第二十八話
赤ちゃん言葉しか話せなかったヘロデ国王から、唐突に家庭教師を頼まれたアニキ。最初は困惑してましたが、アニキもなかなか人情派。この際だということで、プロレス技とパンクロック・ヒストリーを英才教育することになりました。
「ヘロデ!そこはちが~う!」
「はい!アニキ!」
「いいか?お前のバックブリーカーにはポリシーが感じられないんだ」
「はい!」
「ここのあいだから、こうやって腕を伸ばして、こう曲げる!」
「はい!」
やはりプロレス技からでした。アニキの体育会系に、最初はゼーゼーハーハー言ってたヘロデですが、すっかりスポ根並みのキャラに設定変更です。
「ヘロデ!そこはちが~う!」
「はい!アニキ!」
「いいか?みんな勘違いしているが、ピストルズは自分達を純粋なロックバンドと思ってて、音楽的アナーキーだったんだ」
「えっと、音楽的アナーキーっと」
「シド・ヴィシャスは恋人のナンシーを誰よりも愛していたけど、共にヤク中になっちまった」
「はい!」
あれほどヘヴィメタ好きだったヘロデは、今やすっかりパンク・ロックに魅了されちゃいました。髪の毛はすっかりツンツン短髪の黒髪シド・ヴィシャス風で、南京錠を首から飾り、安全ピンを何十個も縫い合わせたレザージャケットに、ベースギターを振り回していました。
「ちょ、ちょっと!?あんた!?なんなのその格好??」
「よう、俺のナンシー」
「ナ、ナンシー!?あたしはヘロディアよ!」
「ケッ!名前なんてくそくらえだぜ!ヤクザ・ローマ帝国ファック!ファック!ファック!」
妻のヘロディアは、自分に従順だったヘロデの変貌ぶりにびっくり仰天。直ぐに反抗するわ、中指を立てるわ、力を持て余したとおもうと、今度は衛兵とプロレス技の掛け合いをする毎日。今夜も、ヘロデは新しいプロレス技を取得するため、アニキより特訓を受けていました。
"うりゃーーーーーー!"
"そうだ!ヘロデ!そのまま、ニードロップだ!"
地下牢からは、アニキにプロレス技の英才教育を受けるヘロデの雄たけびが聴こえてきます。
"うりゃーーーーーー!"
"よおおし!いいぞ!そのまま、パイルドライバーで攻めるんだ"
全く眠れないヘロディアは、もう我慢ができません。ツカツカと怒りながら地下牢まで行き、怒鳴り始めました。
「いい加減にしてよ!あんた達!全く何時だと思っているの!?」
「なんだよ、ナンシー。そんなに怒るなって」
「だから、あなた!!!あたしはナンシーなんかじゃないって!」
「照れるなよ、ナンシー。俺とおまえは、この南京錠で結ばれた仲じゃないか」
「ふざけた事言わないで!あなたはとにかく寝室に行ってちょうだい!」
ボコ!
ヘロディアにお尻を蹴られたヘロデは、痛がりながら階段を上がっていきます。それらの様子を牢屋の格子から不敵な笑顔で眺めているアニキ。我慢ならないヘロディアは、ここまで自分の夫を変貌させたアニキに逆恨み。腰に両手を置きながら、ツカツカとアニキに近づきます。
「ヨハネ!私の夫が変になったじゃない!!」
「馬鹿言っちゃいけねぇな。あれこそ奴の本当の男の姿じゃねぇか!」
「プロレスにパンクロックだなんて!おまけにローマ帝国にも反抗的になったじゃないの!どうしてくれるのよ!?」
「アハッハハハハハ。いいか、ヘロディア。お前の旦那は、自分からこの俺に家庭教師をしてくれって、頼んできたんだぞ?男の目覚めだと思って、心から祝福してやれって」
「何が男の目覚めよ!あの人は、私の言う事だけ聞いていればよかったのよ!」
プッチ~~~~~ン!!!
その言葉にアニキは切れ、ヘロディアの襟首を乱暴に掴んできました。
「なんだと?このアマ!!てめぇ!女のくせに何様のつもりだ!こら!」
「いや!離して!」
「ったく、調子乗りやがって!男を舐めてるとな、そのうち痛い目に遭うぞ!」
「いやーーー!離して!」
「男を手玉にとって何でもできると勘違いしている女が、俺はこの世で一番大っ嫌れぇなんだ!!!」
ブン!っとアニキはヘロディアを投げつけました。
「きゃぁ!」
ビリビリビリッ!!
すると、アニキが掴んでいた襟首から服が引き裂かれ、ヘロディアは床に倒れてしまいました。気がつくと自分の胸元があらわになっており、慌てて恥ずかしそうに隠しています。
「フン!これで分かったろ?」
「な、何がよ!?」
「お前も所詮、女だっていう事がな」
「あっ。。。」
「どんなに偉そうなことを言ってもなぁ、胸がはだければ男の前では隠すし、恥ずかしがるもんなんだよ」
「。。。」
「分かったら出しゃばらず、黙って着飾っているんだな?ガッハハハハハハハ」
自分の言いたい事だけ言ったアニキは、ヘロディアに高笑いをしながら、鼻糞穿りながら牢屋の隅で眠りに着きました。こぼれおちそうな涙を我慢しながら、歯を軋ませ悔しがるヘロディア。
「ヨハネ!絶対にあなただけわ許さない!私の全人生を掛けて、必ず殺してやる!」
眉間にしわを寄せながら、キッと牢屋を睨むヘロディアは、自分を馬鹿にしたアニキに復讐を誓うのでした。一方、五話にわたっても、まだ出番が少ない大工のあんちゃんはというと。。。
「キャ!なにこれ!?」
床に転がっているDVDを発見してしまったマリヤちゃん。どうやら、弟子にこっそり購入した、セクシー女優早川ツバキちゃんの新作らしいです。
「"出会った瞬間に私はメロメロ。私はうさぎちゃんシリーズ"!???ちょ!ちょっと!なんてものをこんなところに置いてるのよ!」
「あ!こら!マリヤ!人のコレクションを勝手に見るな!」
「コレクションって!あんた、こんなもんばっかり集めてるの!?」
「べ、別にいいじゃねぇか!」
「キモイ。。。」
「キモイっていうなよ。いいか?これは自然の摂理に対して、それら一切を否定しないプラトン主義に従順な行為を、模範すべき解答法でもあるんだ」
あんちゃんはくそ真面目な振りで両腕を組み、目を閉じながらマリヤちゃんへ説教を垂れ始めました。
「プラトンさんも、少年愛のパイデラスティアーを御愛好されていたが、美のイデアを愛することでは敵わない部分をだな?こうやって俺はDVDの新作が出るたびに。。。」
「キモイ!キモイ!キモイ!キモイ!!!!!」
マリヤちゃんは目を閉じて、持っているDVDを地面に叩きつけだしました。
「ああああああ!!!こら!モンチッチ!お前、なんてことするんだよ!!!!」
「だってぇ!あんたこれを見て、なんか変な事やっているんってことでしょ!?」
「そりゃ~。(自慢じゃないが)ひっつくトイレットペーパーより、カシミヤの方が相棒だけどな」
「ひっつくって!いいやぁあああああああ!!!!!やめてぇええええ!!!!」
思いっきり嫌悪感を示すマリヤちゃんは、遠くの方へ新作DVDを投げつけてしまいました。もちろんその先には『マーシーの法則3』をふむふむと読んでいるユダがいます。
ゴツン!
それでもユダはずっと本に夢中で、次のページをめくるだけ。その様子を見ていたジェイコブとマタイは、首をかしげています。
「ジェイコブ、ユダは本当にどうかしちまったのか?」
「さぁ?マタイ兄ちゃん」
「お前があんな変な本を読ませたんだろ?」
「まさかシリーズものだなんて、知らなかったよ」
その後ろでは、マリヤちゃんにボッコボコにされた大工のあんちゃんが、床にぶっ倒れていました。
続く




