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桜子編 5

父が出征して 十日、

父から手紙が届いた。


大陸は寒いが 食料は日本よりは、まだ多く、腕を振るっている。家族仲良く、元気で、との内容だった。



母は少し 安心したようだった。



桜子や薫子は 元気のない萌子に 何度も父の手紙を読んで聞かせた。


「お父さんは お国のために 遠いところで働く兵隊さんたちに おいしいご飯を作っているのよ。だから 安心してね。」


というと 萌子は笑顔で頷いた。



山本少尉は 戦地に送ってあげようと、母や姉妹全員の絵を 時間があるときに 書いてくれた。


みな 絵のモデルになるのに 照れくさそうだった。



その後も 定期的に 父からの手紙が届いた。


母や姉妹たちは、次第に 父のいない生活に慣れていった。



相変わらず、近くの町には空襲があり、夜中に防空壕に入ることもあった。


山本少尉は 任務が忙しいのか、朝早く家を出て、帰ってくるのも 遅くなっていった。

雫子は どんなに帰りが遅くなっても 少尉の帰りを起きて待っていた。


お風呂を沸かし直したり、食事の支度をしたり かいがいしく やっていた。二人は まるで夫婦のようだった。



母も そうなってくれることを望んで 雫子に任せていたのだろう。



しかし 山本少尉は 自分の番がきたら 人間魚雷に乗り込み、敵艦に体当たりをしなければいけない任務を抱えている。

それは 『必死』の任務であり、少尉にとって、どんなにのぞんでも 雫子との 結婚など 無理なのだ。


出陣でなくとも 日頃の練習段階での 事故死も 多くある。


山本少尉は そのような任務であることを 感じさせないくらい、美月家にいるときは 朗らかで優しい。


山本少尉と雫子は 日々、お互いの思いを募らせていたが 恋をしてはいけないと思うばかりに、少尉はつらくなるばかりだった。



一方、桜子も 学思に対する ほのかな恋心を胸に秘めていた。



ある朝、勤労動員先の海軍工廠に向かい、自宅を出てすぐ、中学に通学途中の 学思にばったり出会った。


学思と 目が合っても 彼はあいさつさえも してくれない。

ずっと最近 学思は 桜子に対して そんな態度をとる。


桜子は 悲しくなって、今日こそは 彼と 話そうと、学思を 追いかけた。


「学思くん、こないだはお母さんや 姉さんのために、魚ありがとう。凛子姉さん、褒めてたよ。頼りになるって。」


「べつに、父さんや兄貴がいたら 同じことをやると 思ってやっただけだよ。」

学思は 桜子のほうを見ずに そう言った。


「ねぇ、私 学思くんに 何か悪いことした? 何か、私のこと 避けてないかしら?」


学思は 慌てたように 言った。


「べつに そんなことないよ・・」

「ほんとに?」

「ああ。女と話してるの見つかったら 非国民って言われるからな」


「オンナ・・?」


学思は 顔を 赤くして 足を速めて 歩いて行った。


桜子も 少し顔がほてってくるのを感じた。


学思が 自分のことを ただの幼なじみではなく 一人の女としてみてくれている。


それがうれしかった。


ほかの姉妹には 今までとかわりなく話をするのに・・・。


暗い毎日に 少し光がさした気がした。




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