第百二話
<大工のあんちゃん最終章 死闘!!エルサレム神殿編!!>
オリーブ山にあるゲツセマネ園では、一人べそかいてるあんちゃんが佇んでいました。
「おい、元ヤン?」
「なんだ?元大工。泣いているのか?」
トマスとペテロが心配してやってきました。しかしあんちゃんは、すぐに涙を拭って、空笑いしています。
「お、おお。お前ら、すまねー。なんでもね」
「なんでもねーってことはねーだろ?元ヤン」
「そうだ、さっきまでベソかいてたじゃねーか」
するとあんちゃんは涙を拭い去って、カラ元気で振りまいます。しかし二人は心配そうに眺めています。
「ペテロ、心配掛けて悪りーな」
「お前、本当に大丈夫か?」
あんちゃんはそんなペテロ言葉に、少し落ち込んでしまいます。
「俺ってさ、まぁ、自分がワガママじゃねーかって思っちまってよ」
「なんだよ、元大工らしくねーな。厨二病か?」
「そんなんじゃねーよ」
「お母ちゃんのおっぱいでも恋しくなったか?」
「な、なんだとこの野郎!」
あんちゃんは怒ってペテロの襟首をつかみ始めました。しかしトマスとペテロはお互いに顔を見合わせて笑い始めます。
「あはははは、それでこそ元大工だよ。なぁ?トマス」
「へ?」
「ああ、ペテロの言う通りだ」
あんちゃんは不思議がってます。
「人間落ち込むと、どんどん悪い方向に考えて元気が無くなるらしいんだわ」
「だけど、落ち込んでる奴を元気にさせるには、怒らせるのが一番いいのさ、なぁペテロ?」
「ああ!怒れる元気があれば、元大工は普段と変わらねーってことさ」
「お、お前ら!」
あんちゃんは二人の弟子のからの気遣いに、あまりの嬉しさに泣き叫んでしまいました。溜息をつきながらも、ニコっと笑い合うトマスとペテロ。鼻水だらだらのあんちゃんは、嬉しくて嬉しくて、二人にハグをしようとし始めます。
「ちくしょう!本当にいい奴だな~!」
「だーーー!きったねーな!元大工」
「トマス!俺の感謝の気持ちを受け止めてくれぇ!」
「先ずはそのバンジージャンプしている鼻水、何とかしろよ!」
そんなあんちゃんの姿を陰で見ているロボスは、口元を緩ませて嘲笑しています。
「さてさて、あんちゃんさん。今度はどうするかね?」
次の日。賑やかなエルサレムでは、懲りずにパウロがまたまた挑戦しにやってきました。
「こらー!元大工!今日こそ貴様を叩きのめしてやる!」
「おう?パウロちゃん。今日も懲りずにやってきたのねん」
「笑っていられるのも、今のうちだ!
「フフフフ!安心しろ。昨夜思いっきり泣いたから、今日の俺は一味違うぜ!」
「な、泣き虫な野郎め!勝負だ!」
「おう、望むところだパウロちゃん!」
<大工のあんちゃん VS パウロちゃん討論バトル in エルサレム神殿 第四戦!>
「大工!あんたは奇跡を起こしたそうじゃないか!」
「奇跡?あーミラクルの事か」
「それって、自分が神様って言っていることとおなじだー!」
「おいおいパウロちゃん。随分と今日は過激だな」
「忘れたのか!モーゼの十戒を!」
「どれどれ?」
"一、神様はたった一人じゃ!"
そうです。十戒に厳しく刻まれているように、ユダヤ人達にとって神様は一人だけ。奇跡を起こせるのは神様だけとされているユダヤ人の中で、あんちゃんのミラクルは目に余るものがありました。
「おいおいパウロちゃんよ~。きょうびの芸人でも、ミラクルは起こせる時代だぜ?」
「水をワインに変えただの、水の上を歩いただの、死者を生き返らせただの」
「なんだ?その噂は。どこで聞いたんだ?」
あんちゃんはすっかり昔の事を忘れていました。
「ここにいるみーんなが、お前の事を奇跡を起こす救世主って言ってるぜ」
「それはきっと、何かの誤解だな。俺は飯屋なんかじゃねーし」
「ボケるのもいい加減にしろ!救世主だ!」
「たははは、ばれてたか。まー救世主かどうかよくわからんが、困っている人がいたら助けたいな」
「フフフ!それが、インチキで人を騙しているってことだ!」
ピキン!
あんちゃんは少しイラつきました。
「なーに?俺がインチキだぁ?」
「ああ!もしインチキじゃないんなら、ここで奇跡を見せてみろって!」
ピキン!ピキン!
あんちゃんは結構イラつきました。
「おいパウロ!人をインチキ呼ばわりして、タダですむと思うなよ!」
「へへーんだ!奇跡を起こせないから怒ってるんだろ?」
ピキン!ピキン!ピキン!
あんちゃんはもはやイラつきを隠せません。
「なんだと!?」
「へへーんだ!いつもの屁理屈はどうした?」
「この〜やろう!!」
ゴツン!!
あんちゃんは、必殺技の頭突きを食らわしました!パウロはおでこにでっかいタンコブを作り、身体をぴくぴくさせ、失神して倒れてしまいました。
カンカンカンカン!カンカンカンカン!
今回はあんちゃんの反則負けです。民衆もあんちゃんの理不尽に、唖然とするしかありません。
「おい!元大工、頭突きしてどうすんだよ!?」
「うっせー!この生意気なクソガキが、俺をインチキなんて言うからよ!」
「だからって、元ヤン。本気で頭突きしなくたっていいだろうが。。。」
「うるせー!うるせー!調子に乗ったこいつは、そのー、そうだ、ば、罰が当たったんだ!」
「罰が当ったって、自分でやっといて、そりゃあねーだろ」
トマスのキツイ言葉に、言っちまったあんちゃんは何も言い返せず、怒ったままその場を立ち去ってしまいました。当然その後には、マリア母ちゃんから大目玉をくらい、反省しきって
「はぁー、インチキって言われたくらいで、頭突きしちまうだなんて。。。」
あんちゃんお気に入りのゲツセマネ園では、今夜のあんちゃんはかなり落ち込んでます。
「なんだブラザー?落ち込んでんのYO?」
「ああああ?!ユダ?ユダかよ?」
啖呵を切って飛び出したはずのユダが、ひょっこり戻ってきたのです。
「へへへへ、ブラザーのヘッドバット。最高だったYO!」
「かぁ〜!お前も見てたのか?」
「まぁ、あれはパウロが小馬鹿な態度で調子乗ったから、罰が当たったんだYO」
「だろ〜?やっぱりそう思うだよな~」
あんちゃんは涙を流しながら、ユダに同意を求めます。しかしユダはあんちゃんを油断させるために、味方の振りを続けました。
「一生懸命なブラザーに対して、口だけの奴が偉そうにしゃしゃり出てきて、その上ブラザーをインチキ扱いしやがってYO」
「だよな?俺だって頑張ってるのにさ。やっぱりユダ、お前は俺のことをちゃんと理解してるぜ〜。ありがとな」
そんな気さくなあんちゃんの笑顔に、一瞬自分の任務を忘れるユダ。首を横に振って、我に返ります。そうです、ユダはカヤパの計画を遂行しなければいけないのです。
「ブラザー。俺はいつだって味方だからよ、応援してるぜ」
「おお!お前にそう言われると、なんだか元気が出てくるぜ」
「ちなみにブラザーは明日、どこら辺で集会を始めるんだ?」
「え?そーだな、まぁ南口らへんかな?」
「み、南口だな?了解了解。さーってと、戻るかな」
慌ててるユダに、あんちゃんは少し寂しそうな顔をします。
「なんだよ、ユダ。お前、もう帰っちまうのかよ?」
「ああ、俺も色々と忙しいからYO!ブラザーといつまでもダベってらんねーんだわ」
「そっか、連れねー奴だな」
するとユダからデコピンをされたあんちゃん。
ぺちん!
「あいて!な、何すんだ!ユダ!」
「ったく、ブラザーが情けーねこと言ってんなよ」
「だ、だってよ」
「大体自分が落ち込んでる時にしか、引き留めねーくせに」
「そ、そんなことねーよ」
「そんなことあるだろーがYO!俺が何度抜け出しても、引き留めなかったじゃんかYO!」
ユダの鋭い突っ込みに、あんちゃんの心はかき乱されました。そうなる居ても立っても居られなくなって、頭を掻き毟って苛立ちを露わにします。
「だーーーー!俺はやっぱり、ただ人に愛されたいだけの、惨めで中途半端なクソガキなのか~!?」
「しらねーYO!」
「それとも、多くの人を巻き込んで不幸にさせる、宇宙一のエゴイストなのか~!?
「どっちともじゃねーかYO!」
苦しむあんちゃんを尻目に、ユダはシメシメとほくそ笑んでます。
「わりーなブラザー。今の俺の目の前には、ビッグ・マネー!ビッグ・チャンスが大切なんだYO!」
続く




