第一話
これは、約二千年もの間、全世界で広く語り継がれてきた物語である。そう、様々な解釈を経て...。
じゃじゃーーーーーんん!
時は西暦元年!!ユダヤ王国のエルサレムから少し離れたナザレという場所で、ある夫婦が喧嘩していました。
「やいマリア!お前!浮気しただろう!?」
「してないわよヨセフ!だからさっきから言ってるでしょう?突然太陽みたいにお腹が光ったと思ったら、妊娠しちゃったのよ」
「そんなこと信じられるか?!預言者モーゼの十戒にも、『姦淫するな』、『偽証するな』って書いてあっただろう!」
「あたしはしてないって!大体、一日で妊娠するわけないじゃない!」
二人の名前は大工のヨセフとマリア。ことの始まりは、ヨセフが一日留守にしている間、エッチもしてないのにマリアが妊娠しちゃったと告白してきたのです。
「この雌豚め!ぶっ殺してやる!」
「やれるもんならやってご覧なさいよ!それこそ十戒に『人を殺すな』って書いてあるじゃない」
「くっそう!」
夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますが、モーゼの十戒は絶対だし、どっちにしても妊娠したもんはしょうがないっと言う事で、とりあえず仲直り。おまけに産気づいて、馬小屋で産む羽目に。
こうして、世界で超有名な大工のあんちゃんが産まれました。
名前はあるけど名字などありません。昔から運だけは良かった大工の息子あんちゃんは、すくすく育ち、ヨセフ父ちゃんの仕事を引き継いで大工になりました。ところが、けっこう怠け者なところもあり、色々考えて行くうちに、だんだん大工がかったるくなってきます。
「なんだか、俺の仕事って大工じゃねぇよ。なんというか、中産階級と労働者階級の格差社会?感じちゃってしょうがないし、なんちゅうの、そもそも不公平なのおかしいって。そうだよ、俺の仕事ってそんな世界をぶったぎるような、そう!ビッグな人間になるような仕事じゃね??」
そうなると仕事も飽きてきて、頭のいいギリシャ人哲学者相手に、哲学ラップで真っ向勝負!これが結構面白くて、仕事もせずに四六時中話ディスってばっかり。さすがの放蕩息子に父ヨセフも一喝します。
「このバカ息子!ラップもいいが、いい加減ちゃんと仕事しろ!」
「親父YO!俺は最近、大工なんか向いてねぇと思うわけYO!なんちゅうの、こう、世界を変えるYO!ビッグな男に成りたいわけYO!」
「この野郎、親に向かって、なんだその言葉遣いは?!大体、お前がビッグになんかなれるわけないだろ!」
「なんでだYO??」
「馬小屋で生まれたんだからな!」
「えええええ!?う、馬小屋?!」
大ショック...。
もう仕事なんかやってられっか!ってな感じでやけっぱち。おまけに変な事まで考える始末。
「なんか最近うっすら気が付いたけどYO!あのクソ父親は、本当の親父じゃない気がするわけYO!そうだYO!俺は、こんな所でくすぶってちゃいけねぇーんだYO!」
結構勘は鋭く、度胸のある大工のあんちゃん。仕事も放り投げて、金も持たず家を飛び出しちゃったのです。ところがまともに生活ができるわけなく、殆ど浮浪者状態。食うものも困って、ふらふらしていると、同じ浮浪者でありながら、ユダヤ王国に中指立ててるパンキッシュな人気者がいるではありませんか。
そいつの名前は、ザ・アニキ・ヨハネ。ライブの演出は、観客にヨルダン川の泥水をぶっかけること。
「いいか?!エブリバディ!ユダヤ王国なんてファックだ!ヤクザローマ帝国もサノバビッチだ!奴らもお前達も変わらない人間なのさ!!」
「うおーーーーーー!!アニキ!」
「アニキ!すげーーー!!」
さらに、立派な髭があるもんだから、これまたスーパースターの預言者モーゼくんとそっくり!結構ミーハーな大工のあんちゃんは、一発でアニキに憧れ、すぐにラップを捨ててパンクに鞍替えして入り浸ります。勿論、食物目当てもありましたが。
「アニキ!モグモグ、あんたに、モグモグ、相談があるんだ!」
「どうした?ナザレの坊主」
「俺も、モグモグ、あんたみたいに、モグモグ、ビッグになりてぇーんだ!でも、どうすればいいんだ?」
アニキのヨハネと出会った大工のあんちゃんは、自分が何していいのか分からず、アニキに自分の思いのたけをぶちまけたのです。
「そうか、大工のあんちゃんよ。だがよ、これからは思い込みの時代だ!ローマ帝国の奴らだって、最初は狼に育てられた双子からだったんだ」
「なに?!」
「"ローマは一日にして成らず"だ!自分がビッグな人間になれると思いこめば、お前もいくらでもなれるぜ!」
「まじかYO!?」
「ああ!どうだい?泥水かぶって洗礼してみないか?効果はおれが保証する!俺達は生まれる前から、兄弟みたいなもんだったんだからよ!」
「分かったよ、ヨハネっち!おれもあんたのパンキッシュな精神を受け継いで、俺も世界をとどろかせるようなビッグな人間になるよ!」
泥水かぶった大工のあんちゃん。ところがビックリ!アニキを超える水も滴るいい男で、しまいにはアニキの女性ファンも取り込むほど。あんちゃんの人気はうなぎ上り。まぁ、当時のユダヤにうなぎなんていなかったけど。さすがにアニキもムッときている。
「アニキ!見てみろよ!この人気!神懸かりだぜ!これで俺もビッグか?」
「(イラっ)いやまだだ、髭の長さが足りない」
「何だよそんなことかよ、でも見てみろよ!この観衆の黄色い声を!もう、俺ビッグでよくねぇ?」
「(イラっ!イラっ!)いやまだだ。黄色い声だけではダメだ。砂漠で断食をしてこそ、ビッグになるんだ」
「断食ってなによ?」
「(イラっ!イラっ!)言葉の意味はどうでもいい。とにかく、さぁ、いざ行け!」
半ば放り出された大工のあんちゃんは、アニキの助言通り、ヨルダン川に沿って砂漠へ向かいます。しかし、計画性もなく行き当たりばったりなので失敗しました。なんと、アニキから洗礼してもらったけど、食糧をもらうのを忘れていたのです。
「腹減った!ちくしょう!ヨハネの野郎、調子いいこと言いやがって、結局追い出しただけじゃねぇーか!」
とりあえずひとりで砂漠で空腹を紛らわすために寝っ転がっていると、何者かの囁きを耳にします。
一回目
「おい、大工のあんちゃん腹減ったか?」
「誰だ!?」
「俺に跪け、そしたらパンやるぞ」
「やべー、腹減りすぎて、幻聴が聴こえてきたわ。おっかしいな、ヨハネんとこで変なクスリやってないし」
「どうしたあんちゃん?」
「何だよ?誰だかしんないけど、話しかけんなよ。腹減って無理だ、動けない」
二回目。
「大工のあんちゃん、お前はビッグになりたいんだってな。どうだ?俺と組めば、王様にしてやるし、好きな女とも乱交やり放題だぞ」
「???!!好きな女?!乱交やり放題ってなんだ?」
大工のあんちゃんには、全く意味が分かりませんでした。だって童貞だもの。
三日目
「分かった、大工のあんちゃん。俺と組めば、ビッグどころか空も飛べるんだぜ?これでどうだ!安く負けとくぜ!ちょこっと頭下げればいいんだ」
「わりーな、せっかくの誘いだっちゅのに。どこかの親切な誰だか知らないけどさ、もう腹減り過ぎて喋りたくねぇんだわ。頼む、他の奴に当たってくれ」
するとその囁きはいつの間に消えてしまいました。よーく考えたら、お腹が空いていて、腹が鳴っていたただけなのかもしれません。さらによーく気が付いたら、近くにはヨルダン川があるじゃないですか。早速、水を飲みに行ったあんちゃんは、水面に映る自分の姿にびっくり。
「おいおいおい、俺ってあのモーゼより立派な髭じゃん!イケテルネ!???これが断食だったのか!」
断食をダイエットと勘違いしたあんちゃん。しかし、そのおかげで顎鬚も生えて、頬骨もこけて、スマートになって預言者っぽくなってきました。さらに空腹を我慢し過ぎた為に、そんなに飯を食わなくても、生きていける事に気が付きます。
「これって飯食わなくても生きてけるじゃん!なんだよ、腹もすかねーよ!よっしゃ!愛だ!何かいい響きだね~。これは愛なんだ!俺は愛を世界に伝えるぜ!」
言葉の意味も分からず、響きの良さで気に入ったらしい。こうして、大工のあんちゃんは、無職だけど夢いっぱい、愛もいっぱいのビッグなスーパーニートを目指す、サクセスストーリーが始まるのです。
続く