第十話
大盛況に終わったガリ・フェス。アニキ・ザ・ヨハネと大工のあんちゃんは、仲良くバック・ステージで話してます。
「よう、大工!」
「アニキ!残っててくれたんですね?」
「ああ、もちろんだ!凄い盛り上がりだったな?さすが最近人気のポストパンクは、やることがファッキングレイトだな。え?おい」
「えへへ、いやー。アニキのパンキッシュなライブには、まだまだ足元にも及ばないっすよ」
「生意気な口利きやがって、十年早ぇって」
「えへへ、すいやせん」
するとアニキはライブ・スタイルの事を話し出しました。
「ところで大工、お前はライブの最後に『愛』なんてものを叫んじゃってたけど、ありゃ?どういう事だ?」
「え?」
「確かに大切な物かもしれねぇ。でも、それで腹空かした子供達を救えるのか?」
「あ、いや。。。」
「まだマリファナの草吸って愛を高らかに歌い出してた、ボブ・マーリーの方がマシだぜ」
更にアニキは、大工のあんちゃんの両肩に手を置いて、真剣な眼差しで語り出します。
「それにだ、最初はフォークで、次はソウルで、終いにはマイケル・ジャクソンって。大工、お前は、それで何を表現したいんだ?」
「ああ、いや。。。」
「スタイルだよ、スタイル。お前の音楽スタイルには、何か、こう、一貫としたスタイルがねぇーんだよ」
「スタイルっすか。。。」
その言葉に酷く落ち込んでる大工のあんちゃん。アニキはそんな様子に鼻を鳴らし、その場を去って行きました。
「先生?」
「悪い、ペテロ。しばらく一人にしてくれないか?」
そう言うとあんちゃんは、一番弟子のペテロにアコギを物悲しく渡し、トボトボとその場を去って行きました。
「マタイ。やっぱり、さっきアニキに言われた事が、多分ショックでかいんだよ」
「確かにな、ペテロ。でもきっと、アニキがあんな風に先生に言ったのは、自分のライブより先生のライブの方が盛り上がったから、悔しかったに違いないのさ」
「でも、アニキの言い分も分からなくもない。アニキのパンキッシュ・スタイルは、ユダヤ王国だろうがヤクザ・ローマ帝国だろうが、中指立てて斧を取って奪い取れってことだろ?大工に比べたら、目に見えて分かりやすいもんな」
心配になったマタイは、大工のあんちゃんにバレないよう、岩陰に隠れながら追いかけました。
「畜生!あのパンク馬鹿め!言いたいこと言いやがって!単にお前らパンクは好き勝手に叫んでるだけじゃねぇか!」
あああ。
やっぱり悔しかったあんちゃんは、涙を流しながら辺りに八つ当たりして蹴散らしてます。
「うううう、先生。ご心痛お察しいたします」
憐れみを感じたマタイは、岩陰に隠れながら同情していました。すると、大工のあんちゃんの目の前に、汚い格好した少年が倒れていました。
「僕はジェイコブ。最近腹減って、何も喰ってないんだ」
「何?!マジかよ!」
後ろからついて来たマタイは、その汚い格好したジェイコブに見覚えがありました。何と、ニートで弟のジェイコブでした。
「あ!ジェイコブ!あいつ、家を飛び出したと思ったら、あんな所にいやがって」
実はジェイコブは、余りにも仕事をしないもんだから、家をおん出されたのです。そこで彼は浮浪者の格好をして、自分は働かず、他人から食べ物をたかっていたのです。
「腹減った」
「うーん、参ったな。何か食わせる物が無いしな」
大工のあんちゃんは、腹減って死にそうなジェイコブの為に、何か足しになるような物は無いかと、身体中を探しますが、あいにく食べ物はありませんでした。
「もうダメだ、目の前が真っ白い~」
「ま、待て!」
「天が僕を迎えに来てくれた~。ダメだ~。腹減って死ぬ~」
「おい!こら!ジェイコブ!」
ジェイコブは白目を向いて、死んだふりをします。大工のあんちゃんは必至に人工呼吸で蘇生を試みておりました。しかしそれを岩陰で見ていたマタイは怒ってました。
「くっそう!ジェイコブめ。また、死んだふりして食べ物タカリやがって!」
兄のマタイは、死んだふりまでするジェイコブのタカリ方に、一発懲らしめようと思いました。大工のあんちゃんは一生懸命ジェイコブの頬を叩きますが、死んだふりをしたままです。
"確かに愛は大切な物かもしれねぇ。でも、それで腹空かした子供達を救えるのか?"
そんな時、大工のあんちゃんの脳裏に、パンキッシュなアニキの言葉が響き渡ります。相当悔しかったのか、恥も外聞もなく、とうとうワーワーと泣き出してしまいました。
「うわーーーん、スマねぇ!」
「え?!」
「わーーーーん!俺は偉そうな事を言ってるが、グス!目の前に腹減った汚い小僧一人、助ける事が出来ないなんてぇーーー!わーーーーん!」
「あ、いや、まだ死んでないって」
すると我慢の限界に耐えかねた兄のマタイは、ジェイコブにゲンコツを食らわせます。
ゴツン!
「こら!ジェイコブ!お前、いい加減にしないか?!」
「マタイ兄ちゃん?!」
「へ?に、兄ちゃん?」
涙と鼻水でグチャグチャになって泣いてた大工のあんちゃんは、状況が理解できてませんでした。
「いいか?先生は純粋なお方なんだ!それを物乞いみたいな格好で騙しやがって!この馬鹿野郎!」
「イテテテ!殴らないでよ、兄ちゃん!」
「お、お前達、兄弟だったのか?」
「すいやせん、先生。こいつはニートの弟ジェイコブ。他人から食べ物をタカるのが得意な奴で。ジェイコブ!先生に挨拶しろ」
「す、すみません。まさかあの有名な大工の人だなんて知らなかったもので……」
大工のあんちゃんは、唸りながら、両手に拳を握りしめ、俯いてしまいました。
「ほら見ろ!お前が死んだふりしたから、先生、とうとう怒っちゃったじゃねぇか!」
「イテテテ!兄ちゃん、痛いよ」
「ちゃんと先生に謝れ!」
「わ、分かったよ!だから、髪の毛を引っ張るのだけやめてよ~!」
「先生に殴られる前に、心から詫びて謝れ!」
既に大工のあんちゃんは俯いて唸りながら、ジェイコブの両肩に手を置きます。
「うううう、お前な~!」
「ヒッ!ご、ごめんなさい!!」
さすがのジェイコブも殴られるだろうと、両目を必死に閉じて殴られる覚悟をしました。
「うわあああああん!生きてるじゃねぇかよ!!!良かったな~!!」
何と大工のあんちゃんは、ジェイコブが死んでなかった事に感動して大泣きしていたのでした。感動したあまり、ジェイコブに抱きつくあんちゃん。
「本当に死んでなかったんだな~!良かったぜ!ジェイコブーーー!」
あんちゃんのバンジージャンプしている鼻水が、ジェイコブの顔にベットリついてます。隣で見ていたマタイも、あんちゃんの喜んだ姿に嬉し泣きをし始め、二人の所に抱きついて猛烈に感動しています。
「うおおおお!ジェイコブ!生きてて良かったなぁ~」
「うわーーーん!先生!あんたって、なんていい人なんだぁ~!」
「あのー、お二人さん?感動するのはいいんですけど、二人の涙と鼻水で、僕の顔がベットリなんすけど……」
こうして、マタイの弟ジェイコブも、良心の呵責(あーんど、働かずとも食べ物にありつけそう)から、大工のあんちゃんについて行くことになりました。
続く




