第二話
『愛の伝道師』を自称する大工のあんちゃんは、なんと地道にキャッチを始めました。これが結構好評だったのです。そこで大工のあんちゃんのキャッチ方法を披露しましょう。
「ちょっと、ちょっと!そこのお嬢さん。見てよおれの写真。四十日でこんなに痩せたんだよ」
「あー!それって最近流行りのキャッチかセールスかなんかでしょ?」
「違うって~。寝てたら痩せたんだって」
「寝てるだけでダイエット!?マジ!?どこのエステ?ローマの新宿?エルサレムの渋谷?」
「ちゃうちゃう、ヨルダン川の勝鬨橋の近く。ヨセフのアニキに追い出されて、砂漠で腹減ったまま寝てたら痩せたんだって。しかもタダだよ」
「ええ?!タダなの!?」
「そうさお嬢さん。世の中いつもお金ばかり。だけど、お金が無くたって痩せれるのさ。まるでお金が無くたって親子が愛することができるようにね」
「愛ね~。何ていい響きなんでしょう♪」
まぁ、何ともインチキくさい手口ですが、それでも困っている人を見ると放っとけない優しい性格がヒットして、徐々に人気が出始めてきます。
「さぁ、今日もいいことしたぞ」
さて、そんなある日。アニキ・ザ・ヨハネのファンだった、ガテン系漁師の兄弟ペトロとアンデレと出会います。
「ああ、そこの漁師くん」
「ああ?」
「悪いが向こう側の湖に行きたいから、舟に乗らせてくれ」
「なーんで見ず知らずのお前に乗らせなきゃいけないんだ?」
「ったく、(小声で)太った漁師が偉そうに。。。」
「おい!今、俺の事、太ったって言ったろう?」
「言ってないって。とにかく舟に乗らせろよ」
「冗談じゃねぇ。太った漁師って言った奴になんか乗せるか」
すると、弟のアンデレが大工のあんちゃんに気が付きます。
「ペトロ兄ちゃん!こいつ、アニキのところに出入りしていた大工のあんちゃんだよ」
「なに?こいつが、あの生意気な元ニートで大工か!」
「フッ。今は『愛の伝道師』で、ビッグなスーパーニートを目指している身さ」
「何が『フッ。』だ。所詮、無職だろうが。。。」
「自慢でもないが、ここ半年は、ハローワークにも行ってないぜ!キリッ!」
「そんなの自慢にもならねぇよ。ダメだダメだ!帰った帰った!無職のお前を乗せる舟はねぇ」
「いいじゃんか、ちょこっと乗せてくれたって。(小声で)太った漁師だな~?」
「あ!てぇめ!また言いやがったな?俺が一番気にしていること」
「そんなに気にしているんだったら、痩せればいいじゃん」
「簡単に痩せれるなら苦労しねぇよ!絶対に乗せてやるもんか!!」
「こんにゃろ、人が下手に謙って頼んでいるのにつけ上がって。おめぇどこの高校出身よ?!」
「こちとら、ガリラヤ第三高校の番長だ!」
さすがお互いにガテン系の仕事をしているだけあります。喧嘩っ早いです。一触即発のところを、弟のアンデレが仲裁しました。どうやらガリラヤ第三高校の番長だったペテロは、最近魚が取れなくてイライラしていたそうです。
「なーんだ、悪かった。そうなら早く言ってくれよ~」
大工のあんちゃんも根はやさしいので、そりゃ悪い事としたと平謝り。一緒に魚を捕まえる方法を考案してやると言いだしたのです。
「つまりだ、俺達兄弟は何日もこうやって漁しているけど、全くさっぱり魚が釣れんのだわ」
「ふむふむ」
「いつも僕が左から魚が追い詰めて漕いで、ペテロ兄ちゃんも左から攻めるんだ」
「ふむふむ、なるほどな。こうやって二人の話しを聞いてると、ペテっちの漁の仕方はワンパターンだな」
「なっ?ペ、ペテっち!?」
大工のあんちゃんは、いつでも誰にでも、そしてどんな人にも馴れ馴れしいのです。
「それに、弟のツンデレ!」
「あの、僕はアンデレですけど。。。」
おまけに大工のあんちゃんは、人の名前を覚えるのも苦手でした。
「そうそう、カンデレ。いつもお前が左にバンクしてっから、二ケツしてるペテっちが、ワンパターンな漁しかできねぇんだよ」
兄弟は互いに目を点にして、顔を見合わせていました。たしかに、大工のあんちゃんの言うとおり。いつもワンパターンで魚逃げられていたのです。
「そうなのかな?ペテロ兄ちゃん」
「どうなんだろうな?アンデレ」
「大丈夫だ!ペテっち、ランデレ」
「アンデレだって。。。」
「そうそう、パンデレ。ビッグな俺が言うからには間違いはない。それに、ペテっちの癖を見極めたぞ!」
「何?!おれの癖だと?」
大工のあんちゃんは、ニヤニヤしながらペテロに質問してきます。
「ペテっち、お前一人エッチはいつも左手だろ?」
「な、なぜそれを知ってる!?」
「なははは!やっぱりそうか!当てずっぽで言ったけど、やっぱりワンパターンだな」
「ああああ!引っ掛けやがったな!」
「ペテロ兄ちゃん、そうなの?」
一応ペテロには妻子がいます。でも男の子です。そんな時もあります。
「つまりだ。魚もペテロっちのワンパターンは知っているってことだ。とりあえず、舟の右から網を打ちつけてみたらどうよ?そしたら大漁に網に引っ掛かるって!」
とりあえず大工のあんちゃんは、根はいい奴みたいだから、兄弟は言う通りやってみる事にしました。湖の真ん中らへんで、右側から網を打ちつけると、なんと!デッカイ口をした半魚人が捕まったのです。
"ウガーーーーー!"
「な!なんだ!?」
「ペテロ兄ちゃん!?何あれ?!」
"ウガーーーーー!"
「は、半魚人だ!」
「ど、どうしよう!?こっち来るよ!」
「と、とにかく引き揚げるぞ!アンデレ!」
"ウガーーーーー!"
二人の兄弟は、さらに海に潜って格闘し、何と半魚人を釣りあげてしまったのです。岸で待ってた大工のあんちゃんは大喜び。びしょ濡れになった二人を気遣い、二人の為に炭火を熾して待っててくれたのです。
「おー、ペテっち、ハンデレ。良くやった!」
「僕はアンデレだって。。。」
「おお今日は半魚人か~。俺が言ったとおり、大漁大漁じゃないのさ~!」
「どこが大漁なんだよ、大工!だいたい半魚人一匹じゃねぇか?!」
「チッチッチッチ、ペテっち。いいか?おれは何も魚がいっぱい取れるとはいってねぇ。とにかく半魚人でも、食える魚は魚だ」
"ウガーーーーー!"
後ろで吠えている半魚人を見つめる二人。よーく眺めていると、だんだん半魚人がおいしそうに見えてきました。おまけに空腹には敵いません。
「そうだね、ペテロ兄ちゃん。。。」
「だしかに魚は魚だな。。。」
三人はなんだかんだ、仲良く朝食をとりました。そして大工のあんちゃんのビッグな話を聞いている二人は、この大工がとんでもねぇバカか、それとも、とんでもねぇ天才かのどっちかだと思うようになります。勿論、大工のあんちゃんは、お得意のキャッチを忘れません。ペトロの両肩に手を置いて、自分の弟子になるよう説得するのです。
「どうだ、ペテっち。このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか?」
「はぁ?砂糖水?俺はそんなもんなんか売ってねぇぞ」
ペテロとアンデレはさっぱり意味が分かりませんでした。当然です。二千年後のiPhoneを発明したアップル社長の言葉なのですから。
「あ、間違えた。ペテっち、お前の腕を見込んでよ、今度はこんな半魚人なんかじゃなくって、人類の愛ってやつを釣り上げねぇか?」
「じ、人類の愛?」
「ああ。どうせここで漁師で頑張っても、いいとこ半魚人捕まえるくらいよ。でもいつかビッグなチャンスを掴む俺様と一緒だったら、お前は絶対に、世界中にいる人類の愛を釣り上げる、最高の漁師になれるぜ!」
世界中にいる人類の愛を釣り上げる漁師。その言葉に弟のアンデレは目を輝かせ、即座に頷いて大工のあんちゃんの手を握り答えました。しかし、ペテロは妻子がいる身なので、直ぐに答えず悩んでいます。手を取り合った大工とアンデレはずっと笑顔で待ってます。それなのにペテロはずっと腕を組んで、しまいには夕日が暮れそうでした。
「おい~!いつまで待たせているんだ」
「うーん、どうしよう。。。」
「もう日が暮れちまったじゃなぇか。ここは普通、手を取り合って目を輝かせるシーンだろうが?!空気読めって、デブ!」
「あ!てめぇ!今、デブって言いやがったな!この野郎!だれがてめぇみたいな、インチキ野郎についていくかよ!」
「インチキ野郎だと!?だったら、さっき食った半魚人全部吐き出せよ!」
「なんだと!?あの半魚人は俺とアンデレは釣り上げたんだ。お前はただ岸で見てただけじゃねぇか!」
「馬鹿野郎、俺のアドバイスがなかったら、半魚人さえも食えなかったじゃねぇーか!」
「このやろう!奇跡的な結果を出したくらいで調子に乗りやがって!」
「てめ!愛の伝道師の俺様に、なんてこと言いやがるんだ!」
「何が愛の伝道師だ。単なる無職やろうじゃねぇか!なんか童貞臭も漂ってくるぜ!」
「あ!!人が一番気にしていることを。。。」
「え?」
口を滑った大工のあんちゃんでしたが、時すでに遅し。なんと、ペテロとアンデレは大工のあんちゃんの大切な秘密を知ってしまいました。
「何!?お前童貞だったのか!?あはははははは!なーんだ!そうだったのか!あはははははは!」
「くっそう~。。。。」
「あはははははは!チェリー・ボーイで愛の伝道師か!!こいつは最高だ!がっはははははは!」
「な、内緒だかんな。。。」
「がっはははははは!分かった分かった。しょうがないからお前についてってやるよ~」
「くっそう、俺がいつかビッグになったらな、お前みたいな奴は、ローマで逆さ十字の刑だかんな!」
「がっはははははは!ほざえてろ、チェリー・ボーイ♪」
「ガッデム!」
こうして新しいファン(?)二人を手に入れた大工のあんちゃんは、漁師の兄弟を引き連れてドラクエのような冒険をするのでした。
続く