第二十四話
いつの時代も、偉大な父を持つ息子とは、プライドだけは一丁前のグータラになるものです。
ここユダヤ王国でも例外はなく、大王の息子ヘロデも、プライドだけは一丁前で、酒と女に溺れた日々を過ごしていました。そんなある日、お城の壁にスプレー缶を使ってでっかい落書きが描かれていたのです。
"ヘロデ!貴様の嫁さんデ~ベソ!by アニキ・ザ・ヨハネ"
「なーーーんでしゅか!?これは!?」
「ヘロデ様、どうやら昨夜に描かれたみたいです」
「僕ちんのお城に落書きし、しかも、僕ちんのヘロディアまで愚弄しゅるするとは!」
「このアニキ・ザ・ヨハネって奴は、ヨルダン川で観客に泥水をぶっかけるパフォーマンスで、大人気のパンキッシュ野郎らしいです」
「いい度胸でしゅ!こいつをすぐさまひっ捕えてきなしゃ~い!」
こうしてユダヤ国王の怒りを買ったアニキ・ザ・ヨハネですが、今日も罰当たりな小僧共と一緒に、ヨルダン川にて泥水をぶっかけてパンキッシュなライブを繰り広げてます。
「オイ!オイ!オイ!ヤクザ・ローマ帝国なんてクソ喰らえぇ~♪!」
「おおお!!さすがアニキ!ヤクザ・ローマ帝国クソ喰らえ!」
「オイ!オイ!オイ!ユダヤ王国のグータラヘロデに中指立てちまえぇ~♪」
「おおお!!やるぜアニキ!ヘロデに中指立てちまえ!」
するとユダヤ国王の兵士達が、ラクダに乗りながら即刻ライブを止めるように通達してきました。
「なんだなんだ!?」
「あいつら、ヘロデの手下連中じゃねぇか!
「俺達のライブを邪魔しにやってきたのか!?」
どよめく観客に対して、アニキ・ザ・ヨハネは冷静になるよう観客へ同意を求め、兵士隊の言い分を聞き入れようとします。
「パンキッシュ・ヨハネよ!即刻ライブを中止し、おとなしく我々のお縄をちょうだいしろ!」
「"冗談じゃねぇぜ!サノバビッチ。なんで貴様らのような、ヤクザ・ローマ帝国の犬どもの言う事を聞かねぇといけねぇんだ?"」
「貴様はヘロデ王の城の壁に、王女を小馬鹿にする落書きを描いた!しかもご丁寧に自分の名前まで残して!」
「"どこの世界に、わざわざ自分の名前を残して落書きする馬鹿がいるんだ!?"」
そうだ!そうだ!と罰当たりの小僧達も扇動します。
「お前のグラフィティ行為は、建造物等損壊罪・器物損壊罪によって罰せられる」
「"ほざいてろ、ヘロデの犬共め!身に覚えの無い罪で、逮捕されてたまるか!"」
アニキを慕う罰当たりの小僧達は、拳を空高く挙げて、ヘロデの兵士達へ罵声を浴びせ始めます。
「そうさ!アニキがそんな事をするわけねぇだろ!」
「アニキは正々堂々と、いつもステージの上から誹謗中傷を叫んでるんだ!」
「ヤクザ・ローマ帝国の犬のくせに、お高くとまった貴様らのような連中が、アニキは一番大っきらいなんだ!」
「そうだ!俺達のアニキのライブを邪魔するんじゃねぇ!」
過激な観客である小僧達は、ライブ会場に散らばってたペットボトルやウィスキーのボトルなど、一斉に兵士達へ投げつけ始めました。
「き、貴様ら!や、やめんか!」
「くっそ!この罰当たりな連中め!」
「不届き者め!ヨハネの奴を連行しろ!」
兵士たちは自分の円形の盾で身を守りながら、罰当たりな小僧どもを蹴散らし、アニキ・ザ・ヨハネの元へ辿りつきます。観客達はアニキを守るように取り囲み、そしてライブ会場から今すぐ逃げるように勧めました。
「アニキ!ここは俺達に任せて、裏から逃げてくれ!」
「そうです!アニキを守るのが、俺達ヴァイオレンス・パンクの宿命ってやつです!」
しかし、アニキ・ザ・ヨハネは逃げるどころか助走をつけて、なんとヘロデの兵士達に向かってダイブをし始めたのです。
「必殺!ガリラヤ式ローリング・ラリアッーーーート!!」
「うげぇ!」
「この技はザ・ロード・ウォリアーズのホークに捧げるぜ!フライング・ショルダー・アタッーーーーク!」
「うぎゃ!!!」
次々とプロレスの必殺技で、ヘロデの兵士どもをなぎ倒すアニキ。さっきまでのパンキッシュなライブは、突然プロレス会場のような異様な盛り上がりを見せました。
「ウィーーーーーーーーーーーッ!」
アニキはスタン・ハンセンよろしく、片腕を上げて観客へアピールしています。観客もアニキのカリスマに称賛の声を上げてます。
「すんげー!さすが武闘派アニキだ!」
「やっぱりハト派の愛の電動コケシなんかより、数段上だぜ!」
「俺はまさか、永眠したホークの必殺技が見れるなんて!」
「アニキの必殺技は、飛び上がった時、身体のひねりが違うんだよ!」
ヘロデの兵士をせん滅させたアニキは、マイクを握り締めながら、罰当たりな小僧達に訴えかけます。
「"いいか!?どんな事があっても屈したら負けだ!腐った犬なんかに成り下がんじゃねーぞ!」
「うおおおおおおおお!!!!アニキーーー!」
「"ヤクザ・ローマ帝国なんかくそったれだ!ユダヤ王国なんか中指だぜ!"」
「うおおおおおおおお!!!!俺達はついていくぜ!」
意気揚々で高揚感を満喫してバックステージに戻ってきたアニキ。しかし、そこには、ローマの兵士達が短刀を取り出して、アニキを取り囲むように待ち構えていました。
「次から次と、貴様らはゴキブリか!?」
そしてローマ兵士達の間から出てきたのは、あの『ファリサイ』レーベルのパウロでした。突きだされた短刀に囲まれたアニキは、そのパウロの様子を鼻で一笑します。
「フン。貴様が裏で糸を引いてたのか?パウロ」
「久しぶりだな?ヨハネ。その年になって、未だにパンクに身を捧げてるとは、全く恐れ入るぜ」
「そういうお前こそ、ヒップホップからアイドルレーベルに移籍したって話じゃねぇか」
「うるせー!まだ買収されてねぇ!」
「どっちでも構わねぇがな」
パウロはこめかみに青筋を立てて、拳を握り締め叫びました。
「いいか?ヨハネ!貴様はヘロデ城へのグラフティ行為で、これから逮捕されるんだ!」
「ケッ!何がグラフティ行為だ?俺達パンクはなぁ、落書きなんてせこい事はしねぇ。バリケードぶっ壊して、割れたビール瓶を放り投げて、血だらけになって総攻撃よ!」
「抵抗すれば、貴様のパンキッシュ信者共も道ずれにしてやる!もちろんお前も逃亡すれば、奴らは全滅だ。さぁどうする?」
「クッ、卑怯な奴め!」
さすが情に熱いアニキ、罰当たりな観客の小僧達を巻き込むわけにはいきません。両手首をローマ兵に差し出して、彼らの代わりに逮捕されました。パウロは勝ち誇ったように、上から目線で眺めております。そんなパウロにアニキは、唾をひっかけるように悪態をつきました。
「フン!どうせその『落書き』も、ドン・ガバチョみたいなカヤパが仕組んだ、お前の仕業なんだろう?パウロ」
「フフフフフ!いいや、違う」
パウロはヨハネに近づいて、小声で耳元に次のように言いました。
「あの『落書き』の犯人はな、貴様の人気を妬んだ大工の息子なんだとよ」
「な、なに!?」
ローマ兵によって両手首を鎖に繋がれたヨハネは、困惑した表情を浮かべながら連行されていったのでした。
続く




