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第十九話

実は幽霊とか未確認動物とか、そういう怖い話が大の苦手だった大工のあんちゃん。気絶していた弟子達から、ようやくさっきの怪談話は、ダジャレだったことを聞いて一安心しています。


「なんだ、フィリポ。全部ダジャレだったのか。先に言ってくれれば、俺も怖くなかったのにな~」

「リーダー。先に言ったら面白くないじゃん?」

「確かにな」


うんうんと頷く大工のあんちゃん。


「リーダーは、幽霊とか未確認動物とか以外に、苦手な物ってあるの?」

「そうさな~。冷や奴とか焼き魚とか苦手だな」

「いや、食べ物じゃなくてさ」


すると、大工のあんちゃんは、思い出し笑いをしました。


「そうだな。一番苦手なのは、誰かと競争することかな?」

「競争?」

「ああ。。。」


腕を組みながら、昔を懐かしむように空を見上げる大工のあんちゃん。横で不思議そうにしているフィリポ。今回は、幼い頃のエピソードをお伝えしましょう。


それはむか~し、むかしのこと。

まだ大工のあんちゃんが毎朝おねしょばっかりしていた三歳の頃でした。


「まったく、この子は。今日も寝小便してぇ」

「母ちゃ~ん。ごめんなさ~い」


とうぜんそんな時は、朝、母ちゃんにこっぴどく怒られてます。もちろん寝小便の跡はでっかい十字架。さすがのマリア母ちゃんも、毎回同じなので感心しています。


「それにしても、あんたが描くのは、どうして、こうも神秘的な十字ばっかりなんだろうねぇ」

「フフフ、お母様。きっとこれは僕に与えてくれた、神からの啓示なのです!」


ゴンッ!


「いってぇ~」

「馬鹿な事言ってないで、とっとと布団を乾かす!」

「ふぁーい」


ヒリヒリするタンコブを撫でながら、布団を乾かしている大工のおねしょったれ。すると、家の側にある木のてっぺんから、女の子のおてんばな声が聞こえてきました。


「やーい、おねしょったれ。アハハハハハ~。また寝小便して怒られてヤンの~」

「あああ?!モンチッチ!!」


このモンチッチとは、近くに住んでるおてんばマリヤちゃん。猿のようにすばしっこく木登りをすることから、大工のおねしょったれから、そんなあだ名をつけられました。


「ちょっとぉ!!誰がモンチッチだってぇ?!」

「うるさいモンチッチ!人のプライベートを勝手に見てはいけないんだぞ!」

「見たくなくたって、ここに登っちゃえば見えちゃうんだも~ん」

「くっそぉ~女のくせに生意気な。大体、お前にはコンプライアンスってものがねぇのかよ?」

「なにそれ?」

「コンプライアンスっていうのはだな、『遵守、従順』って意味があって、他人の個人情報を不正に入手したり、プライバシーを侵害することはだ、勝手にしたりするとだな。。。」


偉そうに腕を組んで講釈をする大工のおねしょったれ。


「あのねぇ。さっきからおねしょした布団の前で、何を偉そうな言葉並べてわけ?」

「ああ!しまった!」

「大体、馬鹿にされたくなかったら、おねしょしなければいいでしょ?アハハハハ~おねしょったれ」

「くっそぉ~!本日、我が人生、何たる不覚!」

「あんた、昨日も一昨日も、ばっちりおねしょしてたじゃない」

「な、なぜその秘密を?」

「ちゃんと見えていたもん」


カーーーーーーッ、と真っ赤になって恥ずかしくなったおねしょったれ。ムカついたので、足元にある石ころを拾って、マリヤちゃんに投げつけました。


「ちくしょう!おねしょおねしょって何度も馬鹿にしやがって。人が一番気にしている事を!えい!」

「へへーーんだ!」


しかしマリヤちゃんはとってもすばしっこく、ちょこまか木登りを繰り返し、おねしょったれの投石を避け続けます。


「あんたのなまっちょろいおねしょったれの石なんか、あたしになんか当たらないよ~」

「くっそ!またおねしょって言いやがって。えい!!えい!」

「ばぁーーー!こっちだよ~!へっへっへっへ」


結局、おねしょったれが投げた石は、今まで一発もマリヤちゃんに当たらず、馬鹿にされるのがオチでした。そんなある日、大工のおねしょったれが、いつものように家の近くの木の下で、一人哲学書を読んでいると、マリヤちゃんが物珍しそうにやってきました。


「あんた、また難しい本を読んでるの?」

「うん?なーんだ、モンチッチのマリヤか。何しに来た?」

「別に。何の本を読んでるのかな?って、気になっただけ」

「これか?これはアレクサンドリアのフィロンが書いた『モーゼの生涯』だ」

「誰それ?」

「なーんだ。お前、アレクサンドリアのフィロンを知らないのか?」

「知らない。どうせ長い髭を生やした、白髪のお爺さんなんでしょ?」

「するどいな。このフィロンっておっさんは面白い事を言っててな、ギリシャの哲学者プラトンが提唱するロゴスは、モーゼの影響を受けたって言ってるわけだ」

「ふーん。難しい事、あたしよくわかんない」


実はマリヤちゃんとおねしょったれの二人。いつもは喧嘩しているくせに、大きな木の下で、たまーにこうやって遊んだりしています。


「ねぇねぇ~。そんな本ばっかり読んでないで、何か競争しようよ?」

「つまらん」

「えー!そんな事ないって」

「どうせお前の事だ。僕は木登りは嫌いなんだ」

「分かった。それなら駆けっこならどう?」

「駆けっこ?」

「しかもちゃんと賭けをするの」

「賭け?」


大工のおねしょったれも、賭けという言葉にはピクンと反応します。


「あたしが勝ったら、あんたは裸になって逆立ちで街中を歩くの」

「それじゃ、もし僕が勝ったら?」

「あんたのお嫁さんになってあげる」

「うげぇ、モンチッチが僕の嫁さんかよ~」

「なんですって?!」


ふぅーっと溜息をついて大工のおねしょったれは、マリヤちゃんを宥めます。


「わかった。お前が負けたら、裸になって逆立ちで街中を歩くのでいいよ」

「大体、あんたがあたしに勝てるかどうか分からないのにぃ」

「確かに木登りならお前に勝てないけど、駆けっこなら僕だって男だ。女のお前なんかに負けないぞ」

「大した自信だね?よーし、勝負ね?」

「いいぜ!」


こうして二人は、駆けっこ競争をすることになりました。大きな木の下からスタートして、向こうにあるぽつりとある、一輪の白百合へ先に触れた方が勝ちです。


「いいか?モンチッチ。ズルっこい事は無しだからな?」

「あんたこそ、おねしょったれ」

「よーし、負けないぞ」

「位置について。。。」

「よーい。。。」


ドン!

二人は一斉に走り出しました。思ったより大工のおねしょったれは素早く、マリヤちゃんをあっという間に抜いてしまいます。焦った彼女はビックリしながら、負けたくない一心で一生懸命追いかけますが、距離はグングン離されてしまいました。どうしても負けたくなかったマリヤちゃんは、さらに頑張って走ろう足を上げた時でした。


ズテンッ!


「え?」

「イターーーーイ!ウェーーーーーーーン!!」


なんとマリヤちゃんは脚を絡ませてしまい、転んでしまったのでした。泣き声を聞いた大工のおねしょったれは、立ち止って急いでもどります。


「お、おい?モンチッチ大丈夫か?」

「ワーーーーーン!ウェーーーーン!グスン!痛いよ~!」


マリヤちゃんは膝を擦りむいて、血を流して痛がってます。


「うぎゃ!膝から血が出てるじゃないか」

「ウエーーーーーン!痛いよーーー!ママーーーー!」


もうマリヤちゃんは大泣きで、涙とか鼻水とか大洪水。困った大工のおねしょったれは、色々と考えた挙句、近くの草を引きちぎってきました。


「マリヤ、もう泣かないの。これで血が止まるから」

「グスン。本当に?グスン」

「ああ。さっきのフィロンの本に書いてあったから」


引きちぎった草を擂り潰し、それらをマリヤちゃんの膝に塗ってあげると、本当にマリヤちゃんの血が止まりました。大工のおねしょったれも、なかなかなもんです。


「すごーい!」

「へへーん。どうだ?」


胸を張って鼻をこする大工のおねしょったれ。しかし、そんな姿が、マリヤちゃんには頼もしく見えたのです。


「(小さい声で)ありがと。。。」

「え?なんだって?何か言った?」


本当は大きい声で言いたかったマリヤちゃんでしたが、素直に言えなくてモジモジしてました。すると、大工のおねしょったれは、突然マリヤちゃんをおんぶしてくれたのです。


「しょうがねぇから、今日はもう帰ろうっか?」

「うん。。。」


辺りが夕暮れに包まれながら、おんぶされたマリヤちゃん。大工のおねしょったれに優しくされた事が、とっても嬉しくてギュっと抱きつきました。


「おい、モンチッチ。お前、そんなにひっつくと、お前のきったない鼻水がついちゃうだろ?」

「な、なによ、いいじゃない」

「よくないって。鼻水ぐらい拭けって」

「うるさいわね!」


そんな仲睦まじい二人の姿を、一輪の白百合が優しく見守っていたのでした。


続く

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