第三十ニ話
ユダが大工のあんちゃん一行から、飛び出して一週間。
一行はガリラヤ湖近くで、海水浴を楽しんでいました。あんちゃんは、白鳥の首がブランブランくっついた浮き輪を完全装備し、満面の笑みで弟子のトマスやタダイ達と一生懸命はしゃいでます。
「わーい!わーい!」
「キャッキャ!キャッキャ!」
隣で舟の用意をしている、ペテロとアンデレは呆れてます。
「ペテロ兄ちゃん。先生って、今、かなりヤバイんでしょう?メシアなんて言われててさ」
「ああ、アンデレ。このままだと、アニキ・ザ・ヨハネと同じように、逮捕されるのも時間の問題かもしれない」
「なのに、その本人は全然その事気にしてなさそうで、一週間遊び呆けてるし」
「多分、『メシア』と『飯屋』を勘違いしているんだろうよ。この間の婆さんの気絶させた時も、なんだかそんな事言ってたしな」
あんちゃんは白鳥の首をブラブラさせながら、今度はシンクロナイズドスイミングを始めました。その技に、トマスもタダイも拍手喝采です。
「よーっし!次は行くぞ、ムーンサルト・スパーック!」
「うおおお!すげぇぞ元ヤン!」
「先生、三回転半したぞ!」
またもやブラブラした白鳥の首が、陽の光にさらされ輝いています。そんな様子を、フィリポとバルトロマイは、パラソルの日差しの下からiPhone5でTwitter中。
「(呟き)バルトロマイ、リーダは『白鳥の湖』を意識しているなう?」
「(呟き)いや、フィリッポ。やっぱりカナヅチだと思うなう」
「(呟き)するどい。しかし、リーダは、そういうギャグを、よく思いつくなう?」
「(呟き)どちらにしても、あんな白鳥の首がついた浮き輪、どこで買ってきたなう?」
そんな遊び呆けている大工のあんちゃんを尻目に、マグダラのマリヤちゃんは、毎日高級ペルシャ絨毯の掃除と衣服の洗濯ばっかり。今日も、あんちゃんが脱ぎ捨てた服を洗濯物カゴへ、怒りにまかせて放り投げてます。
「ったく!あのおねしょたれは!毎日毎日!遊び呆けて!どうして!こう、だらしないのかしら!?」
すると海水浴を終えた大工のあんちゃんは、白鳥の首をブランブランさせながら帰ってきました。びしょ濡れのまま、当然のように高級ペルシャ絨毯の上でねっころがり、お菓子をボリボリ食べ出す始末。その姿を見たマリヤちゃんは、さすがに怒りだします。
「ちょっと!何やってんのよ!?おねしょったれ!!」
「こらこら、マリヤ。人の事をおねしょったれって言うな、おねしょったれって」
「それは大事な大事な高級ペルシャ絨毯なのよ!!一体だれが掃除してると思ってるのよ」
「そりゃ、お前だろ」
バコーーーン!
いきなりマリヤちゃんのげんこつが、あんちゃんの頭を貫きます。
「ってぇ~。。。何すんだよ?」
「あたしはあんたの女房でも何でもないのに、なんでこんな事しなけりゃいけないのよ!?」
「だって、けっこう洗濯が得意だったユダはいなくなっちまったし、それにお前は女だし。。。」
バコーーーン!
今度はマリヤちゃんのラリアットが、見事あんちゃんの首を貫きました。
「ゴホ!ゴホ!このモンチッチ野郎!いきなりラリアットしやがって、死ぬとこだったじゃねぇか!」
「フン、おねしょったれ。昔のあたしと思ったら大間違いよ!」
「何を生意気な!」
「あんたがアニキに弟子入りするずっと前、私はアニキ直伝の48の殺人技をマスターしているんだから!」
「な、なんだと!?」
【アニキ・ザ・ヨハネ直伝 48のプロレス殺人技!!】
既にパンキッシュな音楽活動で名を馳せているアニキ・ザ・ヨハネが、過去にプロレスラーになりたかった思いから、通信教育で全てマスターしたプロレス技である。その技の一つ一つは、有名なものからマニアックなものまでさまざまあり、それをマスターした者は、まさに勇者としてたたえられていた!!
<フラウィウス・ヨセフス著作『古代ユダヤのトンデモ風俗誌』58ページより>
「アッハハハハハ!ハーのハ!」
「何よ?突然笑い出して?!」
「いいか、マリヤ!まぐれでラリアットが当たったくらいでな、そんな嘘が俺に通用すると思っているのか?」
「な、なんですって!?」
「大体、お前のそんな細い腕で、なんでアニキ直伝48のプロレス殺人技をマスターできるんだよ?」
「キーーーーーーッ!!!」
「フッフッフッフ。さっきのはまぐれ、まぐれ。もういっちょかましてこい!」
ピーンっと強気に伸びきった白鳥の首と共に、自慢げに両腕を組見ながら目を閉じてるあんちゃん。すると、突然!湖から何かが現れてきました。
"ウガーーーーー!"
「ペテロ兄ちゃん!?何あれ?!」
「は、半魚人だぁーーーー!」
"ウガーーーーー!"
【ガリラヤ湖に生息する半魚人!!】
元々は、メソポタミアの伝説の生き物『魚のアプカルル』として有名だったが、なぜかここ、ガリラヤ湖にて繁殖し始めた!その姿は頭は魚のようで、身体はトカゲのような容姿!四足でノッソノッソと歩くという。因みにバビロン神官ベロッソスが著した『バビロニア誌』には、オアンネスなる名前として知られている!!<フラウィウス・ヨセフス著作『古代ユダヤのトンデモ風俗誌』31ページより>
"ウガーーーーー!"
「こ、今度のは半端なくでかいぜ!!!」
「に、逃げろおおおお!!」
しかも今回のはデッカイので、さすがの大工のあんちゃんもびっくりして逃げ回る始末。弟子達もキャーキャー!ワーワー!騒いでます。大半魚人はノッシノッシとマリヤに近づきます。しかしマリヤは驚くどころか、全然逃げようとしません。
"ウガーーーーー!"
「おい!ばか!マリヤ!やばいって!逃げろって!」
「おねしょったれ!よーーーく、その目をかっぽじて見てなさいよ!」
「はぁ!?」
"ウガーーーーー!"
なんと!タックルしてきた大半魚人を、マリヤちゃんはしっかりと受け止めたのです!
"ウ、ウガーーーーー!????"
さらにマリヤちゃんは、大半魚人の前足二本をしっかりと両腕で組んで、持ち上げ出したのです!
"ウ、ウガガガガガーーーー!????"
「アニキ・ザ・ヨハネ直伝!!!48のプロレス殺人技の一つ!ダブルアーム・スープレックスゥウウウウウウ!!!」
ドッカーーーーーーーーーーン!!!!!
マリヤちゃんのダブルアーム・スープレックスは、見事に決まりました!大半魚人は脳天直撃の大技を喰らい、両目はバッテンになって気絶中。
"ウ、ウ、ウガ。。。。"
逃げ回っていた弟子やあんちゃん達も、マリヤちゃんの大技に驚いてます。満足げのマリヤちゃんは、両手をパンパン払って、腰を抜かしたあんちゃんに念を押します。
「どう?おねしょったれ。これで分かったでしょう?あたしの実力を」
「は、はい。。。」
「これに懲りて、もう二度と私に逆らわないように!」
「は、はい。。。」
「それから!高級ペルシャ絨毯の上で、ボロボロお菓子をこぼしたりしないこと!」
「は、はい。。。」
「洗濯してほしかったら、ポンポン放り投げないで、ちゃんと畳んでおくこと!」
「は、はい。。。」
さっきまで強気でピーンと伸びきってた白鳥の首も、こってりマリヤちゃんに搾られ、正座しているあんちゃんといっしょに、しょんぼりしています。
「ランラランララーン♪」
まるで何事も無かったように、掃除を始めるマグダラのマリヤちゃん。彼女は本当に、あのアニキ・ザ・ヨハネから、48のプロレス殺人技をマスターしていたのでした。
続く




