第百十三話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
「それじゃ、俺はちょっくら行ってくるぜ」
あんちゃんは弟子達にそう言って、立ち去ろうとします。しかし一番弟子のペテロとトマスがすかさず止めに入りました。
「行ってくるって、どこに行く気なんだ?元大工」
「そうだぜ、元ヤン。世界の果てまでイッテQのイモトじゃねーんだからよ」
しかしあんちゃん微笑みを返すだけで、何も答えません。
「ユダに付けられた傷だって、まだ癒えてないだろーが、元大工」
「ペテロの言う通りだぜ、元ヤン。フラついてんじゃんか」
すると真剣な眼差しで、あんちゃんは2人に呟きます。
「そんなに心配なら、俺について来いよ」
ペテロとトマスは顔を見合わせます。あんちゃんは微笑んだまま、扉を開けて行ってしまいました。不安になった2人は、あんちゃんを追いかけました。
「おい!元大工。待てったら!」
「まさか自首すんじゃねーだろうな?元ヤン!」
「いいや。オリーブ山のゲツセマネ園で、あいつと最後の決着をつけるだけだ」
一方、ユダはローマ軍の百人隊長ロンギヌスとその部下カッシウスに、あんちゃんのいる場所を案内しています。
「あのインチキ大工野郎は、この先の宿にいるぜ」
「それは本当なのだろうな?ユダ!」
「ああもちろんだ!あいつの頭を殴ってやったんだ。今頃出血多量で伸びてるだろうよ!」
「分かった。カッシウス!後ろの編隊を前に歩かせ、ユダヤの兵に援護させろ!」
「ロンギヌス大隊長!了解しました!」
カッシウスは右手で隊列を組む合図を送り、先頭を剛力なマルコスに任せます。
「全隊!行進をマルコスに合わせよ!」
ザッザッザッザ!ザッザッザッザ!
続いてカッシウスは、ユダヤ兵にも援護の合図を送ります。
「ユダヤの兵ども!マルコスを援護せよ!」
ザッザッザッザ!ザッザッザッザ!
ユダヤ兵達も、神を愚弄するあんちゃんを捕まえようと、鼻息が荒くなっていました。
「ペテロ、トマス。そこのオリーブの木で待ってろ」
ゲツセマネ園に着いたあんちゃんは、2人に優しく指示をします。しかし意味が分からない2人は、またもやあんちゃんに質問攻め。
「一体、こんな真夜中のオリーブ園で、何しに行くんだ?元大工」
「まさか、元ヤン。今更神頼みかよ?」
するとあんちゃんは微笑んだまま、厳しい言葉を投げかけます。
「知りたければ、ずっと起きてる事だな。遠くからでも見えるだろう」
「?!」
そう言うと、あんちゃん2人の視線を背中に感じたまま、ゲツセマネ園に姿を消して行きます。見送った2人はしばらく立ってましたが、我慢出来ずにオリーブ木のそばに腰掛けました。
「ロボス、待たせたな」
そこには長い黒衣を着たロボスが、あんちゃんに背中を見せたまま立っていました。
「お前も懲りない奴だね?大工よ」
「フッ、こんなに素晴らしい能力を与えてくれたんだ。せめて感謝の一言くらい、言わせて欲しいものだな」
「ほう?悪意が聞こえる能力の素晴らしさに、ようやく気が付いたという訳か」
「いいや、これは『本音』が聞こえる能力だったのさ、ロボスさんよ」
ようやく振り向いたロボスは、頭に傷を負ったあんちゃんに気が付きます。
「怪我を負わされたのに、まだ『本音』だと?」
「ああ。これは『本音』だ。本心を奏でる音だ」
バタン!!
マルコスは意表を突くように、あんちゃん達がいた宿の扉を開けます。しかしそこには誰も居ませんでした。マルコス率いるローマ軍の連中は至る所を調べますが、もはや逃げられた様子が伺えます。
「カッシウス様!中はもぬけの殻です!」
「分かった。ロンギヌス大隊長!大工は見当たりません!」
ロンギヌスは恐ろしい形相で、ユダを睨みつけると、ユダは脂汗を流して焦ります。
「貴様!騙したな?!」
「違う!確かにさっきここに居たんだ!」
「何処にも居ないではないか!」
「そうだ!ゲツセマネ園だ!」
「何だと?!」
「インチキ大工野郎は、毎晩、ゲツセマネ園で誰かと話すのが日課だったんだ!」
「もしそこにも大工が居なかったら!そこが貴様の墓場になると思え!」
ロボスは右手をあんちゃんの頭にかざし、ユダに負わされた傷を治しました。
「フフ、今のはボーナスかい?ロボス」
「いいや、ユダの罪悪感を取り除いただけだ」
「相変わらず、意地悪な神様だ」
するとあんちゃんは左手首をロボスに見せます。そこには刃物で切り裂いた跡がありました。
「あんちゃんさん?!その傷は?!」
「昔のリスカさ。誰にも言えなかった、唯一の傷。これがあったから、俺は今まで生きてこれたんだ。だって、死ぬのがめっちゃくちゃ怖くなっちまったんだからよぉお!」
「あんちゃんさん。。。」
「でも!殺されるのはもっと怖いんだ!」
他人の本音に触れたことで、あんちゃんは遂に、自分の『本音』を心から語ることができたのです。
「俺は、俺はどうしたらいいんだよ!?」
続く




