第百九話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
白々しく去ったくせに、あんちゃんはドヤ顔で戻ってきました。
「どうやらゴルゴタの丘で行われた磔刑は、サドカイ連中が仕掛けた罠だったようだ」
「マジで?!先生?!」
「ああ!さっきのニコデモ爺さんが噂の真相を教えてくれたんだ」
「良かった!!!それじゃ、ローマ軍に僕達も狙われない?」
「ああ、全くもって狙われないぞ、ランデレ」
「もう!アンデレだって!いつになったら僕の名前を覚えてくれるのさ?」
「あっははは、わりーわりー」
スッカリいつもの陽気な性格を取り戻したあんちゃんは、弟子達の不安を取り除いてます。トマスを除いて。
「しかし、ファリサイ派の最高司祭なんだろ?そのニコデモって爺さんは。信用できるのか?元ヤン」
「ったく、お前は本当に疑い深い奴だな?トマス。ぜーんぶ、俺をおびき寄せる罠みたいらしいんだわ」
弟子達はそれを聞いて一安心。さらに陽気ないつものあんちゃんに満足しています。
「ちゅー事でだな?まぁ、明日からもみんなで張り切って愛のライブをエルサレムで開催すべく、今夜は晩餐会と行こうじゃないのさ!」
いえーーっぃ!久々の晩餐会に、弟子達は喜びを隠しきれません。あんちゃんのマリア母ちゃんも、マグダラのマリヤやサロメちゃんと一緒に、せっせこ料理を始めました。
「みんなー!がっちり今夜は飲んだっくれるぞ!」
おおーーーーー!
あんちゃんにとって最後の晩餐が始まったのです。さて、その頃カヤパがいるエルサレムの宮殿では。
「キーーーーーーー!!ユダ!インチキ伝道師が、全く自首してくる気配がないザマス!!どうなってるザマスか?!」
「あれ〜?おっかしいな。。。」
「ボケボケとしてるんじゃないザマス!早く様子を見てくるザマス!」
「アイアイさ〜!」
カヤパに命じられたユダは、あんちゃん達がいるところに、スタコラサッサと向かいました。さて、再びあんちゃん達の晩餐会では。
「今宵は随分と盛大ですね?あんちゃんさん、」
「お前は!ロボス!」
そう、常にあんちゃんを悪の道へ誘惑するロボスが、あんちゃん達の晩餐に現れたのです。
「最近は随分とあんちゃんさんも大変だったようで」
「ああ。お前のせいで本当に酷い目に遭ったんだからな!」
「心外ですな。私如きの言葉に、あんちゃんさんが惑わされなければいいことじゃないですか?」
「お前、ちょっと表に出ろ」
弟子達みんなが和気あいあいと楽しんでいるのを尻目に、あんちゃんはロボスを外へ連れ出しました。
「どうですか?初めて味わった妬み、憎しみ、そして暴力を味合わせたい気分とやらは?」
グイっ!
しかしあんちゃんはいきなりロボスの襟首を掴み取りました。
「お前は心まで腐ってやがる!人を惑わせて何が愉しい?!」
「ほう?」
「お前は太陽神ラーを護るウロボロスなんかじゃない。悪魔の象徴ディアボロスだ!これ以上、俺に構うな!」
しかしロボスはあんちゃんのその一言に、深く落胆して溜息をつきます。
「フーーーー。所詮、貴様も一方的で狭い見解しか持てぬ、一般ピープルと変わらないわけか」
「な、何だと?!」
「残念だよ。と〜ても残念だよ、あんちゃんさん。貴様だけは、この私を悪魔と決め付ける事などしない、心が大らかで寛大な人物と踏んでたんだけどな」
悔しいあんちゃんは、ロボスの襟首を掴んだその手を、泣く泣く手放すしかありません。不敵に嘲笑するロボス。
「あんちゃんさん。あんたには最後のチャンスをやろうじゃないか」
「最後のチャンス?そんなもの、こっちから願い下げだ!」
「いや、これをクリアすれば、あんたの可愛い弟子達の命は、ローマ軍に狙われないぞ」
しかしあんちゃんは笑い出しました。
「たっはははは!ロボス、ローマ軍が俺たちを捕まえに来ると思ってるんだろ?あれはカヤパとかいう奴の罠だったのさ」
「フン。ニコデモの見解は、所詮、属州民の浅知恵でしかない。ローマ軍の大隊長に頭突きして、謝りもしないままで済むとでも思ってるのか?」
「?!」
「ローマ人は何よりも名誉を重んじ、そして侮辱された事を誰よりも恥じるのだ。忘れたか?奴らの祖先がメス狼に育てられた事を」
ロボスの手厳しい現実的な見方に、さすがのあんちゃんはビビりました。
「だが、貴様が私の言葉に耳を傾けるというのなら、お前の望みを叶えてやろうじゃないか」
「俺の望み?」
「そうさ。世界中でビッグになりたかったんだろう?今までのようなインチキなミラクルではなく、本当の奇跡を起こせる救世主にさせてやるぞ!」
ロボスは両手を広げ、まるで古くからの友人のフリをします。それを眺めるあんちゃんは、決意して首を横に振りました。
「ありがとうよ、ロボス。でも、もういいんだ」
「どういう事だ?あんちゃんさん」
「何というか、俺はビッグになりたかったんじゃないんだ。ただ、誰よりも目立ちたかっただけさ」
「。。。」
「心が知れてる仲間とバカやって、好きなロックでライブをして、心から愉しめる時間があればいいんだ」
「ビッグになれば、生きている間、世界中に貴様の名前が知れ渡るんだぞ!」
「フッ、名声なんて単なる豪華なシナゴーグ教会と一緒じゃないか?そんなものの為に、精神の自由を売り飛ばして、生きている間の豊かさだけを求めて、何が愉しい?」
「な、何だと?!」
「ロボス、お前は本当にいい奴だよ。でもな、大切なのは何かを得る事ではなく、与え続けたい気持ちさ。それだけで十分なんじゃねぇーか?」
ロボスの表情に、初めて動揺が広がってるのが分かります。それは、あんちゃんがロボスを憐れんでいるからでした。するとロボスは、あんちゃんを払いのけ始めたのです。
「よ、寄るな!このインチキ野郎め!」
「ロボス、お前に何を言われようと、俺はもう気が付いたんだよ。お前が何者であるのかを」
「来るんじゃない!近寄るな!」
「お前はユダとも会っただろうし、あのカヤパって人物にも会った。いや、会ったんじゃない。共にいたんだ」
「や、やめろ!それ以上言うな!」
「怒れる軍神アーレスは、その祈りに応えるように現れたという。つまりだ、お前は神でも悪魔でもない。誰の心の中にもお前が居るだけなんだよな?」
「やめろーーーーーーーーー!!!」
発狂したロボスは、全身の力を振り絞ってあんちゃんの顔にアイアンクローをかましました!
「貴様はこの俺に!憐れみを持つというのか?!」
「違うぜ、ロボス。お前は俺の友達なんだよ。見方を変えれば、お前が俺を惑わした言葉は、立派な教訓だった。その事に気が付けなかっただけなんだ」
「許せん!絶対に許せん!俺は貴様の友達になんか、なってやるもんか!くらええええええ!!」
ガガガガガ!!!ガガガガガ!!!
あんちゃんの顔にアイアンクローしたままのロボスは、何かのエネルギーを送ったのです。
「うわあああああ!や、やめろ!ロボス!」
あんちゃんの瞳は青白く輝き、その苦痛に顔を歪ませてました。
「教えてやるぞ!大工!善意を持つ者には悪意を持つ過酷さを!そして知るがいい!!苦しむがいい!!人間の悪意だけしか見えない世界を!!」
焼きただれるような匂いが、あんちゃんの瞳にどんどん入り込むと、陽気だったあんちゃんの優しい表情は、どんどん苦痛に喘ぐ表情へと変わっていったのです。
「フフフフフ!ハハハハハ!苦しめ!苦しむのだ!信じる者たちからの悪意に!」
続く




