第百十話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
気が付くとロボスはあんちゃんの目の前から消えていました。まるで今までの事が幻想だったかのように。でも、瞳に感じるその痛みは消えません。
「ううう、ロボス。な、何故だ?何故、こんな事を俺にするんだ!?」
暫くしていると、心配になったフィリポがあんちゃんのところへやってきます。
「先生?突然いなくなってどうしたの?」
あんちゃんはフィリポの顔を眺めると、あんちゃんの耳元には何かの囁きが聞こえてきました。
"ったく!こいつはいつも自分勝手で、人が心配してアゲてるのによ!!"
「フィリポ!どういう事だ?!」
「へ?」
「お前になんか、心配されなくても構わないんだ!」
「せ、先生?!」
"なんなんだよ、こいつ。ちょっと人気者だからって調子乗りやがって"
そうです。さっきロボスから与えられたエネルギーによって、まるで幻聴のように無意識の中に潜んでいる他人の悪意が、全てあんちゃんが聞けるようになってしまったのです。
「フィリポ!お前もか!?」
「え?何のこと?」
「お前もそんな風に!俺を思っていたのか!?」
その様子を陰で眺めていたロボスは、悲しみの涙を浮かべながらあんちゃんを嘲笑していました。
「クククク。。。お前が悪いだ。人の闇に憐れみを持った、お前が悪いんだぜ?大工よ」
あんちゃんは何かに呪われたように、フィリポを突き飛ばして苦しんでます。さすがに暴れているあんちゃんには、フィリポもショックを隠しきれません。
「先生!どうして僕にまで邪険に扱うんだよ!?」
"ざまーみろ!苦しめ!もっと苦しむんだ!この目立ちたがり屋が!"
「うるさい!黙れ!お前の声なんか聞きたくないんだ!」
フィリポの善意の声を遮る悪意の声が、あんちゃんますます苦しめてしまいます。その様子を見ているロボスは、ついに頬に涙を流し始めます。
「苦しいだろ?俺達もそうだったんだ。あんたに自分の闇を光に照らされる度に、辛くて憎くて苦しくて、でも、嬉しくて素直になれなくて苦しかったんだ!」
情にもろくなった自分を戒めるかのように、ロボスは流れる涙を拭き去ります。そして再びあんちゃんに憎しみを煮えたぎらせます。
「悪意が聞こえるその力は、あのローマ独裁官だったシーザーにも与えたんだ。ブルータスに裏切られたシーザーのように、お前も仲間に裏切られるがいいさ」
そしてロボスはその場を立ち去りました。床に膝をつけて耳を塞いで悪態をつくあんちゃんに対し、フィリポは我慢できなくなって泣き叫んだのです。
「グスっ!そんな先生なんて、そんな先生なんて!僕は大っ嫌いだーーーー!」
ズキーーーーン!
まるで心臓を引き裂くような心の叫びに、苦しんでいたあんちゃんは目を見開きました!そして何かを悟ったように自分の痛みをぐっと堪え、懸命に立ちあがったのです。フィリポはそんなあんちゃんに、鼻水も涙も流しながらびっくりしています。一度目を閉じて、そして再び瞳を開けると、あんちゃんは優しい眼差しでフィリポにハグをしたのです。
「フィリポ、今まで、本当にすまなかった」
「せ、先生!?」
「全ては俺が悪かったんだ。許してくれ」
「先生!!!!!」
フィリポはあんちゃんの優しさに耐えきれず、にハグされたまま子犬のように泣き始めたのです。
「もう大丈夫だ、フィリポ。お前も俺も独りじゃない」
「うん!そうだよね!」
「辛いことも楽しい事も、光も闇も全部ひっくるめて、人類皆兄弟さ」
本当は今でも、あんちゃんの耳元には多くの悪意が聞こえています。でもそれは、誰の心の中にもあるものと悟ったのです。そして苦しみに耐えながら、一歩を踏み出すことにしたのです。
「さぁ、行こう」
「うん!先生!」
そう、愛すべき弟子達と最後の晩餐を迎える為に。。。
続く




