第二十五話
策士のパウロによって、まんまと逮捕されてしまったアニキ・ザ・ヨハネ。ヘロデ国王の待つ城までの道のりの間、両手を鎖につながれ馬車に引きづられています。パウロは困惑した様子のヨハネを、精神的に痛めつけようとしています。
「クククク、ヨハネ。さすがに弟分でもある大工の息子に裏切られたとあれば、普段は強気なお前でも、狼狽する事もあるんだな?」
「信じられん。あの大工の息子が俺を陥れるなんて、ありえない!」
「まぁ、グラフティを見れば分かる事さ。奴は、元々ヒップホップが好きで、哲学ラップでギリシャ人とディスってたんだから」
「しかし、今の奴はロックで愛の伝道師だ!この俺様が奴の生っちょろいやり方を非難しても、動じず自分の道を突き進んでいたんだ!」
「クククク!所詮そんな奴でも、妬みのある人間なんだろうよ」
「......」
納得のいかないアニキでしたが、とにかくヘロデ国王の城へ着きました。そして、城の壁に描かれた落書きを目の当たりにします。
"ヘロデ!貴様の嫁さんデ~ベソ!by アニキ・ザ・ヨハネ"
「ククク!どうだ?ヨハネ」
「うぐぐぐぐぐ」
「誰が見たってお前を陥れようとする、大工の仕業に見えるだろうよ」
「ググググググ!」
「さすがにショックを受けて、声も出ないか?ククク!」
しかしアニキは突然笑い出しました。
「ガッハッハッハッハッハ!」
「な、なにがおかしい!?」
「これは大工の息子が書いた落書きなんかじゃねぇ」
「なんだと!?」
「"by"なんて、古臭い言い回しなんかするかよ」
「なっ!?」
アニキの言葉にパウロはしてやられた悔しさをかみしめています。アニキはパウロの策略である事が、直ぐに分かりましたが、繋がれた鎖を外せとは言いませんでした。
「それにな、お前やドン・ガバチョのカヤパが何を企んでいるか知らねぇがな、こちとらあのグータラなヘロデに、随分前から直接中指を立ててやろうと思ってたんだ」
「え!?」
「俺達パンクが乗り込んでも、そうそうヘロデは謁見なんかしてくれねぇだろうからな。パウロ、わざわざ出向く手間が省けたぜ!」
そうです。アニキはパウロの作戦に、ワザと騙された振りをしていたのです。やっぱりパンキッシュのアニキは、伊達にプロレス技を知っているだけではありません。正にスピニング・トーホールドを掛けられたと見せかけて、逆転技のブレーンバスターでカウントスリーです。
「くっそぉおおおお!!その浮浪者をヘロデへ連れてけ!」
パウロに高笑いをかましながら、ローマ兵達に連行されていくアニキ。ようやく、ヘロデのいる謁見の間へ連れて行かれました。そこの部屋では、ヘヴィメタル系の音楽がジャカジャカ・ドカドカ鳴っていました。装飾品もドクロだの雷だの死神の鎌だの。歌詞も悪魔崇拝、地獄ばっかり。ヘロデの召使たちのも、長髪の頭をグルグル回してノリに乗ってます。ようやく音楽に導かれ、グータラなヘロデが姿を表しました。その格好はデブのくせに革ジャンで長髪に、アイラインを入れた化粧をしていました。
「ケッ!カマ野郎が」
ヘロデは人差し指と小指だけを立てて、ヘッドバンキングをしながらアニキへ近づきました。そして、音楽が終わると、汗をだらだら流しながら陶酔しています。
「やっぱり昔のヘヴィメタは最高でしゅねぇ~」
「......」
ヘロデはようやくアニキと目を合わせます。アニキも地面に唾を吐きながら、ヘロデに鋭い眼光を見せています。
「お前が、僕ちんのお城に落書きをした浮浪者でしゅか?」
「フン!だったらどうなんだ?」
「僕ちんのヘロディアまで愚弄しゅるなんて、絶対にゆるしぇましぇん」
「ヘロデ、お前の嫁は元々、貴様の弟の嫁で、殆ど近親相姦じゃねぇか。メタル好きな貴様にはもってこいかもしれねぇがな、世間様は許しても俺様はゆるさねぇぜ!」
「な、なんでしゅと!!!!??」
怒り狂ったタコのように、真っ赤になって怒りだしたヘロデ。近くにいた兵士の槍を奪い取り、アニキの喉元へ突き付けます。しかし、アニキはいつまでも不敵な笑みを浮かべたまま動じません。
「殺したかったら俺を殺してみろ!だがな、貴様が俺様を殺せば、何百万のパンク小僧達が、必ずや貴様の首を取りに、仕返しにやってくるぜぇ」
「ウッグググググ!」
「激しさとスピードだけで誤魔化している貴様らの音楽と、俺達パンクの音楽は意気込みや命の張り方が違うんでい!」
「い、言わせておけば!!!!!」
アニキに侮辱されて引き返せなくなったヘロデは、手に持った槍を握りしめ、アニキをブチ殺そうとしました。
「国王、お待ちください!」
「!?」
ヘロデの暴挙を止めたのは、胸元がぱっくり開いたドレスで着飾った妻ヘロディアでした。
続く




