第百十一話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
「みんな、待ってくれていたのか?」
すっかり晩餐で飲んだっくれていたと思ってた弟子達は、実はあんちゃんが戻ってくるまで飲まず食わずで待っていたのです。
「よっこいしょっと!」
あんちゃんは懸命に陽気な姿を振る舞い、テーブルの真ん中に腰を下ろし、弟子達に囲まれました。あんちゃんの姿はまるで一か月も断食をしたように、その頬は痩せこけていました。けれど優しい眼差しは消えることなく、妙な落ち着きを持った表情です。
「ありがとう、みんな」
あんちゃんの感謝の言葉に、彼らは一言も発することはできませんが、されど彼らはゆっくりと一人一人頷きました。スパイに来ていたユダでさえ、普段の陽気なあんちゃんとはすっかり変わった姿に、言葉を失っていました。
「お前達にはすっかり迷惑を掛けちまって、本当にすまなかった」
あんちゃんの優しい眼差しが、誰も何も語る事が出来ません。
「今夜がきっと、お前達との最後の晩餐会になるだろう」
12人の弟子全員が動揺しました。さっきまで弟子達には安心しろっと言ってたからです。互いに小声で話し出す弟子達。それによって、あんちゃんの耳元には彼らの痛烈な悪意が耳へと飛び込んできます。しかしあんちゃんは目を閉じ、川の流れに身を任せるように冷静さを保ちました。そして弟子一人一人へ、あんちゃんは優しく言葉を投げかけていきます。もちろん彼らの悪意の言葉を耳にしながら。
アンデレの悪意が木霊します。
"ローマ軍に先生が捕まるくらいなら、僕はすぐに逃げるさ!"
「アンデレ」
「やっと名前を呼んでくれましたね」
「ああ、今まですまなかった。お前の名前が大切なように、自分の身体を大切にするんだぞ」
「はい、先生!」
次はヤコブの悪意が木霊します。
"結局、屁理屈大魔王の先生でも、ローマ軍には敵わないのさ"
「ヤコブ」
「先生」
「お前が議論する見方は、これからきっと役に立つはずだ」
「ありがとうございます!」
ヨハネの悪意が悪意が木霊します。
"一度でいいから、屁理屈大魔王の先生を負かせてやりたかった!"
「ヨハネ」
「先生」
「陰で支えてくれた、お前の助力に感謝しているぞ」
「はい!」
バルトロマイの悪意が木霊します。
"童貞のくせにリア充で口達者なんて、むかつくぜ!"
「バルトロマイ」
「(呟き)リーダー」
「心に思った言葉を、そのまま伝えるんだ」
バルトロマイは涙ぐみながら、この時初めてTwitterを捨てました。そして親指を立ててあんちゃんに応えます。
「分かったぜ!!リーダー!」
「ったく、生意気だけどその意気だ!」
フィリポの悪意が木霊します。
"自分がいつも正しいと思ってる先生なんて、大っきらいだ!"
「フィリポ」
「はい、リーダー」
「知らない世界を教えてくれたお前に、俺は心から感謝しているよ」
「うん!」
「本当にさっきは悪かったな」
「いいって!」
マタイの悪意が木霊します。
"やっぱりローマ軍に頭突きなんかするから、このチェリーは捕まるんだ"
「マタイ」
「はい、先生」
「きっといつか、お前は俺よりも、人類の愛ってやつを徴収できるはずだ」
「ああ、あんたには負けないさ」
「うん」
「ひきこもりの俺を救ってくれて、本当に感謝している」
ジェイコブの悪意が木霊します。
"ゆとり世代ってバカにしやがって。ぜってーゆるさねぇ!"
「ジェイコブ」
「先生」
「お前のその素直な感情が、きっと人々を幸せにしてくれるはずさ」
「言われなくたって、分かってるよ」
シモンの悪意が木霊します。
"ローマ帝国に武器で対抗しないから、結局負けたんだ"
「シモン」
「先生」
「その強靭な肉体は、弱き人々を支える為にあるんだな」
タダイの悪意が木霊します。
"所詮は元ヤンキーで族長でも、ヤクザ・ローマ帝国には敵わないんだよな"
「タダイ」
「先輩」
「強さを求めるなら、弱き自分を恥じぬことだ」
「あ、はい」
トマスの悪意が木霊します。
"人を信用し過ぎるから、騙されるんだよ"
「トマス」
「元ヤン」
「きっとお前は信じる心に憧れる。その時に、素直でいるんだぞ」
「ああ。誰よりもな」
そして、一番弟子ペテロの悪意が木霊します。
"こいつが捕まったら、どんな事があっても逃げてやるぞ"
「ペテロ」
「元大工」
「お前の頑固岩のような性格こそが、皆の礎となっていくだろう」
しかし、ペテロはあんちゃんの言葉に首を横に振ります。
「もういい加減、理想を語って誤魔化すな。お前は誰よりも、真実が分かるんだろう?」
「いいや、ペテロ。分かるのは現実という事実の中での理想だけだ」
「意味が分からねぇ!」
「なら、分かりやすい言葉で伝えよう」
するとあんちゃんはキリッと目を鋭くさせ、ペテロを射抜くように睨んだ。
「"鶏が鳴き始めるまで、逮捕されたこの俺を、お前は三度、知らないと否定するだろう!"」
「な、何だそれ?!俺がそんなみっともない事するか?!」
「"そして深く後悔して、泣き出すであろう"」
「俺は一度だって、そんな女の腐ったような事なんかしネェ!」
ペテロは最後まであんちゃんの予言を否定してますが、射抜くようにペテロを見つめるあんちゃんは、それ以上答えませんでした。
ようやく、弟のようなユダの悪意が木霊します
"この場所をカヤパに教えて、デナリウス銀ローマ硬貨30枚貰って、しばらくトンズラだぜ!"
「ユダよ」
「ブラザ」
ようやく、弟のようなユダの悪意が木霊します。
"こいつがいなけりゃ、俺が人気者になれたんだ!今度こそなってやる!"
「ああ、ユダよ」
「ブラザYO!」
「本当はお前が今まで、影で何をしていたか知っていたんだ。。。」
「ブ、ブラザー?な、何言ってるんだよ!」
「だから今度こそ、お前自身が一番になるために、俺を蹴落としてでも、自分の信じている成すべき事をやり遂げるんだ!」
あんちゃんはボロボロと涙を流しながら、ユダの両手を取って詫び始めたのです。
「ブラザー!!!」
「ユダ、本当にごめんな!すまなかった!」
続く




