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第三話


漁師ペトロとアンデレを連れ立った『愛の伝道師チェリー・ボーイ』こと大工のあんちゃんは、人気がどんどん上がります。もちろん、その話は漁師仲間の兄弟ヤコブとヨハネにも耳に入り、彼らも大工のあんちゃんのファンになります。そしてその噂もTwitterで拡散。


「おいバルトロマイ、聞いたか?なう」

「フィリポ、何の話だ?なう」

「すんげー伝道師がいるんだって、なう」

「まじで?なう」

「ちょっくら見にいかね?なう」

「いいよ、なう」


童貞同士の絆は女の子も喰えないと言いますが、チェリーで引きこもりのフィリポとバルトロマイも、大工のあんちゃんと出会った瞬間に弟子入り。


ガシッ!


涙を流しながら固い絆を表すように、三人の童貞は毎晩使い慣れた右手で握手します。そんなある日の事でした。


「おい、ペテっち」

「なんだ、大工?」

「あの目つきの悪そうな奴、どうしてあんな所に独りで座っているんだ?」


そこには周りのユダヤ人から避けられた、マタイという人物が一人でムスっと座ってました。


「ああ、あいつか?あいつはマタイっていうローマ帝国の収税人なんだよ」

「収税人??」

「新興ヤクザ帝国が、うちらの王国からみかじめ料を徴収してて、奴はヤクザの手伝いをしてるわけさ」


つまりこのマタイ、ローマ帝国の手下だから、同じユダヤ人からずっと嫌われていたのです。


「なんだ?そんなことで股井さんは、嫌われているのか?」

「股井さんじゃねーって。。。マタイだって」

「かわいそうにな。ちょっくら、話してくるわ」

「おい、大工!やめとけって。あいつはヤクザの手下だぞ」

「大丈夫、大丈夫。それでも俺たちと同じ人間YO!」


そういうと、大工のあんちゃんはスタコラさっさとマタイのところへ行きました。


「誰だ?」

「よ、マタイっち。あんた、みんなから、みかじめ料を取ってるんだって?大変な仕事だな~」

「ああ、それがなんだよ?」

「どうだ?そんなクソみたいな仕事なんか辞めて、俺たちと一緒に『人類の愛』ってやつを徴収しねぇか?」


出ました!大工のあんちゃん、お決まりのキャッチが始まりました。


「はぁ?!何言ってんだ?!」

「だから俺たちと一緒に、ビッグにならねぇか?って事よ~」

「てめぇ!俺をナメてんだろ?!」

「いや、そんなつもりはねぇよ。怒らすつもりはなかったんだ、ゴメンゴメン」

「俺たちユダヤ人は、ローマ帝国に税金払わなければ、命がねぇんだぞ!」

「そ、そうだよな?確かに。それは本当に申し訳ない。そっか、そっか、悪かった」

「俺は命を賭けて、お前達の命を護るために、この仕事をやってるんだ!お前らみたいな漁師とか、無職の童貞なんかと一緒にすんじゃねぇ!」


周りにいた全ての人は、マタイの突きつけた現実に、ただ何も言えず俯くばかりでした。しかし、たった一人だけ、大工のあんちゃんだけはマタイに怒ったのです。


「てんめぇ!マタイ!偉そうに俺たちを護ってるとか、上目線で物事を語るんじゃねぇーよ!」

「?!」

「マタイだが、股痛いだがしんねぇけどよ!さっきからこちとら散々謝ってるのによー!調子乗りやがって!仏の顔も三度までだぞ!」


大工のあんちゃん、感情的になると、ライバルの言葉までパクリます。勿論マタイも反撃。


「うるせー!俺がどんな想いでこの仕事をやってるかも知らないくせに!好きでやってると思うか?!」

「そんなに辛いなら、そんなもんやめちまえよ!漁師だろうが収税人だろうがな、仕事の苦しさは変わらないんだ?!仕事は仕事だろうが?!何が違うんだよ?!いいか?人や物事を、上辺だけで見るじゃねーよ!!」


さすが愛の伝道師。彼の言葉に、弟子達は感激して涙を流します。マタイもちょっぴりだけ感激してました。しかし、大工のあんちゃんの怒りはまだ続きます。


「それにな!俺が童貞だって、勝手に決めつけるんじゃねーよ!!」

「え?」


はい。

大工のあんちゃんの怒りは根源は、実はそこでした。


「マタイ!俺だってバッチリ、経験済みかもしんねぇーんだぞ!」

「おい、十分自分は童貞ですって、言ってるじゃねぇーか」

「な、何だと?!」


そこは嘘つけない大工のあんちゃん。顔を真っ赤にしながら、周りをキョロキョロ気にしてます。弟子達は手に顔を抑えて、あちゃーな感じです。


「ふん、危うくチェリーにだまされて、無職になるところだったぜ」


そういうと、マタイは再びムスっとした表情に戻り、自分の家に閉じこもって、扉を閉めてしまいました。


「ちくしょう!マタイ!俺に恥をかかせたまま、テメェは逃げる気か?!表に出て来い!素手で勝負しろ!素手で!」


大衆の前で恥を曝した大工のあんちゃんの、怒りが収まりことはなさそうです。仕方がないので、一番弟子のペトロが宥めます。


「もういいって、大工。今日は一先ず退散だ。それにな、あんなマタイの野郎でも、少しはあんちゃんの言葉に感動してたよ。やっぱり、人や物事は、上辺だけじゃないんだな?」

「うるせー!俺は一発あいつを殴って目覚めさせないと、気が済まねぇんだ!」

「いいから、今は放っておこうぜ」

「手を離しやがれ、デブ!」

「ああああ!てめぇ!デブって言いやがったな!?」

「デブにデブって言って何が悪い?」

「てめぇ!さっきは偉そうに、人や物事を上辺だけで見るなって、言ってたくせに!」

「あのねー。俺は『見るな』と言ったが、『言うな』とは誰も言ってないだろう?」


さすが愛の伝道師。屁理屈も超一流です。とにかく、マタイを表に出して決着をつけたい大工のあんちゃんは、弟子達と作戦会議して、明日、再びマタイの家の前へ訪れる事にしました。


続く


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