第百十二話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
ユダは泣きじゃくって詫びるあんちゃんが怖くなりました。
「もういいって!ブラザ!」
「いや、謝らせてくれ。俺さえいなければ、お前はもっと素直に。。。」
「うるせぇ!!!!」
ガシャン!
ユダはあんちゃんの手を払いのけました。赤ワインがべっとり、あんちゃんに掛かってます。しかしあんちゃんは微笑んでます。
「おめー!気持ち悪いんだよ!」
怒らないあんちゃんに苛立ったユダは、酔った勢いで近くにあったグラスワインであんちゃんの頭を殴りつけたのです!
「分かってたのに見て見ぬ振りしてただと?!ふざけんなYO!だったら何で怒らねーんだYO!普通怒るだろうが!」
あんちゃんの頭から血が吹き出してきました。さすがにやり過ぎのユダを、ペテロとトマスは止めます。
「ユダ!てめえ何やってるんだ?!」
「元ヤンも、今のは避けられただろーが!!」
「うるせぇ!離せ!ペテロ!トマス!」
しかし、ユダのあんちゃんに対する怒りは収まりません。流血する頭を抑えるあんちゃんも、決してユダから目を離さず、再び微笑みました。
「ユダ、お前は俺を許さなくてもいい。でも俺は、お前を許すとか許さないとかじゃないんだ」
「神も悪魔もいねぇーってか?!ふざけんな!大体、そういうところがムカつくんだYO!かかって来いや!腑抜け野郎!てめえーだけは許さねぇーからな!」
結局、ユダはトマスとペテロにボコボコにされる前に、とっととその場を去ってしまいました。それでもあんちゃんは微笑んでいるだけです。弟子達は必死に、流血するあんちゃんの頭を手当します。
「ありがとう、みんな」
でも、その時でさえ、ロボスの与えた力が、手当をしてくれる弟子の悪意を聞かせ続けていました。
"全くバカじゃねーか、こいつ"
"きっとナルシストなんだよ"
"血も滴る好い男とか思ってさ"
"所詮はチェリーで中二病"
"みんなに迷惑掛けてるのを、喜んでるのさ"
あんちゃんは目を閉じて、聞こえてくる仲間達の悪意を、必死に受け止めようとしています。
「大丈夫だ、みんな。席に着いてくれ。伝えたい事がまだあるんだ」
頭を抑えるあんちゃんは、決して微笑みを絶やさないよう努めていました。さて、最後の晩餐から去ったユダは、その足でカヤパのいる宮殿に向かいます。
ドーーーーーーン!!
重たい扉を怒りのまま開くユダは、開口一番、とんでもないことを訴えました!
「カヤパ様、あのインチキ大工野郎をとっ捕まえちまいましょう!」
「なんザマスと?!」
「この世であんなにムカつくインチキ大工野郎はいねぇ!あいつは神も悪魔もいないって言ったんだ!」
このユダの言葉に、カヤパの心は強く突き動かされました。そして懐からデナリウス銀貨30枚を取り出し、ユダに投げつけたのです!
「ユダの言う通りザマス!あの大工をひっ捉えるザマス!」
地面に散らばったデナリウス銀貨を一枚一枚数えるユダ。
「28、29、30枚っと。確かに貰ったぜ!見ていろ!インチキ大工野郎!」
こうしてユダは、ローマ軍とユダヤ兵を、あんちゃんのいる場所へ連れて行くことになりました。
「お前達よ、ユダを仲間として見守ってくれ」
「?!」
もはやあんちゃんの言葉に、弟子達は驚きの連続。トマスやペテロは溜息とイラつきを隠せません。
「いい加減にしろよ、元ヤン!あんな卑怯者を何だってそんなに庇うんだ?!」
「そうだ!元大工!あいつはお前を殺そうと頭まで殴りつけたじゃないか?!」
「だが、ユダほど正直な奴はいない」
あんちゃんの真剣な眼差しは、本音を躊躇していた弟子達を閉口させるに十分です。
「お前達は自分の本意に気が付かないままでいる。でも、ユダは本音で俺にぶつかってきた。誰よりも自分の想いを曝け出したんだ」
そしてあんちゃんは目の前にあるパンを、一欠きれずつ千切りました。
「お前達には、人類は皆兄弟であり姉妹であり、一つの家族である事を忘れないで欲しい。俺のように知らない振りをする男もいれば、ユダのように知ってる振りをしない男がいるように」
千切ったパンを、弟子達に配り始めます。もちろん、ユダが座っていた場所にも。次に、葡萄酒をみんなに注ぎ始めました。
「そして、こうやってパンやワインを飲む時、少しでもいいから、俺の言った言葉を思い出してくれ。夕食の時ぐらい、愉しい時間を過ごしたいじゃないか」
するとあんちゃんの耳に、トマスの本音が飛び込んできました。
「なーに格好つけてるんだよ?元ヤン。司会アルバイトした時には、ワイン飲みすぎてゲロ吐いたくせによ!」
今度はペテロの本音が、あんちゃんの耳に飛び込んできました。
「ああそうだったな。反省したとか言って、丸坊主のズラ被って誤魔化してやがったしな!」
次はマタイの本音が飛び込んできます。
「大体、このプータローは、無職のくせによ、俺を引きこもりって罵倒したと思ったら、チェリーって言われて怒ってやがったんだ!」
みんなみんな弟子達が、次々と自分の心の壁を壊して、笑いながらあんちゃんを罵倒し始めたのです。楽しかった時期を思い出すように、隔てていた年齢や立場という垣根を飛び越えて、みんな目尻に涙を堪えながら。そんな弟子達に囲まれ、あんちゃんは本気で嬉しくて嬉しくて泣きじゃくり。
「ううう、お前ら最高だぜ!ベイベー!」
この世に悪意も善意もない事を、あんちゃんは改めて、この最後の晩餐で気が付いたのでした。
続く




