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第十七話

さて、読者の皆さまは『ローディー』という言葉をご存じでしょうか?

昔の呼称なら付き人で、一般的には音楽スタッフであり、近年ではロックやポピュラー音楽業界における、ミュージシャンやバンドのサポートをするスタッフのこと。彼らの主な仕事は以下の通りです。


・機材の手配

・舞台のセッティング

・コンサート業務

・楽器のメンテナンスなどなど


大工のあんちゃんの十二人の弟子達は、ローディみたいなものです。今日は、そんな彼らの実像に迫ってみましょう。


【静脈大陸ドキュメント!人気急上昇中!大工のあんちゃんと十ニ人のローディ達】


テッテ、テーレーレ~♪ テッテ、テーレレーレレ~♪(テーマ曲「静脈大陸」作曲 馬鹿背太朗)


彼らの一日は、メインボーカルとの打ち合わせで始まる。


二人の名前はフィリポとバルトロマイ。音響機材の操作を担当するPAエンジニア達だ。メインボーカルのどんなリクエストにも応えられなければ、PAの仕事は務まらないと彼らは言う。


「いや~フィリポ。やっぱり『オバケのQ太郎』の代表キャラと言えば、ラーメン大好き小池さんだよな~」

「いや、リーダー。実は小池さんの本名が、本当は『鈴木さん』なのって知ってた?」

「ま、マジで!?」

「へっへ~ん。実は小池さんのモデルは、藤子不二雄先生と同じアパートに住んでいたアニメータの鈴木さんなんだ。その後に『小池さん』の家で下宿して、オバQではそれ忠実に再現したから、いつの間にラーメン大好き小池さんになってしまったらしいよ」

「へぇーーー!そいつは知らなかったぜ」


「静脈大陸」のスタッフは、フィリポとバルトロマイに質問をしてみた。無口なバルトロマイだけは、なぜかTwitter経由で行われる。


スタッフ:一日の始まりである、メインボーカルとの打ち合わせはどんな風?

フィリポ:大体、朝にリーダーがやって来て、細かい調整とか、色々な事を真剣に話して行くんですよ~。

スタッフ:(呟き)大体こんな感じなんですか??

バルトロマイ:(呟き)うん、そうだね、なう。ライブ前のリーダは、結構緊張しているから、なう。


下らない話でも快く引き受けるフィリポと、無口で優しく頷くバルトロマイ。メインボーカルにとって、彼らの存在はセラピストなのかもしれない。


次は舞台装置のセッティングが主な仕事のペテロとアンデレ。二人は元々は漁師だけあって体力が自慢だ。我ら「静脈大陸」のスタッフは二人に、こんな意地悪な質問をしてみた。


スタッフ:PAのフィリポとメインボーカルで毎朝行われる打ち合わせ、あれはどんな風に感じますか?

ペトロ:ああん?はっきり言って、大工とあいつらが何をダベっているのか全く分からない。

アンデレ:あの二人は、いっつも昭和マンガのマニアック談義ばっかりでね。


さて、ライブの準備を始める弟子達の中で、一際、異質の経歴を持つのがマタイとジェイコブの兄弟だ。兄のマタイは元税収人で、弟のジェイコブは元ホームレス。ここでも、メインボーカルは音響チェックである二人への気遣いは忘れない。


「マタイ、マイクの調子はどうよ?」

「おお、先生。今日は絶好調でっせ。だけど、この間のように観客へ投げ込まないでくださいね。ハウリングしてキーンって耳が響きましたから」

「結構、気分が乗っちゃうと、ついやっちまうんだな~」


スタッフ:ボーカルはマイクを投げるんですか?

マタイ:結構やりますよ~。元々声が野太い人だから、本当はマイクもいらないほどなんですけどね。


弟のジェイコブはギターの調律であるチューニングを担当。元ホームレスだった事も手伝って、敬語も使わず物怖じしない態度がキラリ光る。


「(ポロロローーーン)このアコギは、先生が自分で作ったの?いい音するね」

「ジェイコブ、実はそれ、粗大ごみに落ちてたギターを改良したのさ。名前も考えてある!」

「(ポロロローーーン)へぇ~、どんな名前?」

「あまりの格好良さに、驚くなよ~?『サイクロン・スーパーゼット・ベイベー』だ!」

「だっせぇ!キャハハハハ!なんだよ?その古臭ぇネーミング??」

「(赤面)ま、マジで!?」


さすがゆとり世代だけあって、相手がメインボーカルでも、小馬鹿な発言は大胆だ。


タダイとトマスは元結婚式のスタッフ。メインボーカルの衣装を担当している。ジェイコブに笑われたメインボーカルのよき理解者ともいえる。


「おう、元ヤン。赤いメイクなんかしてどうしたんだ?」

「。。。」

「違うよトマス。先生は顔が赤面しているんだよ」

「なんだ、そうだったのか。なんか恥ずかしい事でもあったのか?」

「トマスにタダイ。『サイクロン・スーパーゼット・ベイベー』ってネーミング、お前らなら、どう思う?」


お互いに顔を見合わせ話す二人だが、その結果は親指を突き出したグッジョブ。


スタッフ:なぜ、あのネーミングに親指を?

トマス:なんかプロレスの技みたいだからかな~。

タダイ:いやー、僕は90年代のJ-POPバンドのシングル曲かと思ったけど。


ライブ会場にある客席の安全性を確認するのは、もう一組の漁師兄弟ヨハネとヤコブである。彼ら二人の持つ知識はかなりディープで、さすがのメインボーカルも太刀打ちできないという。


「ヨハネ、先見性のある押井監督が手掛けた『攻殻機動隊 Ghost In The SHell』の中で、唯一、公衆電話の撤去が予見できなかったのは、興味深いと思わないか?」

「たしかにヤコブ。だが、電脳化されていない生身の人間が利用するツールとして、公衆電話からのハッキングを物語的に演出したとも捉えられないか?」

「でも、それならば携帯電話でもよかったんじゃないか?既に前作の『パトレイバー2』では、後藤隊長が携帯電話を利用していたし」

「携帯電話でのハッキングは、アクションの演出として弱いだろ。押井監督自身の都市理論に基づく、川を舞台にしたゴミ回収車の追想劇を演出するため、その必然性に公衆電話とゴミ回収場所を用意したとも言える」


スタッフ:あなたがたの話が、メインボーカルに理解されていると思いますか?

ヨハネ:まぁ、先生の映画論には原理主義的なものは無いので、それほど理解はされていないかもしれませんね。

ヤコブ:それでも先生の寛容的な姿勢が、僕らにこのような話をしても許されている状況下を作り出しているんです。


さて弟子の中でも、その長身と超ヘビー級の体重を生かし、コンサート業務を一手に引き受ける大柄な人物がいる。元熱心党でガリ・フェスの管理者でもあったシモンだ。地元のダフ屋や興行主にでさえ、物怖じしない強固な態度で交渉に臨んでいるという。


「おらおらおら!お魚兄弟ヨハネ、ヤコブ!ダベってないで、とっとと会場の準備始めろ!!」

「すいやせーん、シモンさん!」


スタッフ:貴方は、あのヤクザ・ローマ帝国を追い出すレジスタンス熱心党の元メンバーとの事ですが。何故、そちらの活動を辞めて、現在はこのメイン・ボーカルについてきているのですか?

シモン:師匠の「やっぱり世の中、愛だろう?」って言葉にグサっときたからですかねぇ。今の混沌とした時代で、誰もが自分勝手な事ばっかり述べているでしょう?政治も経済も、信用できなくなった事をいいことに、協調性と寛容性を失っているんですよ。でも師匠は、敢えてそれに挑んでいるんですよ。

スタッフ:もう、熱心党の活動はされていないのですか?

シモン:......。ノーコメントで。


さて、弟子の中でとても興味深い人物を紹介しよう。メインボーカルがライブを行う前の、オープニングアクトを務めるラッパーが、弟子の中で最も野心的なユダである。いつも来客した観客を温める立役者ともいえる。


ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!チキチキチキチキ、キュッキュウ!


「Yo! Yo! Yo! とにかくリアルな哲学聞きたい奴、黙ってブラザーの話を聞きやがれYo! ブラザーの哲学はリスペクト、だけどそれ以外はサスペクトYo! 確実な物なんてブラザー次第!全てを知るブラザーは真の実在!だからみんなブラザーをリスペクトしろYo!」


以前の彼はカリオテ村のギャング集団のリーダーで、ニュースクール哲学ラップを得意とするラッパーだった。その誰にも負けない自信とプライドを、たった一日で粉々にしたのが、ブラザーと呼んで止まないメインボーカルが繰り広げた、愛と希望のラップだったという。


スタッフ:ぶっちゃけ、その時はムカつきましたか?

ユダ:そりゃあムカつきましたよ。自分はこれで(MCで)天下獲るつもりでしたからね。

スタッフ:今は?

ユダ:ブラザーのオールドスクールの哲学ラップはファッキングレイトっす。ただ、イマイチ金と女に興味無いのが理解できなくて。


こんな多種多様で個性的な取り巻きに囲まれながら、最後に紹介するのは、今や人気急上昇中で、世界中へ高らかに愛を唄い続ける愛の伝道師である。彼はビッグなロック・スターを目指して邁進中だ。


「ハ~レルヤー♪ハ~レルヤー♪ハレルヤ!ハレルヤ!ハーレールーヤー♪」


スタッフ:どうしてファンの作った曲を唄っているんですか?

あんちゃん:こういった仕事って、ファンあってのものでしょ?だから僕は大切にしたいんですよ。


メインボーカルはライブ前に必ずこの曲を唄うと言う。そんな彼でも、ここまでの道のりは紆余曲折があったという。


「僕って結構ミーハーなんすよね。直ぐに影響受けちゃうっていうか。何というか、その気になりやすいのかな?でもね、一つ一つが積み重なっていくんですよ」


幼い頃はマイケル・ジャクソンのダンスをマスターしたと思ったら、次はMCハマーのラップと動きを全てマスターし、今度は哲学ラップに憧れて親から勘当されて家出。元ニートで大工だった彼が、世間という荒波の中で衝撃を受けたのが、あのパンキッシュで全国の罰当たりな少年達の心を鷲掴みにする、アニキ・ザ・ヨハネだったという。


「もう、無茶苦茶衝撃的でしたね。それまで、パンクのパンの字も知らなかったので。でも、ヨルダン川の汚い泥水ばっかり掛けさせるので、一回だけでいいやって思っちゃって。それで自分探しの旅にでたんですよ」


自分探しの四十日間で、彼は一気に体重が減ってダイエットに成功。バイトで始めたキャッチがかなり人気となり、今の取り巻きである弟子達と出会いを重ね、今日の注目される存在となっていったのだ。


「ライブは生モノでしょう?時には泥を投げつけられる時もあったし、ブーイングなんかありますよ。でもね、反応がないよりかマシですって。それでも注目されているんだから、僕は結構ハッピーで、頑張って唄っていこうってね」


時にはインドのライバルからスタイルの影響を受けて、座禅を組んだり、お香を焚いたりして精神統一も図ると言う。


スタッフ:宗派が全然違いますよね?

あんちゃん:彼はライバルっていうわけじゃないけど、時々文通する仲なんですよ。なかなか面白いやつでね。いつかどこかのフェスで、二人で競演したいものですね。


元ニートで大工だったメインボーカルは、今日も夕日に向かって汗と涙を流し、愛と平和をロック・ミュージックを通して訴え続け、ビッグな愛の伝道師になる事を目指してるのでした。


【静脈大陸ドキュメント!人気急上昇中!大工のあんちゃんと十ニ人のローディ達】


テッテ、テーレーレ~♪ テッテ、テーレレーレレ~♪(テーマ曲「静脈大陸」作曲馬鹿背太朗)


次回は混沌とした時代の中で、パンクの先駆者となった、アニキ・ザ・ヨハネの知られざる横顔に迫ります!お楽しみに~。


続く


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