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第三十一話

ギリシャの医者ヒポクラテスの医学を使って、喉を詰まらせた子供を救ってしまった大工のあんちゃん。その噂は輪を掛けて大きくなって広がり、終いには『メシア』=救世主と呼ばれるようになってしまいました。


「ったく冗談じゃねぇ~よ、ペテロ。俺はロック・シンガーで愛の伝道師だっていうのに。。。」

「しょうがねぇだろ、大工。大体お前が、余計な事して治したから、こんなことになっちまったんだろ?」

「だって、目の前に困っている奴がいたら、そりゃ、お前助けるだろう?普通」

「大工、お前は本当にどーしょうもないペテン師か、それとも本当にどーしょうもない、お人よしかのどっちかだな?」

「うんなのどっちでもいいって。俺はなんて言うの?こう、体中にロックを感じてさ、盛り上がってる観客に向かって、唄って叫びたいわけよぉ~」

「いいから、大工。ぼやく前にその手を動かせってぇの」

「へいへい、ペテロっち。はーい、次の方どうぞ!」


そうです、あんちゃんはいつの間にかにカイロプラクティックを始めていたのです。しかも、なんと無償というから驚きです。その理由には、自分はギリシャの医学本を読んだだけなので、お金なんか貰ったら申し訳ないとのこと。この謙虚なあんちゃんの姿勢に、カイロプラクティックは爆発的な人気を呼びました。


「まぁ~おばあちゃん。今日はどうしましたか?」

「いやいや、今度うちの孫が来るんでな、なんとかこの曲がった腰を、メシアさんに真っ直ぐにして欲しくてねぇ~」

「おばあちゃん、うちは飯屋じゃないの。カイロですよ~」

「ああ、エジプトの?」

「(小声で)だめだな、このババアは、人の話聞いてねぇ」


ゴキゴキゴキ!

あんちゃんは面倒なので、ついアニキ直伝のキャメルクラッチを、この婆さんにしちゃいました。


「お、おい!大工!何やってるんだよ!?」

「え?いやー面倒だから、思いっきりキャメルクラッチを」

「キャメルクラッチだ?馬鹿野郎?そんなんじゃ、あああ!この婆さん、意識が無いぞ!」

「何!?」


暫く婆さんは動きません。さすがにあんちゃんも青くなって、なんとか人工呼吸をしてあげました。すると婆さんは、いきなり元気になって立ちあがったのです。


「あらま!!!?曲がってた腰が治ったよぉ~」

「(焦りあーんど涙目)あははははは、よ、良かったですね~。お、おばあちゃん」

「ありがとうごぜぇますだ、メシア様」

「たははは、だから。うちは飯屋じゃなくって、カイロだって言ってるでしょう?」

「おまけに接吻まで頂いちゃって、もう、なんだか二十代のように若返った気分じゃよ。うっふ~ん♪」

「お、おばあちゃん」


ペテロとあんちゃんは、作り笑いをしながら陽気に振る舞って婆さんを見送ってます。


「あの婆さん。ひょっとしたら、大工が人工呼吸したから、生き返ったのかもしれないな」

「うーん。侮れないぜ、年寄り女性の性欲っていうのは」

「(小声で)チェリーのお前が、何、偉そうに言ってやがる」

「なんか言ったか?ペテロ」

「いえ!何にも。(ったく、地獄耳め!)」


一方、フィリポとバルトロマイは新しいiPhone5をゲットして、楽しそうにTwitterで遊んでます。


「(呟き)いやー、バルトロマイ。新しいiPhone5は、軽くて長いなう」

「(呟き)siriちゃん、最高なう」

「(呟き)しかし、ヘブライ語に対応してないなう」

「(呟き)それは残念なう」


さて、『マーシーの法則』ばっかり読んでいたユダは、無償でカイロをしているあんちゃんに不満がたまっていました。


「ブラザー。何だってタダで治療するんだYo?」

「そりゃ、ユダ。俺達は、手塚先生の名作『ブラックジャック』みたいなもんだからよ」

「金取った方が儲かるじゃんかYo!」

「いいか?これは有名税でおまけみたいなもんだ。本来、俺はロックシンガーなんだから」


するとユダは、それでも喰って掛かりました。


「ブラザー、俺は納得できねェYo!あんたは世界でビッグな存在になりたいんだろう?ビッグマネーYo!」

「それは違うな、ユダ。見てみろ、今の世の中を。みんな自分のことしか考えなくなって、人との付き合いも避けるようになって、独りが気楽だなんてのんきな事を言っている。人と向き合う事をしなくなったから、直ぐにぶちキレて、誰かに八つ当たりをして、我儘になっちまってる。こんな世の中だからこそ、世の中金だけじゃねぇんだって処みせなくちゃよ」

「たしかに、ブラザー。あんたの言う事は正論だぜ。だけど、食う為には金を稼がないと生きてけねぇYo!ちょうどこんなに爺や婆がいっぱいいるんだからYo!やつらからがっぽり御布施でも免罪符でもいいから、かね貰っちまえばいいじゃんかYo!」


するとあんちゃんは、眉間にしわを寄せて、ペシっとユダの頬をはたきます。


「いてぇ!何すんだよ?ブラザー」

「ユダ、お前はそんな事、本気で言ってんのか?」

「あったりめぇだろYo!人を治して、なんで金取っちゃいけねェんだYo!?」

「そしたら、お前は何もわかっちゃいねぇな。とっとと帰れ!」

「あああ!?あんだと!?」


ユダはぶちギレて、あんちゃんの襟首を掴みかかりました。あんちゃんはそれでも動じず、ずっとユダをみたままです。さすがに周りにいた弟子達も、二人の緊張感ある様子が心配です。しかしあんちゃんの目は真剣そのもので、自分の襟首を掴んだユダの手を払いのけます。


「近頃のお前は本ばっかり読んでたから、さぞかしマシなラッパーになったと思って期待してたけど。結局、上っ面で金が欲しいだけの、ギャングスタと変わってねぇじゃねぇか」

「な、なんだと!?この野郎!少しぐらい人気があるからって、調子に乗りやがって!」


あんちゃんに飛びかかったユダ。しかしあんちゃんは怒って、ユダをぶん殴りました。

ボゴ!


「いっつううう」

「悔しいか!?ユダ。何故、悔しいかわかるか!?」

「うるせーーーーー!お前の説教なんか、聞いてたまるか!!」


プッ!!!

ユダはそう言うと、あんちゃんに唾を吐き捨てて、その場を走り去ってしまいました。心配になった疑い深いトマスは、あんちゃんに近づいて話しだしました。


「おい、元ヤン。ユダの奴を追いかけなくていいのか?」

「フン!ガキじゃあるまいし。少し怒られたぐらいで、いちいちキレやがってゆとり世代が」

「ゆとり世代とか関係ねぇだろ。ユダだってお前の事を想って言ったんだろうに」

「どうせ、そのうち帰ってくるだろうよ」

「本当か?なんだか、俺は悪い予感がするけどな。。。」


疑い深いトマスの悪い予感は、その後に現実のものとなるのでした。


続く

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