・レーベルからのデビューなのですから!
「ほ、本当ですか!?パウロさん!」
「ああ、ユダ。俺は有言実行な男だ!」
「リスペーーーーークト!!!うわーーーーーー!!!!すげぇええええええええ!!うれしいいいいっす!」
「お前なら、ビッグマネーを稼げる最高なラッパーになれる!パンキッシュなプロレスマニアよりも、インチキな愛の電動コケシよりも、世界中の人気独り占めだぜ!」
すっかりその気になってしまったユダ。まさかそれがパウロによる、大工のあんちゃんを陥れる企てとも知らずに。
「だがデビューの前に、先ずはネガティブ・キャンペーンだ!」
「ネガティブ・キャンペーン??」
「そうだ。お前があの大工の格好して、色んな街で悪さをするんだよ」
その案に、ユダは顔をしかめます。
「何だって、そんな事をわざわざ?」
「よーく考えてみろ、ユダ。大工の評価が下がった頃合いを見計らってだな、お前がみんなの前にメシアとして登場してみろ?誰もがお前に助けを求めるだろう?」
ユダはパウロの言葉に感激しました。
「おおおおおおお!!!!リスペーーーーークト!!!すげぇ!さすが超一流のプロモーター!パウロさんだぜ!!」
「いいか?レコード売るにもグラディエーターの試合をするにも、ただ買ってくれって叫んでも誰も見向きもしねぇ。ムーブメントを演出してこそ、ユダ!お前の価値は上がるんだぜ!!」
「リスペーーーーークト!!!もう、自分は『ファリサイ』のパウロさんに、一生ついてきやっす!!!!」
「その調子だ!ユダ。早速、これを持ってけ!」
パウロから渡されたのは、ドンキホーテで買ってきた『愛の伝道師変装グッズ三点セット』でした。早速ユダは、大工のあんちゃんのヅラを被り、白いトゥニカを着て、青いトーガを巻きました。
「ユダ、クリソツじゃねぇか」
「ま、マジっすか?!」
「誰もお前をハゲ坊主のラッパーとは思わね。バンバン大工の真似をして、ビッチとやりまくって、金巻き上げて来い!」
「マザファッキン、イエスメーーン!」
確かにユダが変装した姿は、大工のあんちゃんそっくり。ユダもその気になって、歌い出しましたが、とんでもなく音程がズレて音痴でした。耳を抑えたパウロは、汗をかきながら指導します。
「ユダ、お、お前は唄よりも、やっぱりラップが似合うぜ。。。」
「そうすか?」
「ああ。それにうちはヒップホップ専門だからよ、唄わなくて良いんだわ」
「カーーー!そいでヤンしたね」
そういうとユダは、颯爽と近くの村を目指して走り去りました。それらを眺めていたパウロは、ユダが居なくなった後にゲラゲラ笑い出したのです。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!どうしてこうも、大工の弟子ってのはチョロイもんかねぇ。ユダ、お前なんかラッパーとしてデビューさせるわけねぇだろ、ボケ。せいぜい大工の悪い噂を広めてくれや、クックックック!!」
続く




