第十一話
さて、パンキッシュなアニキに、その中途半端な方向性を非難された大工のあんちゃん。今日はめちゃくちゃ真面目な顔をして、弟子達を集めました。
「みんな、今日は俺の、今後の音楽の方向性について、お前達に伝えたい事があるんだ」
「なんだ?なんだ?」
元漁師四人組、元引きこもり二人、元ローマ税金徴収者一人、元結婚式関係者二人、元フェスの管理者で熱心党一人、そして浮浪者の真似が得意で元ニートが一人と。大工のあんちゃんも、ついに十一人の弟子を持つまでに至りました。
「先日、パンクの最先端を突き進んでるアニキから、『お前の音楽にはスタイルが無い』とか、『愛は腹空かした子供達を救えるのか?』と言われちまった。正直ショックだった」
弟子達も、大工のあんちゃんによってあれだけ盛り上がったガリ・フェスの後だけに、あんちゃんの方向性に一抹の不安も抱えていた。
「俺は悩んだ。海よりも深く、山よりも高く、空よりも広く、そしてiPhoneよりも滑らかに悩んだ。悩み続けていたら、十二指腸潰瘍になるんじゃないかってくらいに悩んだ」
ちょっと大袈裟なクセに真面目ぶってる大工のあんちゃんを、弟子達は小さくクスクスと笑ってます。
「だがな、やっぱり世の中は愛が大切なんだよ、愛。それを失ったら、結局それでお終いだと思わねぇか?」
弟子達もお互いを見つめ合いながら、色々と話してる。そして先ずペテロが質問する。
「それじゃ、大工。あんたはアニキみたいに、ユダヤ王国やヤクザ・ローマ帝国に中指おっ立てて、攻撃的なパンキッシュはしないのか?」
「ああ。叫んで奪うだけじゃダメだ。ローマ帝国を追い出した所で、その後はどうするんだ?」
「その後?うーん」
「ああ、ヤクザを追い出した所で、他のヤクザがやってくれば、また、繰り返しだ」
ペテロはそれ以上何も言えなくなりました。するとペテロの弟のアンデレが質問しました。
「それじゃ、先生はこれから、草吸って無抵抗で世界平和を叫ぶレゲエが、これからの音楽の方向性なんですか?」
「あははは、キンデレ。汚らしさは似ているかもしれないが、ボブ・マーリーは目指さないぞ」
「(小声)僕はアンデレだって。。。」
「俺の音楽性は、そうだな~。ロックだ!ロック・ミュージックでビッグな愛の伝道師になるんだ」
するとマタイが手を挙げて質問してきます。
「しかし、先生。愛も大切ですが、やっぱりアニキの言うとおり、愛だけでは空腹には勝てません」
「マタイ。どんなに腹一杯食べても、また、お腹が空くだろう?そうやって同じ繰り返しをしながら、一番肝心な事に飢えているのに、見て見ぬ振りをかましてねぇか?」
弟子達は、大工のあんちゃんの言っている言葉に???でした。
「よっし、分かりやすく例えて説明してやるぜ。いいか?ここに乾電池が一個あるとする。使わなきゃ勿体無いよな?」
弟子達はあんちゃんの意見に、素直に頷いて返事しました。
「つまりな、お前達はまだ使われてない乾電池なんだ。それを世界中で使ってみろ!みんなで悟空に元気玉を集めて渡せるぞ!」
自分の意見にワクワクしているあんちゃんですが、弟子達はあんちゃんの意見に更に???でサッパリ分かってません。タダイが手を挙げ質問します。
「あの~、先生?僕達が乾電池で愛との繋がりが、よく分からないんですが。。。」
「つまりな、タダイ。俺たちは愛っていう無限の電力パワーを秘めた、乾電池みたいなもんなんだ」
しかし今度はシモンが一つ投げかけます。
「師匠、俺たちが愛っていう無限のパワーを秘めた乾電池だって事は分かりましたが、それでどうやってヤクザ・ローマ帝国を追い出したり、飢えをしのぐ事ができるんすか?」
さすがの質問攻めをしてくる弟子に、ため息をついて呆れる大工のあんちゃん。
「いいか?シモン。お前達はやってもらうことか、奪う事ばっかりしか考えていない。そんなんじゃ、使い途を無くした乾電池は腐ってしまうだろうが」
「でも~。具体的な方法が無いと、分かりませんよ」
「ったく、お前らは頭が悪いんだから。。。」
知りたがる弟子達に対し、仕方なく、黒板を取り出して説明するあんちゃん。
「いいか?これは『愛の方程式』だ、よーく覚えておけ。次の中間テストで出るぞ。一人の人が三人の人に親切な事をする。そして、その三人には必ず同じ親切を別の三人にするよう約束させる。はい、フィリポ、この後は合計何人が幸せになったことになる?」
フィリポは、あんちゃんが黒板に書いた図を見ながら考えてる。
「えっと、一人が三人で、三人がそれぞれに三人だから、合計十三人です」
「正解。自分にして欲しい事があったら、先ず自分から他人にやってみせて、それをこの『愛の方程式』を使ってどんどん繰り返していけば、いずれ自分に返ってくるのさ」
おおお、そういうことか!っと弟子達は一同感心して、大工のあんちゃんに拍手します。しかし疑い深いトマスは、腕を組みながら疑問を投げかけます。
「でもよ、元ヤン。それって、ようはねずみ講の類だろ?相手がやってくれるかどうかなんて、分からねぇじゃんか」
確かにトマスの意見を聞いて、今度は掌返すようにうんうん頷く弟子達。
「しょうがねぇな、トマス。例をあげてやる。いいか?ある時、満員電車で、腰の悪い婆さんが立ってたとする。すぐ近くで席に座ってた会社員は、自分は始発駅から座ってたからと席を譲らなかった。もう一人の会社員も、さっきやっと席に座れたのだからと席を譲らなかった。しかし、始発駅からずっと座っていたガン黒のコギャルは、直ぐに婆さんへ席を譲ったという」
弟子達は口をポカーンとして、あんちゃんの話を聞いてる。
「この時、一番親切な事をしたのは誰だ?タダイ」
「そりゃ、先生。誰が見たってガン黒のコギャルです」
「だよな?だったらお前達もコギャルと同じように、誰かに何かを譲ってあげればいいんじゃないか?簡単な事だろ」
その話を聞いた弟子達は、猛烈に感動して号泣していました。特に疑い深いトマスは、あんちゃんの語る例えの分かりやすさに、衝撃を受けていました。弟子達から拍手喝采!
「先生、ようやく分かりました!やっぱり世の中は愛ですね?」
「その通りよ!パンキッシュなアニキ達は斧だけど、俺たちは愛を武器にロックするのさ!」
「格好いい!!!奴らとは格が違いますね?先生」
「あったり前よ!『月とタンポン』くらい違うぜ!ガッハハハハ~」
だが、弟子達一同は、シラ~っとしている。
「せ、先生。それを言うなら、『月とスッポン』でしょ?」
「あ?!あああ!そうだった」
続く




