第十四話
チーム・ユダス!
カリオテ村にある富豪のせがれユダを中心に、やりたい放題のギャング集団だ!その名は遠くサマリアのウェストゲートパークまで幅を利かせている。ユダは金アクセサリーをゴテゴテと着飾り、黒いニット帽に逆さサングラスで、ニュースクール哲学ラップを得意とし、口癖は「リスペクト」!
チーム・アンチャン!(さっき、とっさに決めたらしい)
ナザレ出身の大工のあんちゃんを中心とした、ガテン系の猛者共を集めた愛の伝道師集団!最強の反骨精神を持つアニキ・ザ・ヨハネにも認められ、ガリ・フェスでは神憑り的なブレイクダンスで、多くの罰当たりな小僧に愛を説いた!オールドスクール哲学ラップを得意とし、口癖は「やっぱりこの世は、愛だろ?」
「さぁ、チーム・ユダスのリーダと、チーム・アンチャンのリーダが両者互いに向かい合いました!!さぁ両者、握手を!」
大工のあんちゃんは不敵な笑みを浮かべながら、チャラチャラしたユダの格好を眺めています。しかし、ダボダボの服を着たユダはチンピラみたいに睨みつけ、中指を何度も出しまくってます。
「あんたが最近流行りのLuv TellerらしいけどYo! 今宵はあんたをビアッチみたいに殺しますんで、Yo!ろしく!」
「フッ。。。ボンボンの小僧が粋がりやがって。受けて立つぜ」
二人はボクサーみたいに互いの右拳を重ね合い、ついにフリースタイルの哲学ラップで相手をディスし合います。
ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!チキチキチキチキ、キュッキュウ!
ユダのニュースクール哲学ラップは、エミネムみたいに腰を低くし、右手は股間を握り、左手はマイクを斜めに構え、リズムに併せて踊り出すスタイル。そしてファーストショットをかまし始めました。
「Yo! Yo! Yo! とにかくリアルな哲学聞きたい奴、黙って俺の話を聞きやがれYo! イデア論を唱えたプラトンさんをリスペクト、だけどそれ以外はサスペクトYo! 事物によって規定される観念論!そしてそれに系譜に属する実在論!Yo! 分かっているのか?この世界は不完全な仮象の世界にすぎない!確実な物なんて自分次第!全てを知る俺、真の実在!だけどお前のライムは不在!だから俺にみんなはリスペクト しろYo!」
ユダの間髪いれず叩きつけるライムは、会場にいた多くのオーディエンスを圧倒させました。しかし両腕を組みながら頷くあんちゃんは、ニコニコしながらユダに応えます。
ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!チキチキチキチキ、キュッキュウ!
あんちゃんのオールドスクール哲学ラップは、あらゆる身体のバネを使って激しく踊り出し、それでも笑顔を絶やさず踊るスタイル。ファーストショットをかますあんちゃんは、MCハマーのようにとっても早口のライムでした。
「誰もがプラトン語る世の中、だけど最高ソクラテスはいつも心の中、たしかにイデア論はプラトンが唱えた、でも彼の師匠ソクラテスあっての事だ、Yo! 知らないことを知っていると言い張るよりmo! 知らないことを知らないと自覚すると賢くなるYo! ソクラテスさんはこう言ってるYo! "人智の価値は空無に過ぎず、自分の知恵を無価値と自覚できず" 相手をけなすだけで、何も生み出せないぜ!Yo! 物事決めつけずに、自分を偉大だと思わずに、毎日何故を繰り返し、常に自問自答し、Yo! 自他の知見と霊魂を善くして、可能な限り自分を信じて、知恵の探求者となれ、愛知者であれ、Yo! やっぱりこの世は、愛だろ?」
さすがオールドスクール哲学ラップ。攻撃的なニュースクールとは寛容の精神が違います。会場にいたオーディエンスは、一斉に大工のあんちゃんへと歓声を浴びせます。弟子達も初めて聞いたあんちゃんの哲学ラップに開口。特にトマスとペトロは目をまん丸にしてびっくりです。
「ペトロ!ナザレ三中の番を張ってたあの元ヤン、パンクの前に哲学ラップやってるって聞いてたけど、あんなに難しい言葉を早口でかましやがるなんて!信じられっか?」
「いやー、単なる大工でチェリーじゃねぇんだな。あいつはスーパーチェリーだ!」
二人は腕を組んで感心していると、いつも無口のバルトロマイが、リズムに合わせて踊っています。当然iPhoneで喜びをTwitterで呟いています。
「 (バルトロマイの呟き)リーダのライムYo! 相手をディスらず最高なう」
そうです、大工のあんちゃんには、端っから相手を貶す様なラップでは対抗しません。一気に会場の体温をあげたあんちゃんは、満面の笑みで両手を広げて観客に応えます。しかし、それを観ていたユダは部下に耳打ちをして何かを企み、青筋立て反撃を繰り返します。
ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!チキチキチキチキ、キュッキュウ!
「Yo! Yo! だけどお前のオールドスクール哲学ラップ、ギリシャ語オンリーのワォナビーだぜ、俺から見ればかっこ悪いぜ、母国語使ってみせようぜ、Yo! まるでソクラテスの嫁に怒られ頭に冷や水、まるで方向音痴な古代地図、そんな態度がたまに傷、Yo!お前はただのニセモン、善く考えりゃ作りモン、人気取りの単なるドザエモン!Yo! そんな屁理屈ローマ帝国に通用しないぜ、資本主義のヤクザ帝国に逆らえないぜ、Yo! 俺の選ぶ道は常に波乱、俺のリリックいつも騒乱、Yo! 起こすぜ革命、それが俺の使命!カリオテの奴らは骨無し、玉無し、 ここにいる連中怒り無し、根性無しYo! 誰も俺を止められないぜ、だから俺にみんなリスペクト Yo! Yo! Yo!」
するとチーム・ユダスの部下二人はナイフを振り回して、会場にいるカリオテの連中を脅迫し始めました。ユダに大歓声を浴びせなければ、カリオテ村ではユダはボンボンなので、観客も従わざるを得ません。それを見ていたペテロとトマスは、チーム・ユダスの汚いやり方に怒り心頭でした。
「なんだ!あいつら!?卑怯な手を使いやがって!これじゃ、イカサマじゃんか!」
「くっそう!ペテロ、これじゃ元ヤンが不利になっちまうぜ!」
「どうすんだよ、おい!大工!?」
しかしさすが大工のあんちゃんです。弟子達に落ち着けと説き伏せ、目を閉じて天を仰ぎ、今度は哲学ラップではなく、自分スタイルのラップを披露し始めました。
ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!ズン!ドッコ!チキチキチキチキ、キュッキュウ!
「人間同士はもともと友達だ、だれであろうと愛し合うのが当然だ!Yo! それが実現するとき、人間同士は身内になれるとき! 金や暴力で人を動かせたとしてもさ、人の心は決して動かせないのさ!確かにローマ帝国の支配に誰もが不安、だけど僕らが望むのものはずっと続く平安、Yo! だからみんなで手を取り合ってさ、心から笑ってさ、楽しいと感じてさ、人を憎むだけじゃ辛いだけだしさ、人を妬むだけじゃ寂しいだけだしさ、だから自分も見つめてさ、相手もちゃんと見つめてさ、一人ぼっちじゃないんだからさ、さぁさぁ心開いてさ、あんたの辛さも寂しさも僕のものさ、僕の楽しさも嬉しさも喜びもみんなあんたのものさ、だから独りぼっちで一人占めなんかしちゃだめなのさ、その握った拳は人を殴る為にあるんじゃなくてさ、手を広げて握手する為にあるのさ!! Yo! Yo! Yo!」
愛と希望に満ち溢れた素晴らしいリリックとライムは、脅されていた観客の心を鷲掴みにしました。まさに哲学ラップならぬ愛と希望の魂ラップ。大歓声の前にカリオテのボンボン三人が太刀打ちできるものではありません。終いにはユダの部下さえも感動して泣き崩れます。
「ジェイコブ、やっぱりすごいよ!あの大工のあんちゃんは!」
「本当だね、マタイ兄ちゃん。僕、ついてきて本当によかったよ!」
あんちゃんへ向けられた、空が割れんばかりの歓声がカリオテの村を轟くと、既に誰の目から見てもこの勝負は大工のあんちゃんの勝利と確信していました。
「今宵の勝者は。。。」
みんなは固唾をのんで見守っています。
「チーム・ユダスのユダ!!!」
?!?!?どよどよ。
どうやらユダは、金持ちのせがれという立場で不正を働いたのです。会場は一気に水を引いたように静まり返ってしまいました。自分の実力で勝ったように振る舞うユダ。大工のあんちゃんも所持金奪われてしまい、弟子達はもちろん会場にいた観客達は野次を飛ばし始めます。
「ブーブー!インチキ!!!」
「ふざけるな!カリオテの村の連中には、正義ってものがねぇのか!?」
「(呟き)バルトロマイ@ チーム・ユダスはファッキン不正シット!」
「おい、大工。お前もなんか言ったらどうなんだ?悔しくないのかよ?!」
しかし、そんな会場の喧騒に対し、あんちゃんは実に自信に溢れた笑顔で応えます。
「フッ、ペテロ、気にするな。自分を高くする奴は低くされ、自分を低くする奴は高くされるものだよ」
???弟子達はあんちゃんの言っている意味が分かりませんでした。あんちゃんは口笛を吹きながら、ヒョウヒョウとその場を去っていきます。するとすれ違い様に、さっきの金魚すくいにいた店の親父が、猛烈に怒った様子でドコドコとステージに乗り出してきました。
ガコン!!
「いってーーーー!何すんだクソジジ!」
「こんのバカ息子!今日という今日は、もう許さんぞ!」
なんと!ユダの頭にゲンコツを一発お見舞したさっきのは、金魚すくいの親父で、しかもユダの父親だったのです。
「と、とうちゃん!?なんで金魚すくいなんかの格好をしてんだよ!?」
「村中からお前の悪い噂をかき集める為にな、わざわざ変装して調査してみればこれだ!この恥知らずが!」
親父からフルボッコにされるユダ。顔じゅうボコボコに腫れたまま、カリオテの村人に平謝りさせられ、ステージの上で丸刈りにされた後、チーム・ユダスが今まで奪った挑戦者の所持金も当然返されたのです。
「すげー。。。先生の言った言葉通りになったぞ!」
「なんて、ミラクルな大工先生なんだ!」
さて、すっかり日が暮れて、夜になった後。繁盛している金魚すくいの店を遠くから眺める大工のあんちゃん。その姿に気がついたユダの親父は、麦わら帽子を脱いで、優しそうな笑顔でお辞儀をしてお礼をしています。
「あんちゃん。ほれ、約束の金魚すくい」
「おお、親父。覚えててくれたんだ、ありがとよ~」
「礼を言うのはこっちのセリフだって」
金魚すくいを満喫した後、ビニールの中に二十匹も入れてもらったあんちゃん。すると物陰から一人の男が立ちはだかります。鋭い眼光で睨みつける、丸刈りにされたユダでした。
「あんた、俺の親父とグルだったのかよ?!」
「さーな。今日の事は今日で、明日の事は明日さ」
ユダはあんちゃんを怖い顔で睨みつけますが、ニコっと笑った大工のあんちゃんが、ユダの両肩に両手を乗せました。
「けどよ、お前のニュースクール哲学ラップ、なかなかスリリングで楽しかったぜ」
「はぁ、ええ?」
「だが、今度は暴力的な言葉で俺を負かすんじゃなくて、お前の良心的な心で世界中の愛を掴んでみるんだな」
「な、何を恥ずかしい事を!堂々と言ってるんだ、こいつ!?」
「そうか?俺は全然恥ずかしくねェぞ。お前は堂々と恥ずかしい事を言える俺の事が羨ましいだけなんだろ?」
ユダはびっくりして目をまん丸にしてます。それでもあんちゃんはニコニコと満面の笑みで応えます。
「俺の言っている意味がわからないだろ?ユダ」
「ああ!そ、そんなの全くわかんねぇよ!」
「だったら俺達について来い。そしたらいずれ分かるし、きっと楽しいぜぇ!Yo! 」
全くユダの完敗でした。
大工のあんちゃんは端っからバトルでの勝ち負けなど気にしておらず、ただ単に、ユダとラップ・バトルをしたかっただけなのです。あんちゃんに肩を抱かれながらも、照れくさそうにしているユダ。二人は仲良く宿へ戻っていきます。
こうしてイスカリオテのユダは、十二人目の弟子として仲間になったのでした。
続く




